エルフとダンジョン

 

 ミトルたちを連れて宿を出ると、広場ではステージの解体作業が始まっていた。


 村長やロンが色々と指揮しているようだ。


 そうだ、エルフたちがもう一泊するのとダンジョンに連れていくことを話しておこう。


「おや、フェルさん、おはようございます」


「おはよう。忙しいところすまないが、ちょっといいか?」


「はい、なんでしょうか? また、面倒事ですかな?」


 またってなんだ。私がいつも面倒事を持ってきているような言い方をしてほしくない。村長の顔が笑っているから冗談だとは思うが後でお話が必要だな。


「エルフたちをもう一晩泊めたい。構わないか?」


「それは構いませんが、どういった理由で? 本当に面倒事ですかな?」


「面倒事ではない。実は今日、魔界から魔族が来る。そいつがエルフの欲しい物を持ってくるんだ。だが、到着するのは夜だから、それまでエルフたちに待ってもらうと帰りが夜中になる。それならもう一晩泊まってもらおうかと思っただけだ」


 村長が固まった。驚いたようだが、呼吸はしてるよな? 歳だから心配なんだが。


「魔族の方が来るのですか? 今日?」


「そうだ。大急ぎで来るように伝えた」


 随分と村長は考え込んでいる。問題がある行為だっただろうか?


 この村とは結構いい関係を結べているので、二、三人ぐらい魔族を呼んでも問題ないと思ったのだが早計だったか。


「その、なんだ。魔族が来ることに抵抗があるか?」


「ああ、いえいえ、そういう事ではありません。せっかくなので歓迎会でも開いた方がいいかと思ったのですが、ステージは解体を始めてしまいましたからな。うーむ……」


 私の考えとは真逆だった。だが、何するつもりだ。ステージを使うほどの歓迎だから、また出し物とかするのか?


「いや、そういうのはいいから。なんというか、そういうことをすると調子に乗るタイプの魔族だ。何もしなくていい」


「もしかして、お一人なのですかな?」


「ああ、今回来るのは一人だけだ。二、三日だけ村に滞在してから魔界に帰らせるつもりだ。その後、もう一人来る予定だが、ソイツは一週間程度の滞在になると思う」


 総務部の奴には食材を持って帰ってもらいたいし、開発部の奴はダンジョンの確認に時間が掛かるかもしれないからな。


「色々とあるのですな。分かりました。宿の方でちょっとだけ宴をしましょう。もちろんエルフの皆さんもご一緒に。泊まっていただくのも問題ありませんぞ」


「そうか、助かる」


「ははは、助かっているのはこちらですよ。ところで、エルフの皆さんとどこかに行かれるのですかな?」


 私の後ろにいるエルフたちを見ながら、そんなことを聞いてきた。そうだ、それも説明しておかないと。


「これからダンジョンを案内してくる」


「アンリが言っていたダンジョンですな? なにやら、マスターになったとか言っていましたが」


「ああ、アンリがマスターとして登録された。あのダンジョンではアンリが絶対的な権限を持つ。……私よりも権限が高いらしいぞ」


 悔しくはない。悔しくはないが、色々と納得がいかない。開発部の奴が来たら権限を変更する方法がないか聞いてみるつもりだ。


「よく分かりませんが面白い物ですな。あとで見させていただきますぞ」


「そうだな、危険はないから後で視察でもしてくれ。じゃあ、ダンジョンに行ってくる」


 村長は「はい、お気をつけて」と言ってから、ステージの解体指示を出し始めた。今日中に片付けるつもりなのかな。


 よし、ダンジョンに行くか。




「ここがダンジョンの入り口だ」


 ミトルたちにダンジョンの入り口を見せる。借りてる畑のど真ん中にある階段だ。むき出しというのがちょっと駄目だな。今度、入り口を囲むように柵や屋根を作った方がいいだろう。石像とか置いてもいいな。


 案内すると、ミトルたちが興味深そうに階段の周辺を見始めた。そこはただの畑だ。


 すると探索魔法に反応があった。誰かがダンジョンから出てくるようだ。反応の大きさから大狼かな。


 少し待つと、のそり、と入り口から大狼が出てきた。エルフたちを見渡してから私の方に顔を向けてきた。


「アンリとやらはおらぬのか?」


「今日は連れてきていないぞ。アンリに何の用があるんだ?」


「いるならパトロールに行く前に挨拶しようと思っただけだ」


 お前はまず、私に挨拶するべきじゃないのか? と思ったが口にはしない。もう、色々と諦めた。


「ではな」


 大狼はそのまま村の外に出て行ってしまった。そっけないな。他の奴らとうまくやっているのだろうか。大丈夫な気はするけど、ダンゴムシとは因縁があるし……。まあ、何かあればスライムちゃん達が制裁を加えるだろう。


「フェル、ちょっと聞いていいか?」


「なんだ? 聞くだけなら構わないぞ」


「あのでかい狼ってなんだ?」


「この森にいた夜だけ行動する狼だな。いや、だったというべきか」


 今は昼でも自由に動いているからな。


「なんでここにいるんだ?」


「ジョゼフィーヌが倒したから従っているんだと思うぞ」


 私の従魔ではないのだが、ジョゼフィーヌに従っているなら私の従魔と言っても過言ではない。言うことを聞いてくれないがな。


「昨日の話は冗談じゃなかったんだな。それにスライムちゃんはあの狼に勝てるのか……。俺が一撃で負けるわけだよ……」


 いや、私でも負けるかもしれん。それは恥じゃないぞ。


 さらに反応があった。今度はカブトムシが入り口から出てきた。


 カブトムシはミトルに角を下げてから飛んで行った。どこに行くのだろうか?


「なあ、フェル」


「なんだ?」


「飛んだぞ?」


「私もこの間知った。ちなみに郵送サービスをしているから乗りたかったら言ってくれ。ミトルの案だけど金はとるぞ」


 値段を知らないけどいくらぐらいなんだろう。ヴァイアはタダなんだよな。


「この前のカブトムシかよ! 一回り大きくなってるじゃねーか!」


「進化したからな」


 なにがどうなって進化したのかは私も分からん。考えても意味がない事ってよくある。だから考えない。


「早速、ダンジョンに入ろう。暇つぶしにはなると思うぞ」


「ダンジョンは暇つぶしで入るものじゃねーぞ?」


 頭が固いな。ミトルの言うことは無視して、私を先頭に階段を下りていく。何の問題もなく広間に着いた。


 第一階層は迷路フロアだったかな。この間は直線だけだったけど、多少は変化しただろうか。


「フェル様、いらっしゃいませ。アンリ様はいらっしゃらないのですか?」


 いきなりアビスに話しかけられた。お前もか。


「今日はアンリを連れて来てないな」


「そうでしたか。自分が会いたがっていたとアンリ様にお伝えください」


「何かあるのか?」


「色々頑張りましたので報告をしたいのです」


「わかった。アンリには伝えておく。だが、その前にこっちの事だ。今日、コイツ等にダンジョン内を探索してもらう。かなりの魔力だから足しになるだろ」


「ありがとうございます。では能力に合わせたエネミーを出現させて、より効率的に魔力を吸収します。セーフティをかけますので命の危険はありませんが、それなりに痛いレベルです。難易度、ノーマルですね」


 この間、アンリが倒した疑似生命体を作るのかな? セーフティというのは分からないが、安全なら問題ないだろう。


「分かった。それで頼む」


 アビスとの会話が終わり、ミトルたちのほうを見ると、全員がキョロキョロしていた。アビスの声が不思議なんだろうな。


「フェル、この声はなんなんだ?」


「このダンジョン、アビスの声だ」


「あー、そうって、何言ってんだ? これって生き物なのか? え? もしかして食われた?」


 他のエルフたちがビクッとなる。憶測で怖がらせるな。それなら私も食われているだろうが。食べるのはともかく、食べられたくはない。


「ダンジョンコアが自分の意思で動いているんだ。さっきの声はそのダンジョンコアだな」


「何を言っているかさっぱり分からねー。とにかく大丈夫なんだな?」


「大丈夫だ。そうそう、モンスターを作り出したみたいだから、頑張って倒してくれ」


「え? 何を言って――」


 ミトルたちがいなくなった。あれ?


「ミトル? どこだ?」


「エルフたちをスタート地点に転送しました。ゲームスタートです」


 ああ、うん。まあ、大丈夫だろう。ミトル以外武器を持ってなかったけど。


 よし、ミトルたちが遊んでいる間にドワーフのおっさんに話を聞きに行こうかな。

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