暴走

 

 村に近づくとなにやら焦げるようなにおいがした。村でなにかあったのだろうか?


 スライムちゃん達もなにやらおかしな気配を感じ取ったようだ。周囲を警戒しだした。


 もしかしたら、何者かの襲撃があったのかもしれない。出来るだけ気配を消して村に近づこう。


 村の広場では昨日と同じようにキャンプファイアーみたいなものがある。近くにはだれもいないが、よく見ると周囲の地面が抉れているような感じだ。魔法攻撃かなにかの跡だろうか。


 何があったかは分からないが、特に心配するようなことは起きていないようだ。探索魔法を使っても近くに危険な奴はいそうにないしな。とりあえず、宿に行ってみよう。


 スライムちゃん達は畑の方に移動していった。ドッペルゲンガーやダンゴムシについてはそっちに任せよう。私は余計なことはしない方がいいだろう。


 宿に入るとディアとリエルがいた。他の客はいないようだ。今日は家を出ないでくれとか頼んだからかな?


「お帰り、フェルちゃん。遅かったから心配したよ」


「仕返しの首尾はどうよ?」


「ただいま。元凶をスライムちゃん達が倒して制裁した。そのほかにも色々とあったが、とりあえず全部終わったと言えるな」


 ダンゴムシが襲ってきた理由も分かったし、その原因も解決した。この村に住むようだし問題はないだろう。大狼はジョゼフィーヌに負けたから襲ってくることは無いと思う。


 だが、それよりも今は村の事だ。私がいない間に何があったのだろう?


「ところで、村の広場が変な感じだったが、何かあったのか?」


 そう聞くと、二人は苦笑いになった。


「ちょっと問題、いや問題じゃないのかな? こっちも色々あったんだよね」


 歯切れが悪いと言うか、言いたくないと言う感じだ。本当に何があった?


「簡単に言うと、ヴァイアちゃんが暴走したんだよ」


「大問題だろうが。一体なにがどうして、そうなった?」


 ヴァイアの魔力が暴走したら、村なんか一瞬で無くなるぞ。


「話すと長いんだけどね。今日、アラクネちゃんが村に来たんだよ」


「ああ、道の途中で私も会った。まさか、アイツが暴れてヴァイアが止めたとかいう話か?」


「アラクネちゃんは暴れたりしてないよ。ただ……」


 ただ、なんだ? もったいぶらずに言って欲しい。変なことをしていたら従魔とはいえ、制裁を加える。


「アラクネちゃんを知っているのが、リエルちゃんとヴァイアちゃんとノストさん、あと一部の魔物達だけだったじゃない?」


 そうか、従魔がもう一体いることは伝えていたが、何が来るかは言っていなかった気がする。


「リエルちゃんは教会で寝てたから、ヴァイアちゃんとノストさんが対応したんだ。その場に私や村長さんもいたけどね」


「それで?」


「アラクネちゃん、人族の服を研究したかったらしくてね、ヴァイアちゃんの服をみて『良く見せてクモ』と言ったんだよね」


 なんだろう? ちょっと嫌な予感がしてきた。


「ヴァイアちゃん、頼まれたら断れない性格だからね。『いいよ』って答えちゃったんだよ」


「今日はもう遅い。寝る。続きは明日にしてくれ」


「まあ、待てよ。聞いて行けって。フェルにもちょっとは責任があるんだから」


 リエルに肩を抑えられた。疲れているとはいえ、振りほどけんとは。嫌な予感がするから聞きたくない。能力制限を解除して振りほどくか?


「アラクネちゃん、ヴァイアちゃんの服をひん剥いちゃったんだよね。後から聞いたんだけど、許可を取ったから服を脱がせていいと思っていたみたい」


 そうか、アラクネは人族の常識的な事をしらないのか。あれ? 待てよ。今日、ヴァイアは確か……。


「ヴァイアは、その……勇気が出る下着を付けていたな?」


「そうだね」


「その場にノストがいたのか?」


「いたね」


「……見られたのか」


「……全裸の方がまだ傷は浅かったと思うよ」


 もはや何も言うまい。せめてノストが紳士的な行動をとっていることを願うしかない。


「その後、どうなった?」


「混乱してたんだろうね。亜空間から着る物を取り出そうとしたんだけど、エプロンしかなかったみたい。不幸中の幸いなのが、大きなエプロンだったことだね。装備したら、一応、全部、隠せてはいたよ。ほぼ手遅れだったけどね」


 アレンジした裸エプロンになったのか。なんだろう、いたたまれない。自分の事じゃないのに心が痛む。


「その後、ヴァイアちゃんはふらふらと自分のお店に入ってね。出てきたときは、なんというのかな? 一言でいうと修羅? 全身魔道具のすごい武装をしてきたよ」


「あまり聞きたくないが、ヴァイアをどうしたんだ?」


「みんなで止めたよ。あのままだったらアラクネちゃんが危なかったし、村が全滅してもおかしくないからね。最終的にはヤトちゃんが麻痺させるナイフでちょこっと傷をつけて止めてくれたよ。一応、アラクネちゃんは無事。トラウマになったと思うけど」


「今、ヴァイアは?」


「まだちょっと麻痺しているから、宿の部屋で横になってるよ。今日はこのまま泊まると思うな。一人にすると危なそうだからって、ニアさんが見てくれているしね」


「ノストは?」


「ノストさんも宿にいるよ。なんだか『責任を取らなくては』とかブツブツ言ってたね」


 もしかして、結果的には良かったのだろうか? 災い転じてって奴だな。ただ、責任とかじゃなくて、ヴァイアを好きになってもらいたいところだが。まあ、それは付き合ってからでもいいのかな。


 ふと、リエルを見るとニヤニヤしていた。なんだ? 殴っていいのか?


「どうよ? 裸エプロンの威力が分かったか? 下着をつけてるのは邪道だが、それでも効果は見ての通りだぜ?」


 なにを言っているのだろう、この聖女は。


「たまたまだろうが。ノストが紳士だったから、裸エプロンが効いただけだ」


 魔王様も相手しだいだと言っていたからな。


「効くのは当たり前だろ? いい男は紳士なんだよ。相手がノストじゃなかったらヴァイアに裸エプロンなんて勧めねぇよ」


 いや、お前、男だったら誰にでもする、みたいな感じだったじゃないか。あれ? もしかして、私の勘違いか?


「まあ、これで威力は証明されたわけだ。俺の封印を解く日が待ち遠しいぜ」


「え、封印て何のこと? もしかして、手に変な模様とかあったりするの?」


 話の流れから、絶対にそういう事じゃないと思うのだが、封印という言葉だけに反応したか。


「何言ってんだ? そういうチューニ病な話じゃねぇよ。裸エプロンという男を落とすテクニックの話だ。俺は聖女だから、その技を封印してんだよ。聖女辞めたら炸裂するぜ?」


 女神教を潰しちゃいけない気がしてきた。


「ああ、そういうこと。ヴァイアちゃんがおかしくなったのは、リエルちゃんのせいだったんだね。裸エプロンとか、いまだにそんな事言ってるの?」


「あん? ディアだって、いまだに格好いいポーズの練習とかしてるだろ?」


 仲いいな、お前ら。ほっぺたが取れる前にやめておけよ。私は疲れているからもう止めない。手加減を忘れて、風穴を開けてしまうかもしれないからな。


 さて、なんだか色々と疲れた。あまり何もしていないのになんでこんなに疲れるのだろう。精神的な疲れかな。


 今日はもう、食事して日記を書いたら寝よう。

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