結婚式

 

 今日は結婚式だ。


 結婚式に興味はあるが、料理の方が気になる。どんな料理があるのか楽しみだな。


 部屋を出て食堂に行くと、村の女性達が色々と動き回っていた。何をしているかは分からないが忙しそうだ。


「おはよう、フェル姉ちゃん」


 いつものテーブルにアンリがいた。食事をしているようだ。


「おはよう。珍しいな? 今日はここで朝食か?」


「今日はみんな忙しいから、ここで大人しくするように言われてる。このサンドイッチ、朝食用だから好きに食べていいって言ってた」


「そうなのか? じゃあ、遠慮なく頂くか」


 テーブルに随分大量にサンドイッチがあるようだが、こんなに食べていいのだろうか。これが結婚式の料理という訳じゃないよな?


「ここにあるのはみんなの分。お腹がすいたら適当につまむ。全部食べるのは良くない」


「なるほど、そういう仕組みか」


 よし、ちょっとだけ食べてみるか。よく見るといくつか種類がある。どれを食べるか悩むな。


「安心して。ピーマンは使われていない」


「そんな心配はしてない」


「おすすめはタマゴサンド。絶品だった。あとはハムとレタスのコラボ。これは最強。牛乳がないのが悔やまれる」


「それはいい情報だ。その二つを頂こう。牛乳は……忙しそうだから頼まないでおくか。邪魔しちゃいけない気がする」


 タマゴサンドを食べると、いつもより卵が甘い気がした。砂糖でも入っているのだろうか? 美味いから何でもいいが。ハムとレタスは味もいいが食感もいいな。シャキシャキして口の中が楽しい。


 ちょっと足りないが、私だけのサンドイッチじゃないからな。ここまでにしておこう。


「フェル姉ちゃんはその服装で結婚式に出るの?」


「む? 結婚式について詳しくないが、この格好では問題あるか?」


「多分ないと思う。でも、みんないつもよりいい服を着て式に参加する」


 そう言われると、アンリの服装はいつもより可愛らしい気がする。


「アンリはいい服を着ているな?」


「おめかしした。今日のアンリはお姫様バージョン。ひれ伏すがいい」


「お姫様か。だが、ひれ伏さんぞ」


 そういえば、アンリは結婚式に出るのは初めてじゃないのだろうか? 普段よりいい服を着て式に参加するとか言っていたし。


「アンリは結婚式に参加するのは初めてじゃないのか?」


「前にも参加したことがある」


「じゃあ、結婚式って何をするか知ってるか? つがいになるのを契約するだけじゃないんだろ?」


「アンリの知っている範囲で教える。まずは、ステージの上で司祭様が精霊様を召喚する。今回はリエル姉ちゃんがやると思う」


 マジか。そういえば精霊に報告するとか言ってたか? アイツ、精霊を呼べるのか?


「精霊様は何が召喚されるか分からないけど、だいたいは四大精霊。火とか水とか」


「ランダムなのか?」


「分からない。仕組みを良く知らない」


 そういうのはリエルに聞かないと分からないか。あとで聞いてみよう。


「その後、精霊様の前でお互いが伴侶になることを宣言する。その宣言で嘘偽りがなく、誰も異議を唱えなければ精霊様が指輪をくれる」


「指輪?」


「精霊様の指輪。それが二つ貰える。それをお互いの左手薬指にはめる。それで契約完了。二人は夫婦」


 なるほど。精霊立ち会いの上での契約なのか。それは強力だな。


「そして精霊様の前で接吻して終わり」


「人前で接吻するのか?」


「うん。ちょっと破廉恥。でも儀式の一部。それが終わると、精霊様が消えて儀式は終了」


 実際に見てみないと分からないが、しっかりした契約の儀式なんだろうな。何度も見れるわけでもないから、よく見ておこう。


「それが終わると、みんなで出し物をする」


「村長が楽器を奏でるとか言ってたな。アンリもヤトやディアと何かするんだろ?」


「する。リハーサルを何度もした。動きは完璧……しまった。フェル姉ちゃんの誘導尋問に引っかかった」


「別に聞き出そうとしてるわけじゃないからな? まあ、楽しみにしているから頑張ってくれ」


 だが、なんというか、メンバーに不安を感じる。


「ところで食事は何時からなんだ? ヴァイア達と雑談しているときに食べ放題スタイルだと聞いたのだが」


「出し物を始めた時から料理が会場に並ぶ。食べながら出し物を見る。フェル姉ちゃん、食べ放題だからって独占は駄目」


「アンリ、女には負けられない戦いというものがある。それが今だ。それに食材は私が用意したものが多い。私には何種類か独占するぐらいの権利があるといえよう」


 完璧な理論だ。


「食材を用意したのはフェル姉ちゃんだけど、料理するのはニア姉ちゃん。ニア姉ちゃんはみんなのために料理してるから、独占するとニア姉ちゃんが悲しむ」


 痛いところを突いて来やがった。


「それに、みんなで分けて食べた方が美味しい」


「そういうものか?」


「そういうもの。一人より二人、二人より三人。量は減るけど美味しさのレベルは上がる」


 言われてみるとそんな気もするな。ニアの料理は一人で食べても美味いと思うが、ヴァイア達と食べた時の方がさらに美味い気がする。


「わかった。いいだろう。独占するような真似はしない。昨日食べたアップルパイとか独り占めしたかったんだが」


「アンリも昨日食べた。あれは素敵。存在に気付かれる前に仕留めれば独占してもバレない。共同でアップルパイを包囲しよう」


「さっきと言ってることが変わっているだろうが」


 これがアップルパイの魔力ということか、ニアも罪深い料理をつくるもんだ。


「出し物と食事が終わったらどうするんだ?」


「みんなでダンスする」


「そういえば、花嫁が服を着替えて踊るとか言ってたな。踊る用の服もあったし」


「花嫁、花婿も踊るけど、メインは未婚の男性と未婚の女性が踊ること」


「どういう意味だ?」


「男性が女性を誘う。貴方に気がある、という意思表示」


 なんと。そんなイベントがあったのか。これはノストにヴァイアを誘ってもらう必要があるな。……いかん。昨日、余計なことをしたから、その可能性が低くなってる。となるとヴァイアから誘えばいいのか?


「誘えるのは男性からだけか? 女性から誘ってもいいのか?」


「そういうルールは良く分からない。でも、多分、大丈夫」


 なら、何とかなるか? 昨日の失態を返上しなくては。何とか二人が踊れるように仕向けよう。禁術も辞さない。


「最後は花嫁が花束を後ろ向きで投げる」


「なんだそれ? あ、いや、以前聞いたな。サバイバルだったか?」


「そう。花束を巡って戦いが始まる。勝者には栄光を、敗者には憐れみを」


 よく分からんが、巻き込まれないようにしよう。


「それが最後ということは、結婚式はそれで終わりか?」


「終わり。でも、その後も森の妖精亭で食事とかする」


「そうなのか。それは楽しみだな」


 結婚式の流れは分かった。今日は何もせずに食事だけしていればいいだろう。


 だが、魔王様がいらした際には案内しないとな。事前に念話の魔道具を使ってくれるとありがたいのだが。


 その後、アンリとのんびりしていたら、ヴァイアがやってきた。なんだか普段よりいいローブを着ている気がする。ヴァイアもおめかしか。


「フェルちゃん、エルフの皆さんが来てるよ?」


 忘れてた。

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