ダンジョンコア

 

 ジョゼフィーヌが「このダンジョンからダンジョンコアを回収しましょう」と言い出した。この子は何を言っているのだろう。


 理由を聞いてみると、「村にダンジョンを作るので」と言った。まだ、村長の許可が下りていないと言うと、「アンリ様ならやってくれます」と、力強く答えてくれた。エリザベートもシャルロットも力強く頷いた。


 お前たちのアンリに対するその信頼はなんなのだろうか。寂しくはないが、私よりもアンリを信頼している感じだ。絶対に寂しくはないが。


 このダンジョンが何のためにあるのかは分からない。だが、勝手にダンジョンコアを回収して、潰してしまってもいいのだろうか。それに村にダンジョンを作るのはちょっとどうかと思う。


「このダンジョンを勝手に潰すのは良くないと思うから駄目だ。どんなダンジョンにも存在理由はある」


「あ、このダンジョンは私が襲った魔族が作ったものですよ? 私を閉じ込めるだけに作ったようでしたね」


 余計なことを言うな。しかし、コイツを閉じ込めるだけにダンジョンコアを使ったのか。昔の魔族は何を考えているんだろう?


「数十年閉じ込められていましたが、住むには快適でしたね。外とのつながりもあったので暇という事もなかったですから」


 快適か。ダンジョンコアの種類によるが、これは住居型ダンジョンなのかな。それなら、魔族が人界で拠点を置くときに使う物だ。だが、回収されなかったところを見ると、このダンジョンを作った魔族は既にいないという事か。よし、そういうことなら回収しておくか。


「これは魔族の遺品ともいえるだろうから、ダンジョンコアの回収はしておこう。だが、村でダンジョンを作るかどうかは別問題だぞ?」


 スライムちゃん達は頷いた。しかし、あの目は既に作る気満々だ。注意せねば。


「直径一メートルぐらいで、ひし形の水晶を見たことはないか? それがダンジョンコアなんだが」


「いえ、見たことはないですね。ですが、こことは別の部屋に手形のマークがありますので、もしかするとその奥にあるのかもしれませんよ?」


 なるほど。可能性はあるな。ダンジョンコアが壊れないように封印するタイプか。


「よし、そこに行こう」


 ダンゴムシの案内で手形のある部屋に移動した。




「ここです」


 この部屋の壁に手形があった。開きそうな扉もある。まず、間違いないだろう。


 手形に手をかざす。手形が輝き、鈍い音を立てて扉が開いた。扉の奥は通路になっているようだが暗い。すこし待つと、通路の壁が手前から奥の方へ順番に光を放った。こういうのはどのダンジョンも共通だな。


「す、すごいですね? こんなものがあるとは知りませんでしたよ?」


「ダンジョンの中枢とも言える場所だからな。それなりに立派だ」


 魔界にあるダンジョン、魔都ウロボロスのダンジョンコアなんてもっとすごい。近寄ると攻撃されるからな。ここは地味で大人しい方だ。


 光る通路を通り、奥の部屋に到着する。部屋の中央に台座があり、その上にひし形の水晶が浮いていた。水晶はゆっくりとその場で回転して輝いている。


 ダンジョンコアか。正式名称を魔界の開発部に聞いたことがあったが忘れたな。確かダンジョン内の魔力を吸収してダンジョンの維持を行っていると説明を受けた気がする。余剰魔力を使って物を作り出すとかも聞いたことがある。見たことは無いけど。


 高度な技術で作られているようで、開発部の奴でもこれは作れないらしい。いまでも開発部で色々と解析しているようだが、分からないことが分かりました、と言われたことがある。最初から、分からない、といえばいいのに。


 下手に扱うと開発部の奴らに怒られるから、ちゃんと手順に沿って回収しよう。確か台座に手を置いて対話をすればいいはずだ。


「機能を停止したい」


「現在、維持管理、の機能が動作中です。すべて停止しますか?」


 ダンジョンコアが喋った。なんというか感情のない声だからあまり好きじゃない。


「すべて停止してくれ」


「その動作を行うためには一定以上の権限が必要です。チェックします。しばらくお待ちください」


 なんだか腹に響くような音が聞こえる。ちょっと気持ち悪いな。


「権限を所持していることを確認しました。機能を停止します。空間維持は十五分です。速やかに退去願います。ご利用ありがとうございました」


 ダンジョンコアから光が失われて、回転が止まる。その後、水晶が変形を繰り返して、十センチぐらいの箱になった。相変わらず、どういう原理か分からん。だが、これは回収しておかないとな。


 ダンジョンコアを亜空間に放り込むと、周囲の温度が下がった気がした。ダンジョンの維持機能が失われたようだ。


「さあ、戻ろう。ダンジョンコアを台座から取り出した時点で、ダンジョンの崩壊が始まってるからな」


「長年住んだ場所が壊れるのは寂しいですね」


 お前にとっては牢屋だろうが。まあ、言わんとすることはわかる。だが、感傷に浸るのは後だ。


「行くぞ。崩壊に飲み込まれたら死ぬぞ」


 スライムちゃん達もダンゴムシも私を置いて、さっさと行ってしまった。ダンゴムシはともかく、スライムちゃん達は私への扱いが酷い気がする。




 マリーと合流し、入り口で動けないドッペルゲンガーを回収してからダンジョンを出た。


 外はもう夜だ。今日は月が出ているから結構明るいな。


 さて、とっとと帰るか。だけど、面倒くさい奴がいる。


「匂いを追ってきたが、先を越されたようだな? だが、殺していないと見える。我にそのドッペルゲンガーを渡すがいい」


 大狼がダンジョンの外に居た。そして子飼いの狼たちが私達を包囲している。逃がす気はないようだ。


「待て。お前に呪いをかけたのは、ドッペルゲンガーではない。このダンゴムシだ」


「ほう?」


「な、なんでバラすんですか! 間違ってはいませんけど、もうしませんから! だから、助けてくださいよ!」


 ダンゴムシは大狼に助命を願うのではなく、スライムちゃん達に助けを求めている。


「しばらく見ていなかったが、貴様が元凶だったか。そういえば、昔、お前が傀儡的なことを出来ると耳にしたことがある。なるほど、ドッペルゲンガーを操っていたのだな?」


「まあ、そういうことだ。だが、誰かを操るような事は出来ないように制裁を加えた。見逃してやってくれ」


 村で働くという事になっているからな。一応、助けてやらないと。


「下らぬ。その程度で数十年呪いを受け続けた我の気持ちは収まらぬわ。死をもって償うがいい」


 やられたらやり返す。間違ってはいないな。だが、殺すのはどうだろう? スライムちゃん達も制裁はしたが、殺しはしなかったからな。


「なぜ庇うのか分からぬが、そいつもドッペルゲンガーも、ただの魔物だ。我ら魔物は弱肉強食。強き者に食われるのは当然であろうが」


 ドッペルゲンガーも食べる気か。だが、その言い方はまずいと思うぞ?


 案の定、スライムちゃん達が動いた。ジョゼフィーヌが一歩前に進み、「その理屈が通るなら、私がお前を食う」と言った。


「スライムごときが我を食うつもりか!」


 よし、魔物の事は魔物に任せよう。私は雑魚らしいからな。

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