総務部
食事も終わったし、手伝いも済んだ。今日はもうなにもしない。部屋でゴロゴロしよう。
だが、その前に魔王様と魔界に連絡しておこう。
魔王様の部屋に通じる扉をノックする。すぐに念話用の魔道具に連絡が来た。
『やあ、フェル。なにか用事かな?』
「お忙しいところ申し訳ありません。明日、村で結婚式があるので、そのご報告をしたいと思いまして」
『……ああ、そんなことを言っていたね。わかったよ。ずっとは居られないけど、ちょっと顔を出すよ』
なんだろう? 前回も連絡した時に声のトーンが落ちていた気がする。ここは突っ込んで聞いてみるか? そう、ニアも言っていた。若いんだから直球で勝負しろと。
「あの、魔王様。もしかすると結婚式に参加されるのは乗り気ではありませんか? 無理にご参加されなくとも私の方で何とか致しますが」
『気を遣わせたかい? フェルの言う通り、結婚式は昔のことを思い出すから苦手なんだ。でも、大丈夫だよ。フェルがいてくれるしね』
私がいると大丈夫なのだろうか? それは誇らしいことだが。でも、昔のことを思い出す、か。何を思い出されているのだろう?
「もしよろしければ、苦手な理由を教えてもらえますか? なにか力になれるかもしれません」
『心配してくれているんだね。でも、話すような事じゃないんだ。いつかやることが終わったら話すことがあるかもしれないけどね』
「そうでしたか。差し出がましいことを言いました。申し訳ありません」
もっと魔王様に信頼されたいのだが、まだまだということか。無念。
『いやいや、嬉しいよ。ただ、別の事で力になってもらいたいんだ。数日中に大坑道に呼ぶつもりだから、準備しておいて貰えるかな』
「大坑道というと、ドワーフ達が守っているという場所ですね?」
『そうだね。なんとか入る算段はついたんだけど、ちょっとやり過ぎてね』
魔王様はいつだって全力だからな。やり過ぎも仕方ないな。
『ところでフェルは冒険者ギルドって知っているかな?』
「はい、知ってます。お金を稼ぐために冒険者登録しました」
仕事はウェイトレスと護衛しかしたことないけど。
『それはちょうど良かった。冒険者じゃないと大坑道に入れないから助かるよ』
「そうでしたか。ところで、村にドワーフがいるのですが、一緒に連れて行った方がいいでしょうか?」
『いや、それは必要なくなったよ。しばらくすれば大坑道の情報が冒険者に公開されて入れるようになるからね』
「分かりました」
魔王様は一体何をしたのだろうか? それはともかく、確認しておきたいことがある。
「魔王様。確認なのですが、今回も神殺しをするのでしょうか?」
これが一番大事。覚悟が違ってくる。
『しないよ。今回は別件だね』
安心はできないが、とりあえずはよかった。
『それじゃ、詳しいことは明日、会った時に説明するよ』
「はい。では、明日、よろしくお願いします」
念話のチャンネルが切れた。
とりあえず、いつ呼ばれてもいいように準備をしておかないとな。あと、ドワーフのおっさんに大坑道のことを聞いておくか。事前の情報は重要だからな。
次は魔界から魔族を呼ぶか。開発部研究課の奴を呼んで、ダンジョンコアを確認してもらおう。そういえば、畜産用の動物や、エルフと物々交換するための物を用意してもらったはずだ。確認して問題なければ持ってきてもらおう。
まずは魔界へのチャンネルを開く。
『はーい、こちら魔界の総務部でーす。まずはお名前をお願いしまーす』
「フェルだ」
『あ、フェル様じゃないですか。ヤトっちから聞いてますよ? 人族の料理はおいしーって。幸せはみんなで分かち合うべきだと思うんですが、フェル様はどうお考えですか? ちなみに不幸なことは一人で背負ってもらいたいです』
言っては何だがハズレの念話番だ。
「いきなり長い。こっちの用件を済ませてからにしてくれ」
『えー、お話ししましょうよー。今、魔界は人界がトレンドなんです。ヤトっちからの定期報告だけじゃ足りませんよ。人界は猫耳ブームってマジですか? 山羊の角じゃ駄目ですかね? 人族で良いから男にモテたい……!』
ヤトは何の情報を報告しているのだろうか。
「だから用件を済ませてからにしてくれ。その後に話をしてやる」
『絶対ですよ? では、ご用件をどうぞ』
「まず、前回用意してくれと頼んでいた物があるんだが、揃っているか?」
『はい、用意してあります。確認しますか?』
「頼む」
『まず、牛と豚と鶏ですね。全部四本足です』
「……鶏もか?」
『あ、鶏は二本足ですね。二匹いたので見間違えました。牛や豚もつがいで二匹ずつですね。コイツらにも伴侶がいると言うのに……!』
魔力で鶏に何かしたのかと思った。これなら問題ないかな。
「よし、それならソイツらはこっちに送ってくれ」
『はい、わかりました。他に用意してあるのは、宝石とか装飾品ですね。男から貢がせたい……!』
「さっきから心の声が漏れてる。ちょっと抑えろ。何を用意したか教えてくれ」
『えーと、宝石で用意したのは普通のルビーとかエメラルドですね。一個貰ってもいいですか? 小さいのでいいですから』
「駄目だ。全部、持ってこい」
『ケチだとは言いません。でも、ちょっとは考えるそぶりが欲しかった……!』
「他にもあるだろ、早くしろ」
『あとは装飾品ですね。首飾りとか指輪とか。あ、この指輪、肌荒れ防止スキルが付いてる。貰っていいですか?』
疲れる。とても疲れる。念話番を変えてほしい。
『無視は酷いと思います』
「お前の最後の一言にすごく疲れる。ありていに言うと、うざい」
『思ったことをすぐに口にしてしまうんですよねー。でも、そこがウザ可愛い、とか思いません?』
「思わない。とりあえず、さっき言っていた物でいいから送ってくれ」
『つれないですねー。えーと、ソドゴラ村でしたっけ? そこに送ればいいですか?』
「ああ、そこでいい。私かヤトに渡す様にしてくれ。それと持ってくる奴なんだが、開発部研究課の奴にしてくれ」
『え? あの変人達ですか? あそこはマッド入ってますよ? 近寄りたくない部署、ナンバーワン』
やっぱりあそこはそういう認識なのか。
「私もあまり関わりたくないが、人界にあったダンジョンコアを回収して村で利用したからな。念のため確認しておいてもらいたい」
『そういうことですか。なら仕方ないですね。ちょっと武装して行ってきます。下手すると人体実験されるので』
私も経験がある。髪を百本でいいから下さい、とか言われた。頭いいはずなのに馬鹿なんだよな。
「まあ、気を付けてくれ。とりあえずこちらの話は終わりだ。で、何の話をすればいいんだ?」
面倒だが仕方ない。約束だから話をしてやろう。変な話なら即、チャンネルを切るけどな。
『あらら、私との約束を守ってくれるなんて、フェル様のそういうところ、すごく好きですよ? 何で女なんですか? 男なら良かったのに』
いきなり性別を否定された。私は女で良かったと思ってるぞ。魔王様が男だからな。不敬だが、万に一つのチャンスがあるだけでも嬉しいものだ。
「好かれるのは嫌じゃないが、背中が痒くなる。やめてくれ」
『本当になぜ女性なのか。もったいない。それはともかくですね、ヤトっちからの情報で人界の料理はかなり美味い、と聞いたのですが、本当ですか?』
「本当だ。ただ、村にいる料理人の腕がすごいからだろうな。同じ食材を使ってもあの味になるとは思えん」
『ほほー、ちょっと人界の方に出張していいですか? 二泊三日ぐらいで』
うーん? ちょっとぐらいなら大丈夫な気もするな。それに私以外の魔族にも徐々に慣れてほしい気はする。それに定期的に食べ物を魔界に運ぶルートを開拓しておきたい。試しにやってみるか。
「食べ物を魔界に運ぶのを試したいのだが、空間魔法は使えるか?」
『え? マジですか? 使えますけど、そんなに容量は多くないですね。でも、そっちで空間魔法が付与された魔道具って作れないんですか? ヤトっちがそんなことを言っていましたけど』
そうか。ヴァイアに作って貰えばいいのか。宝石か何かをあげれば作ってくれるかな。
「そうだな。その方法があった。いいだろう。食糧を持っていけるかどうか試したいから、お前も一度人界に来てくれ」
『フェル様への好感度がストップ高を超えましたよ! 言ってみるもんですね!』
「言っておくが、観光とか遊びじゃないぞ? 仕事だからな?」
『分かってますって! やばい、何を着て行こう? 毒をまき散らす鎧とか着てった方がいいですかね?』
「やめろ。何の効果もない服で来い」
ちょっと早まった気がしないでもない。
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