魔物対決

 

「私は手を出さないから、お前達で決めてくれ。大狼が勝ったらダンゴムシを好きにしていい」


「ちょっと待ってください! 助けて!」


 ダンゴムシの言葉は無視。面倒くさいから。


「手は出さぬと?」


「私は出さない。お前にも復讐する権利はある。だが、ジョゼフィーヌはダンゴムシを助けたいと思っている。どちらの意思も尊重したいから、魔物らしく強さで決めてくれ。出来れば命を取るような事はしないで貰いたい」


「良いだろう。スライムなぞ食っても美味くはない。どちらかが気絶するか、降参したら終わりだ。それでいいな?」


 大狼の言葉にジョゼフィーヌは答えず、頷いただけだった。感情的なところは分からないが、かなりやる気を出しているような気がする。


「獣人や魔族に変身したドッペルゲンガーには後れを取ったが、今度はそうはいかぬ! 初めから本気でやらせてもらうぞ! 【黄昏領域】!」


 大狼が何かのスキルを使ったようだ。よく分からないが、空間に影響するスキルか? 魔眼を使っていないから確実なところは言えないが、多分ユニークスキルだ。すごいな。


 いつの間にか大狼の姿が見えなくなった。見えなくなるのがスキルの効果なんだろうか?


 いきなりジョゼフィーヌが吹っ飛んだ。木にぶつかり、つぶれた感じになる。周囲に粘液が飛び散ったが、残った大きな粘液から幼女の形が浮かび上がってきた。


 ダメージは無いようだが、大狼の場所が分かっていないようだ。でも、スライムだから目で見ているわけじゃないよな? 相手の魔力を感知して場所を判断しているはずだ。もしかして、魔力を感じ取れていないのか?


 また、ジョゼフィーヌが吹っ飛ぶ。今度は地面に叩きつけられた感じになり、粘液が周囲に飛び散った。そして、また一番大きな粘液の塊から幼女の姿が浮かび上がってきた。


 ジョゼフィーヌが粘液を周囲に飛ばした。どこかを狙ったわけではなさそうだ。やはり場所が分かっていないのだろう。飛ばした粘液は周囲の木に当たっただけで、大狼には当たったようには見えない。しかし、結構広範囲に粘液を飛ばしたのに、当たらないとなると見えないだけじゃなく、実際にいないのか?


『無駄だ。我が使ったのは、時と空間を操るスキル。この領域にいる限り、我には勝てん』


 大狼の声だけが響き渡った。頭の中に響いた感じだ。


 うーん、なかなか強いな。私ならどう対処するべきだろう? そんなことを考えていたら、またジョゼフィーヌが吹っ飛んだ。粘液が周囲に飛び散るが、また一番大きな塊から幼女の姿が浮かび上がってきた。もう三回目だ。でも、粘液が飛び散っている割には大きさが変わらないんだな。


『降参するなら今のうちだぞ? 命を取るつもりはないが、事故ということはある』


「仲間を守って死ぬなら望むところだ。私に降参はありえない」


 この子はどこの主人公だろう?


「ジョ、ジョゼフィーヌさん……!」


 ダンゴムシが丸まって転がりだした。それは感動を表す行動なのだろうか?


『ぬかしおる。なら、望み通り死ぬがいい!』


 またジョゼフィーヌが吹っ飛び粘液をまき散らした。だが、今度はどの粘液も幼女の姿にならなかった。どうした?


『死んだか。惜しいな。我が配下にしたかったぞ』


 いや、私の従魔なんだが。それ以前に死んだと思っているのだろうか? 幼女の姿にはなっていないが生きてるぞ?


「お前の配下にはならん。私の主人はアンリ様……違った。フェル様だ」


 後でお話をしよう。ひざを突き合わせてな。


『まだ生きていたか! だが、お前は我を攻撃できん。いたずらに粘液をまき散らすだけだぞ?』


「私が無様に粘液をまき散らしただけだと思ったか?」


 もしかして、わざと攻撃を受けていたのだろうか?


「粘液が飛び散ったので、一部はお前の領域から逃れた。お前を攻撃することはできないが、外から領域ごと食ってやる。【暴飲暴食】」


 飛び散った粘液同士が線を結ぶように伸びて結合し、網のように周囲を囲んだ。あ、やばい。


「網内にいる奴は外に出ろ! 魔力を食われるぞ!」


 網内の中心から、地響きのような音が聞こえてくる。多分、魔力を分解して吸収している音だろう。


 網内にいた狼が慌てて飛び出してきた。一部の狼は逃げ遅れたようで、網内でぐったりしている。魔力を食われたようだ。魔物は魔力を食われたら動けないからな。


『馬鹿な! 我を領域ごと食うだと!?』


「降参するなら今のうちだ。殺すつもりはないが、万が一という事もある」


 おう、言い返した。顔があったら悪い笑みをしているに違いない。


 魔眼を使ってないから正確には分からないが、おそらく黄昏領域というスキルの領域ごと分解しているんだろうな。魔法だろうとスキルだろうと魔力が関わっているのは間違いない。どんな領域だか分からなくても、魔力を分解して吸収してしまえばいいという事か。


 でも、領域を分解できるほどのスキルってなんなんだろう? ジョゼフィーヌがスキルを持っていたのは知っていたけど、こういう使い方ができるのか。単に魔力を食えるスキルだと思ってた。


『き、貴様らは一体何なのだ……?』


 ガラスが割れるような音が聞こえると、地響きのような音もなくなった。範囲内の魔力を食い尽くしたのだろう。そして、粘液の網が中心に集まっていき、一つにまとまると幼女になった。


 もしかして、網内の奴等を全部食べた? そんな風に思っていると、ジョゼフィーヌは体内から巻き込まれた狼たちを吐き出し、最後に大狼も吐き出した。どうやら大狼は気絶しているようだ。ジョゼフィーヌの勝ちという事だな。


 ジョゼフィーヌ以外のスライムちゃん達は一度頷いただけだった。勝ちを確信していたのだろう。


 ダンゴムシは高速で回転している。多分、歓喜の表現なんだろうな。


 無事だった狼たちは大狼のそばにより、守る様にジョゼフィーヌを威嚇している。偉いな。モフりたい。


「安心しろ。これ以上、何かをするつもりはない。大狼は魔力が無くなって気絶しているだけだ。じきに目を覚ます」


 狼たちから安堵の雰囲気が伝わってくる。大狼は慕われているようだな。それに比べてうちの従魔達は一体どういう事だろうか。


「結果は見ての通りだ。ダンゴムシは連れていく。文句があるなら村に来い。だが、その時は約束を守れない駄目な魔物として語り継ぐ。起きたらそう伝えてくれ」


 なんなのこのイケメン。幼女なのに。


 それを聞いた狼たちは一度だけ頷くと、道を開けた。やはり犬はいい。


 よし、この時間なら急げば宿で夕食を食べられる。それに野宿よりもベッドで寝たい。あまり何もしていないけど疲れたからな。


 だが、ダンゴムシとドッペルゲンガーはどうするべきか。スライムちゃん達はホウキで飛べるから良いけど、片方はダンゴムシだし、片方は気絶しているからな。


 そんなことを考えていたら、ジョゼフィーヌが提案してくれた。どうやら自分の体内に取り込んで運んでくれるようだ。普段ならできないが、さっき魔力を食ったので村までなら十分可能らしい。どういう原理なのか分からないが、出来るならやってもらおう。


 さあ、帰ろう。

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