家族

 

 花束の争奪戦が終わり、宿に戻ってきた。


「おうおうおう、あんな手で花束を奪うなんて、フェルは卑怯だと思わねぇのか? 魔族ってあれか? 卑怯モンなのか? あぁ?」


「いや、お前が渡したんだろうが。むしろこっちは被害者だぞ?」


 そして今リエルに絡まれてる。まさにチンピラだ。聖女なのに。


 あの後、ステージの上で拍手されたり、「誰と結婚したいですか」と結婚女に質問されたりと辱めを受けた。


 どうやら、ヤトが影移動を使った時に、サバイバルが中断されて終了時間が伸びたらしい。笛が三回鳴った時が本当の終了。ステージの上にあった看板にそんなルールが書かれてあった。そんなこと知るか。


 とりあえず花束は戦利品として貰ったが、どう考えてもいらない。


「わかった。この花束はくれてやるから離れろ」


 さっきから肩に手を回して馴れ馴れしい。いや、逃がさないようにしてるのか。転移出来るから意味ないけど。


「そういうのはなぁ、勝って手に入れる事に意義があんだよ。お情けで渡されたものに価値はねぇんだ!」


 そういうものか。確かに花束を魔眼で見たが、特別なスキルはついてなかった。花束よりも過程が重要なのか。


「じゃあ、絡むな。これは単なるジンクスだろう? 次に結婚するのはリエルの可能性もあるんだ。ジンクスに頼らず、自分の力で結婚しろ」


「気分的な問題だっつぅの! なんか男を取られた気分になるじゃねぇか!」


「お前の気分なんか知るか」


 何をこじらせたらこんな聖女になるのか。女神教の本部とやらに送り返したい。


「まあまあ、リエルちゃんもその辺にしておきなよ。結婚式の花束はフェルちゃんも言った通り、タダのジンクスなんだから。だいたい、リエルちゃんは聖女なんだから結婚できないでしょ?」


「それとこれとは関係ねぇよ」


「いや、大ありでしょ」


 リエルは女神教を潰して聖女を辞める気なんだろうな。


「そういえば、エルフ達を紹介してやったろ? 花束に頼るより、アイツ等と話をしてきた方が有意義なんじゃないのか?」


 意訳すると、どっかいけ、という意味だが、気付いてくれるだろうか。


「あー、うん。話はしたんだけどな? なんつぅの? ガツガツしてたけど、こう、女好きとか、駄目じゃね?」


「お前は男好きだろうが。どれだけワガママなんだ」


「女はいいんだよ。でも、男は一途じゃなきゃ駄目だろ? 一途でガツガツ、さらにイケメン。エルフ達は惜しかったな。今一歩足りねぇ」


 ストライクゾーンが狭いな。コイツのお眼鏡にかなう男を一度見てみたい。伝説の魔獣ツチノコを見つけるよりも可能性は低いと思うが。


「なら、子供のうちから自分好みに育てたら? 時間は掛かるけどそっちの方が確実じゃない?」


 冗談だよな? それは人としてどうなんだ? なんかリエルが「その手があったか」みたいな顔をしているけど。嫌な予感がする。


「俺、女神教を辞めて孤児院を建てる。子供のうちに俺が素晴らしい女性だと思わせれば結婚してくれるよな?」


「お前、馬鹿なのか? 手遅れなのか? 魔法で頭は治せないのか? 子供のうちから洗脳まがいなことしてどうする。女神教と変わらんだろうが」


「安心しろって、俺からは手を出さねぇ。それは犯罪だからな」


「そういうことを言ってるんじゃない」


 頭痛くなってきた。もう、魔王様とのダンスを思い出しながら部屋で寝たい。


「フェル姉ちゃん、ジャガイモ揚げを食べさせて。トマトソースたっぷりを希望」


「アンリはなんで私の膝で偉そうにしてるんだ? というか、口を開けているだけなのは、食べさせろ、という意味か?」


「魔力を限界まで使ったから動くのが億劫。食事をして魔力の回復を図る」


 仕方ないから、ジャガイモ揚げにトマトソースをつけて口に運んでやる。よく噛めよ。


「アンリちゃん、すごいよね。私の結界が切られるとは思わなかったよ」


「今日はテンションが上がって魔力を限界まで使った。ちゃんと余力を残さないと駄目だった。まだまだ未熟」


「お前は何を目指しているんだ」


 アンリが大人になった時、どんなことになっているかちょっと心配だ。


 その後、まったりしていたら、ニアが近づいて来た。


「なんだい? 今日のフェルちゃんはモテモテだね?」


「リエルは絡んでいるだけだし、アンリは私の膝が指定席らしい。モテているのではない。そうだ、結婚式では見かけなかったがどうしたんだ?」


「そりゃ料理さ。食材もいっぱいあったからね。ずっと料理してたよ」


 そういえば、結婚式中も今も料理が無くなるという事がなかった気がする。朝からずっと作っていたということか。


「それは大変だったな。どの料理も美味かったぞ」


「当然だね。だけど、久々に料理をし過ぎて疲れたよ。最後に冷たいデザートも用意したからしっかり食べていきなよ?」


「もちろんだ。それを残すなんてありえない」


 いつの間にかウェイトレスの恰好をしたヤトとシルキーがみんなに小皿を渡していた。小皿には白くて半球体のものが乗っている。あれがデザートだろうか。


「アイスクリームってやつだよ。溶ける前に食べな」


 みんなでアイスクリームとやらを食べる。どうやらシャーベットに似た感じの冷たい食べ物だ。口の中で溶ける感じは同じだな。だけど、結構口の中に甘さが残る。それに牛乳を使っていると見た。これはすばらしい。周囲からも絶賛の声が上がってる。


「さすがだ。ずっと食べていたい」


「それは勘弁しておくれ。結構作るのが大変なんだよ。寒いしね。さて、二次会はまだ続くだろうけど、私は疲れたからもう休むよ。アンタ等もはしゃぎ過ぎないようにしなよ?」


「わかった。お疲れさま」


 ニアは頭巾を取ってから自室の方へ向かった。大変だったようだな。ふらついている、というほどではないが、足取りが重そうだ。一日中料理をしていればそうなるか。食材を持ち込み過ぎたかな? 加減を考えなければ。


 アイスクリームも食べ終わって、またまったりし始めたら、今度は今日の主役、結婚男と結婚女が来た。


「フェルさん」


「二人とも今日はお疲れ。初めて結婚式を見たが、結構楽しかったぞ。ああ、その前に、結婚おめでとう、か? いまさらだが」


「ありがとうございます。今日の結婚式が上手くいったのは、全部フェルさんのおかげですよ」


 貢献はしたと思うが、それは言い過ぎだろう。


「私達が結婚するきっかけをくれて、さらには結婚式まで面倒見てもらえるなんて感謝の言葉もありません」


「なら気持ちだけで言葉にしなくていい。その、なんだ、背中が痒くなる」


「んだよ? じんましんか? 治癒魔法で治すか?」


「話の流れと空気を読め」


「もし、私達に子供ができたら、フェルさんのおかげだと必ず伝えますから」


「いや、やめてくれ。というか魔族のおかげだとか言ったら、生まれてくる子がショックを受けるだろうが」


「フェル姉ちゃん、大丈夫。コウノトリだって分かってくれる」


「お前は何を言ってるんだ」


「もしも! もしもの話だけどね! わ、私も、ノ、ノ、ノストさんとそういう事になったら、フェルちゃんのおかげだって教えるから! もしも! 本当にもしもの話だけどね!」


「お前も何を言ってるんだ」


 そしてディアは私を拝みだした。


「ディアは何してる?」


「え? なにかご利益がありそうだから。良縁に恵まれますように」


「やめろ」


 その後、二人は「誰もが羨む家庭を築いて見せますよ」と言って去って行った。まあ、頑張ってくれ。




 そんなこんなで二次会もお開きになった。


 ヴァイア、ディア、リエルはそれぞれ家や教会に帰った。明日、三人は片付けがあるが、私はしなくていいらしい。色々やったからそれなりに免除してもらえるそうだ。頑張った甲斐があった。


 アンリは寝てしまったので村長の家に届けた。普段子供っぽくないが寝顔は子供だな。だが、寝言で紫電一閃と言った時はびびった。夢の中でも戦っているのか。


 村長の家から宿に戻ると食堂には誰も居なかった。みんなそれぞれ家に帰ったのだろう。今は午前一時ぐらいか。


 あれだけ騒がしかったのに静かになった場所を見ると寂しく感じる。魔王様も結婚式を見ると寂しいとおっしゃった。こういう気持ちにさせてしまったのは不覚だったな。今後は気を付けよう。


 それにしても寂しいなんて感情、いつ以来だろうか。三年前、両親を亡くした時か。それ以降は色々と考えることが多くて寂しいと思う暇も無かったからな。


 そういえば、あの時、両親は何と戦っていたのだろう? あの時の記憶はいまだに戻らない。覚えているのは両親が何かと戦い、そして殺された。一週間後に目を覚ました時には二人は埋葬された後だった。


 あの頃はまだ弱かったからな。両親は私を守ってくれたのだろう。その後、色々あったが楽しい日々を送れているのは、両親のおかげとも言える。余裕ができたら、墓参りでもするかな。


 部屋に戻り、軽くシャワーを浴びてから、ラフな格好に着替えた。


 さあ、もう遅い時間だ。早く日記を書いて寝よう。


 いや、今日は超大作を書かなくてはいけない。特にダンスの事を事細かに書かなくては。これはいつ寝られるか分からないな。

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