結婚式の始まり

 

 ヴァイア、アンリと一緒に宿から出るとエルフ達がいた。


 前回と同じように男性三人と女性二人のようだ。カブトムシもいて、荷台には食糧と思われるものも置いてあった。前回ほどじゃないがそれなりに持ってきてくれたようだ。


「よー、フェル! 招待を受けたから参加しにきたぜ!」


「急な話で悪かったな」


 昨日、ミトルにいきなり来いとか言ったからな。無理をさせたから罪悪感がある。


「女の子紹介してくれるんだろ? 何の問題もねーよ」


 罪悪感がなくなった。だが、女性のエルフ達には罪悪感が残っている。リーンの町で買ったものをお土産としてあげよう。


「お、ヴァイアちゃんもアンリちゃんも今日は可愛らしい服を着てるな! いつも可愛いけど、五割増しぐらいで可愛いぜ!」


「あ、ありがとうございます」


「ひれ伏すがいい」


 私が抜けているのは、服がいつも通りだからだな。まあ、ミトルに可愛いと言われてもうれしくはないが。


 だが、魔王様に普段の服以外を見てもらうチャンスだったのだろうか? しまったな。ウェイトレス服以外ないし、ディアに頼んだ服もまだ出来ていないだろう。もうちょっと結婚式の情報を得ておくべきだった。


「ところでどうすればいい? 人族の結婚式に参加したことはねーんだよ。変なことをしないようにって、長老とか隊長に釘刺されてんだ。わりーけど、作法とか教えてくれよ」


 そんなことを言われても私も知らないな。さっき、アンリからだいたいの予定は聞いたが、作法までは聞いていない。そもそも作法なんてあるのか?


「ヴァイア、結婚式に作法とかあるのか?」


「作法というか、重要な契約中に邪魔とかしなければ大丈夫だよ。ミトルさん、結婚式はまだ始まらないので、皆さんは宿の方で待っていてもらっても大丈夫ですか?」


「りょーかい。日が出る前から村を出たから結構疲れてたんだよ。少しでも休めるなら助かる」


「日の出前だから眠いかも知れんが、それほど疲れないだろ? カブトムシに乗っていたんだし」


 ミトルは両手の掌を上にして左右に開き、ヤレヤレ、というように顔を左右に振った。殴りたい。


「分かってねーな。この森、日が出ないうちに移動するは危険なんだよ。日が出るまでかなり警戒してきたからな。結構疲れたぜ」


「日が出るまで? なんでだ?」


「夜の間だけ現れる狼がいるんだよ。フェルが負けるとは思わねーが、危険な奴だから注意しろよ?」


 多分、その狼を良く知ってる。それに夜の間だけという制限はもうなくなった。一応、紹介しておこうか。


「その狼なら、今、この村に住んでる」


「フェルも冗談とか言うんだな? でも、その冗談じゃ、三十点ぐらいだぞ」


 冗談をいったつもりは無いのだが、点数が低いのにイラッとする。いつだって高得点がほしい。


「冗談ではない。ジョゼフィーヌが大狼を倒して配下にした。畑のダンジョンに住んでる」


「どっから突っ込めばいいか分からねーよ。そういう冗談は後で聞くから」


「そうか? まあいい。とりあえず宿に行くか。今日は忙しい奴らが多いからな。私が案内してやる」


 早速連れて行こうとしたら、ヴァイアが引き留めてきた。


「あ、フェルちゃん。エルフさんの案内なら私がやるよ。親善大使だし」


「忙しいんじゃないのか?」


「私の方はほとんど終わってるから大丈夫なんだ。フェルちゃんは今まで大変だったんだから休みなよ」


 相変わらずいい奴だな。それじゃお言葉に甘えるか。


「わかった。アンリと一緒に宿の食堂で休んでる」


「うん、ゆっくりしててね。じゃあ、皆さん、こっちへどうぞ。カブトムシさんは畑の方で休んでね。あ、それとこれ、空間魔法が付与された魔道具です。持ってきたものを入れておいてくださいね」


「こういうのはものすごく高価なんだけどなー。あ、ヴァイアちゃん。先に村長さんに挨拶してくる。そっちを先に案内してもらっていいかな?」


「わかりました。ではこちらへどうぞ」


「じゃあ、フェルもアンリちゃんもまた後でな!」


 ヴァイアとミトルたちは村長の家の方に向かった。カブトムシは一応ここで待機するようだ。


「じゃあ、私達は宿に戻るか」


「うん。でも、ちょっとステージを見たい」


 そうか、よく考えたらステージの完成版を見ていない。どんな感じなんだろう?


 村の広場に作ったからそれほど大きくはないな。木製で色は全体的に白、ステージの形は半円型か。半円の丸みを帯びた方が正面になるのだろう。正面は村の入り口のほうを向いている。


 どうやって支えているのか不思議だがステージには垂れ幕がついてる。今は開いているが閉じることも出来そうだな。


 あと、ステージの上には祭壇っぽい物がある。祭壇の上には色々な物が置かれているが、何に使うのかさっぱりわからん。


「よく分からんが、これをロンが中心になって作ったのか。すごいもんだな」


「ロンおじさんもやるときはやる」


 ロンは建築スキルとか持っているのだろうか。そういう技術も魔界には必要かもしれん。料理関係はヤトが学んでいるが、他の技術も魔界にもちかえりたいからな。魔界から呼んだ奴らが来たらちょっと意見を聞いてみよう。


「アンリ、さっきから熱心にステージを見ているがどうした?」


「今日、出し物をするから、ステージを入念にチェック。ミスは許されない」


「意識高いな」


 本当に何をするのだろうか。


「そういえば、ディアやリエルはどこにいるんだ? 今日は珍しく会っていないが」


「ディア姉ちゃんは花嫁さんのところで衣装やお化粧のチェック。リエル姉ちゃんは、教会で司祭様と打ち合わせ中」


「詳しいんだな?」


「情報は重要。情報を制するものが人界を制す」


「アンリは人界を征服するつもりなのか?」


「フェル姉ちゃんが協力してくれるなら、やぶさかではない」


「協力するわけないだろ」


 魔王様と魔界の事で頭が一杯だからな。それに魔界の心配事が無くなったら本を書くのだ。人界を征服している暇はない。


「残念。気が変わったら言って。……チェック完了。フェル姉ちゃん、宿に戻ろう。そろそろ始まるかもしれないから待機しないと」


「そうか。結婚式の事はよく分からんから、アンリの言葉に従おう」


 宿に戻り、いつものテーブルに座る。目の前のサンドイッチを食べずに時間が経つのを待った。拷問だ。


 ミトル達や村の奴らが宿に集結してきた。一度ここに集まるようなことになっているのだろうか?


 さらに待つと、村長が入ってきた。


「では皆、花婿と花嫁の準備が整ったようだ。私達はステージの前で待機しよう」


 おお、とうとう始まるのか。ちょっとドキドキしてきた。


 しかし、魔王様がまだいらっしゃっていない。やはり積極的には参加されたくないのかな。


 ステージの前に皆が集まる。何故か従魔達も勢ぞろいしていた。広場がとても狭い。


 何をしているのか聞いてみると、「結婚式という物に興味があります」「精霊を見たい」「出し物をするから待機中」という回答が返ってきた。こいつらも何かするのか。


 たしか、まずは精霊を召喚するんだったな。リエルが召喚するとかアンリが言っていたが大丈夫か。闇の精霊とかが来そうなんだが。


 なんとなく周囲を見渡したら、村の入り口に魔王様がいるのが見えた。約束通り来てくださったようだ。早速、魔王様の近くに移動して声をかけよう。


「魔王様、お忙しいところ、ありがとうございます」


「いやいや、大丈夫だよ。時間は作るものだからね」


「ここだと遠くありませんか? 近くに行きましょう」


 村の入り口だと、ステージから最も離れている。見えなくはないが、もっと近い方がいいだろう。


「ここでいいよ。僕は部外者だからね。遠くから見させてもらうよ」


「そうですか。なら私もここで見ます。魔王様を御一人にはできませんので」


「気にしなくていいんだけどね。でも、ありがとう」


 魔王様にお礼を言われてしまった。日記に書こう。


 そんなことを考えていたら、感嘆の声が聞こえた。始まったのだろうか?


「綺麗な子だね? あれが今の聖女かい? 名は体を表すって感じだね」


「リエルが綺麗なのは見た目だけですよ。中身は聖女というイメージに程遠いです。騙されてはいけま……は?」


 リエルは教会からステージの壇上に歩いて移動しているだけだ。だが、驚いた。何だあれ? というか誰だ? いや、リエルなのだろうが、いつもと違ってビシッとしているし、普段の悪い笑みではなく、優しく微笑んでいる感じだ。それにいつもの修道服ではなく、高価そうな司祭服を着ている。


 変われば変わるもんだな。あれなら聖女と言われるのも納得できる。いや、もしかして偽物か?


 リエルがステージの中央にある祭壇の前でこちらを向き右手を軽く上げた。


「俺に男がいねぇのに結婚式の進行をするのは気にいらねぇけど、仕方ねぇから結婚の儀式を行う」


 よかった。本物のリエルだ。ちょっと安心した。

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