ドワーフとアビス
さて、ドワーフのおっさんはどこにいるのだろう? 宿かな?
そういえば、ダンジョンに工房を作るとか言っていたような気がする。もしかしたらここにいるのか?
「アビス。ドワーフのおっさんはここにいるのか?」
『グラヴェ様なら作成した工房にいます』
ちょうどよかった。早速会いに行こう。
「工房はどこだ?」
『このフロアの奥になります。転移しますか?』
おお、便利だ。歩くのは大変じゃないが時間を節約できるのはいいな。
「わかった。転移してくれ」
『お待ちください。現在の通貨に換算中……。料金は大銅貨八枚です』
よし、まずは落ち着こう。こういうのは慣れっこだ。怒ってはいけない。冷静に、そしてクールに対処するのだ。決して壁を殴ってはいけない。
「転移に硬貨が必要なのか?」
『はい』
理由を言って欲しいのだが、返事以上の回答がない。
「えーと、何でだ?」
『ここがダンジョン型アトラクションだからです。関係者でも無料での利用はできません。なお、提示額は関係者割引を適用しての金額です。前回、皆さんを無料で外に転移したのはプレオープン中だったからです。あしからず』
プレオープンってなんだ? だが、他に気になることがある。
「関係者割引とはなんだ?」
『このアトラクションの関係者に関しては料金を割引する制度です』
私は関係者だから料金を割り引いている、という訳だな。割り引いて大銅貨八枚か。ニアの料理が昼と夜に食べられる値段じゃないか。歩こう。時間よりも大事なものがある。
「歩くことにした。案内してくれ」
『はい、では通路に緑のランプを点灯させますので、その通りに移動してください。これはサービスです』
「……助かる。でも、サービスなら転移のサービスをしてほしかった」
『申し訳ありません。自分、不器用ですから』
それ関係ないよな? まあいい。昨日は食べ過ぎたし、少し歩こう。
しかし、暇だ。アビスと話でもするか。だが、何を話そう?
そうだ、コイツは旧世界の物だ。なにか面白い情報を持っているかもしれない。となると日記の事を聞くのがいいかもしれないな。
「アビス、ちょっと聞きたいことがある」
『なんでしょうか?』
「管理者ってなんだ?」
『それは一般的な意味の管理者ですか?』
なんといえばいいだろう? いや、一般的な意味と聞いているのだから、違う方と言えばいいのかな。
「違う。一般的じゃない方の管理者だ」
『世界再生のために作られた無限演算装置の事を指します。創造主の補助を行うため、単にサポートAIとも言われています』
色々な知らない単語が出てくるから、言葉は分かるけど意味が分からん。
「なにを言ってるか分からん。もっと簡単に言ってくれ」
『世界を管理している思考プログラムです』
思考プログラムというのは、アビスのような自律型の思考だったか? でも、世界を管理ってなんだ?
「世界を管理しているというのはなんだ?」
『言葉の通りの意味です』
いや、その意味が分からないのだが。なんと聞けばいいのだろう?
「えっと、世界の管理というのは具体的にどういうことをしているんだ?」
『主に人族の監視です。また、楽園計画に支障がでないように管理、運営も行っています。人族に直接介入することはありませんが、疑似生命体を使って介入する場合はあります』
人族を監視してるのか。それに楽園計画というのは日記にもあったな。
「楽園計画ってなんだ?」
『フェル様にはその情報を知る権限がありません』
権限がない? それはアンリのようなマスターではないからか?
「もしかしてアンリになら教えられるのか?」
『自分への命令権限のことではありません。情報セキュリティにより、情報の閲覧権限がないということです。したがって私からも教えることはできません』
よくわからん。だが、簡単に言えば教えられない、ということか。
「どうすれば教えてもらえる?」
『閲覧権限を変更するしかありません。しかし、権限を変更できるのは創造主、もしくは管理者のみです』
「アビスでも無理なのか?」
『情報の閲覧権限はありますが、権限を変更することはできません』
駄目か。でも、魔王様なら知っている可能性がある。魔王様はなんでもご存じだからな。なら、無理に聞く必要はないか。
「色々と分からんことは多いが何となく分かった。最後に一つ教えてくれ。創造主ってなんだ?」
『旧世界を生き残った人間達の事を指します。その生き残りが人族や魔族を作り出しましたので便宜上、創造主と言っています。当時は八名いましたが、現在は一名のみです』
人族や魔族を作った? なんだかいきなり胡散臭くなったぞ。
「なんか嘘くさいな」
『私の情報を疑いますか。だからフェル様はアンリ様より権限が低いのです』
「いや、関係ないだろ。もしかして怒ったのか?」
『怒ってません。ちょっと冷却装置が激しく動いているだけです』
よく分からないが怒ってないならいいや。
『着いたようです。その扉を開けてください』
ようやくか。早速入ってみよう。
「たのもー」
「おお、フェルか! アビスとやらは凄いのう! たった一日でこんな立派な工房を作ってくれたぞ! これなら今からでも鍛冶を行えるわい!」
部屋の中は結構しっかりした造りの鍛冶工房になっていた。詳しくはわからないが、金属を打つような台とか、熱そうな窯みたいなものがある。
素人の私が見ても立派な感じはする。だが、アビスはどうしてこれを提供したのだろうか?
「アビス、なんで工房をおっさんに提供したんだ?」
『グラヴェ様が作成した武具を参考にして魔力による製造を行うためです』
「儂の作った物を参考にする?」
『はい、作成したものはドロップアイテムとして出現させる予定です』
ドロップアイテムってなんだ? 落とし物?
「ふむ、参考にするのは構わんが、残念ながら儂は鍛冶師としてはランクが低いんじゃ。日用品ならともかく、儂の作った武具を参考にしたら、タダのゴミじゃぞ?」
自虐にもほどがある。まあ、作った物を見たことがないから何とも言えないが。でも、日用品が大丈夫で、武具が駄目ということがあるのだろうか。
ヴァイアみたいになんか変なスキルを持っていたりするのかな。
『その辺りの原因は判明しています。これまでに作った物をスキャンして状況が分かりました』
「なんじゃと? もしかして鍛冶の腕が悪いのは原因があるのか?」
なんだか、おっさんが驚いた顔をして聞き返している。まあ、原因が分かるなら知りたいよな。
『原因は魔力の込めすぎです。グラヴェ様が作成した武具を確認しましたが、魔力強度以上の魔力が込められているため崩壊寸前です。もうすこし、いい加減に作れば解決です』
ドワーフのおっさんはきょとんとしている。小さいけど特に可愛くはない。
「ど、どういう意味じゃ?」
『グラヴェ様はドワーフにしては魔力が高いのです。気合を入れて鍛冶を行っているのでしょう。そのため魔力が溢れだして武具に魔力が流れているようです。鉄などでは魔力強度が低いため、原型を留めておくことができません。それが鍛冶の腕が悪い、と言われている原因です』
なるほど。だが、それだとおかしくないか?
「それが原因なら、日用品も同じだろう?」
『おそらく武具と違って気合を入れて作ってはいないのでしょう』
おっさんを見る。スッと目を逸らされた。当たりか。
「日用品の時は手を抜いていたのか?」
「そういう訳ではないが、武具と比べるとな、その、ちょっと手を抜いていたかもしれない、という可能性がないわけではない」
言い方が面倒くさい。手を抜いていた、でいいだろうが。
「まあ、仕事とは言え、好き嫌いはあるものだ。別に責めるつもりはない。でもこれからは日用品でもちゃんと作ってくれ」
「む、そうじゃな。しかし、気合を入れずに作るのはどうすればいいんじゃ? 長年のやり方があるから難しいのじゃが」
『そこで自分の出番です。グラヴェ様から溢れる魔力はこちらで回収します。気合を入れて作っても武具に魔力が込められることはありません。この手が使えるのは、この工房だけですが』
「おお、本当か! よし、それなら早速何かを作ろう!」
なんかやる気になってる。まあ、頑張ってくれ。そうだ、ミスリルを渡しておこう。金メッキはいいか。これはどこかで売ろう。
「これを渡しておく。頼んでおいたのは覚えているな? ちゃんと作ってくれよ」
「ミスリルか! よし、まずはアンリ嬢ちゃんの剣を作るか!」
「いや、剣は後にしてくれ。先に腕輪とか包丁とか針だ。メイスはいつでもいい」
おっさんの顔が嫌そうな顔になった。金は払ってないけど、残りのミスリルはやるんだから客の要望を聞け。
『アンリ様の武器なら最優先で作る必要があります』
「いや、ない。というか、なんでアビスまで擁護している? ……いや、理由は言わなくていい。何となくわかった。とにかく、時間が掛からないものから作ってくれ。お土産として待たせているし、アンリの剣はまだ構想が出来ていないだろ?」
とりあえず、二人は納得してくれた。面倒くさいな。
「じゃあ、帰る。頑張れよ」
やることは終わった。魔王様からの連絡を待たないとな。
扉を開けて通路に出る。
……そうだ。そもそも大坑道の事を聞きに来たんだ。このまま帰っては意味がない。戻ろう。
「すまん、大坑道の事を――」
『どうせバレないのでアンリ様の剣を作りましょう。これは最重要課題です。まずはプロトタイプを作ってからアンリ様に意見を聞くのです』
「アビスも悪い奴じゃのう。だが、その意見には賛成じゃ!」
説教した。
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