カリスマ

 

 悪夢を見た気がする。サソリに襲われる夢だ。けしかけたのがリエルだったから殴った。夢だけどちょっとすっきりした。そう考えると悪夢でもないのか。でも汗をかいたので、まずはシャワーを浴びよう。食事はその後だ。


 今日はどうするかな。まずは村長に魔物の件を説明しておくか。一応、問題は解決したから警戒する必要もないだろうし。


 新たな問題はヴァイアだ。ノストしだいだが、大変なことになっている気がする。正直、同情を禁じ得ない。だが、ネタとしては素晴らしい。小説に書いたら怒るだろうか。バレないようにアレンジしよう。アラクネをスライムに変えて、お色気路線にしようかな。


 そんなことを考えながら、浴室から出ると、部屋の扉がけたたましく叩かれた。なんだ?


「フェルちゃん、起きてる!? 大変だよ! すぐ起きて!」


 ディアの声だ。そんなに慌ててどうしたのだろう?


「どうした? なにか問題か?」


「村が狼に囲まれているんだよ!」


 もしかして、大狼だろうか? ジョゼフィーヌに報復、もしくはダンゴムシを奪いに来たのか?


「わかった、すぐに行く。ちょっと待て」


 着替えをして部屋を出る。


「狼たちは何をしているんだ?」


「わかんない。襲ってくる気はなさそうだけど、狼が多すぎて、みんな怖がってるよ」


 ディアは大丈夫なんだな。異端審問官とかやっていたからそれなりに強いのだろうか。まあそれはいい。まずは狼だ。


 食堂を通り、宿の外に出る。村の広場では、ヤトと大狼が対峙していた。何かを喋っているように見える。


「お前では話にならん。ジョゼフィーヌと言うスライムを出せ」


「フェル様の従魔に何の用ニャ?」


「獣人のお前に話すことではない。いいから呼んでくれ」


 意外と普通だ。多少は暴れていたりするのかと思ったが。村の周囲を囲んでいる狼も敵意は感じない。どうやらたいしたことではなさそうだ。


「どうしたんだ?」


 ヤトと大狼が私に気付いた。


「この犬がジョゼフィーヌを出せとうるさいニャ」


「貴様、また我を犬と……、いや、まあ良い。スライムのジョゼフィーヌに用がある。取り次いでくれ」


「何の用だ? 昨日の時点で勝敗はついたはずだ。約束を反故にする気か?」


「ぬ? そうではない。我は負けたのだ。もう、ダンゴムシにもドッペルゲンガーにも用はない。別の用があるから連れて来てくれ」


 何の用があるのだろう? 理由を知らずに会わせたくはないが、私やヤトには言いたくなさそうな感じだし、ジョゼフィーヌならなんとでもなるだろう。


「ヤト、すまないが畑の方に行ってジョゼフィーヌを連れて来てくれ」


「分かりましたニャ」


 ヤトはその場で影に潜った。畑の方に移動したのだろう。


「さっきも聞いたが何の用なんだ? アレは私の従魔だ。敵対すると言うならこちらも相応の対応をとるぞ?」


「敵対するような話ではない。来れば話をするから、すこし待て」


 うーん。敵対しないということだが、一体何なのだろうか。リベンジという訳でもなさそうだし。


「ディア、大狼たちは争いに来たわけではなさそうだ。念のため、村長を呼んでくれないか?」


「うん、わかったよ。連れて来るね」


 とりあえず、みんなが揃うまでちょっと時間がありそうだ。世間話でもしてやろう。


「昨日お前が使ったスキルは凄いな」


「それは嫌味か? 我のスキルは簡単に破られてしまった。むしろ、スキルで作った領域を食うスキルの方が凄いだろう? そういえば、アイツを従魔と言っていたが、お前はアイツよりも強いのか?」


 ヤトやジョゼフィーヌが戦ってばかりで私はいいところを見せていない。もしかして弱いと思われているのだろうか?


「強いはずだ。色々と制限を取っ払えば勝てると思う」


 絶対に勝てるとは言えないところがつらい。本気出せば勝てるって言い訳しているみたいで、ちょっと恥ずかしい。


「ふん、まあいい。お前は魔族であり、魔物ではないからな」


「どういう意味だ?」


「お前は関係ないということだ。気にするな」


 その後も適当に話をしていたらジョゼフィーヌが来た。というか、魔物達が全員来ている。広場が狭いな。


 村長もディアに連れられて広場に来た。なぜかアンリも来た。村長に抱きかかえられている。なんで連れて来た。


「あの、フェルさん、これはどういうことですか?」


「いや、私もどういうことなのか分からん。多分、大狼から話があるのだと思うが」


 大狼が魔物達を見回すと笑い出した。最初は笑いを堪えている感じだったが、大笑いになった。なにがそんなに面白いのだろう?


「ジョゼフィーヌに、四天王を降し森を支配しろ、と言いに来たのだが、すでに他の四天王も降していたか! これは愉快だ!」


 なんて言った? この森を支配しろ? ジョゼフィーヌにか?


 そうか、この村に森の四天王が勢ぞろいしてるのか。しかも、アラクネ以外はスライムちゃん達が倒している。ジョゼフィーヌがこの森のランキング一位と言っても過言ではないわけか。


「ジョゼフィーヌ。お前は我を倒した。なら、我はお前の軍門に降ろう。森の支配者として君臨しろ」


「断る」


 即答した。正直なところ、やると思ってた。評価を改めないといけないな。


「なぜだ? 少なくともお前はこの森で最強の魔物だ。魔物達を率いて森を支配できるのだぞ?」


「昔の私なら喜んで引き受けただろう。だが、今は違う。私はある方に教わったのだ」


 む、ここは私の名前が出てくるのだろうか? 何を教えたのか覚えていないが。


「その方は人族だが、魔物も人も姿形は違うが同じ村に住む家族だと言われた。支配する、されるのではなく、家族として共に生きようと」


 私は人族じゃないし、そんなことを言ったこともない。そして、そんなセリフを言った奴を知っている。村長に抱きかかえられている奴だ。


「なんと。人族が我々魔物を家族と? 誰がそんなことを?」


 ジョゼフィーヌがアンリの方を見る。大狼もそちらを見た。


「年老いた人族か? いや、その小娘の方か。そのあふれ出るカリスマ。我の目はごまかせん」


 私には分からないが、アンリってカリスマがあふれ出てるのか。私の魔眼もごまかせないはずなんだが。


「なるほどな。この小娘が真の主か」


 ジョゼフィーヌは肯定も否定もしなかった。頼むから否定してくれ。


「それはどうでも良いことだ。だが、理由はわかったな? 森の支配はしない」


 どうでも良くない。真の主の部分を否定しろ。私の従魔だろうが。


「いいだろう。だが、お前は我に勝ったのだ。我はお前の軍門に……いや、家族としてこの村に住まわせてくれ」


「それなら歓迎しよう」


 魔物達から拍手が上がった。なんだろう? 私が蚊帳の外すぎる。


「ええと、フェルさん、どうなったのでしょう?」


 そうか、村長は魔物の言葉を聞けないのか。通訳してやるか。


「おじいちゃん。狼たちはこの村に住むことになった。私達と同じ家族」


「アンリ、魔物達の言葉が分かるのか?」


「多分、魔物言語スキルを覚えた。聞き取れる」


 これがカリスマパワーか。

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