四天王

 

「今の悲鳴か?」


「そうだとは思うんだけど、やる気がない悲鳴だね?」


 やる気がない悲鳴。面白い表現だが、そんな感じだ。危機感がないというか、演技っぽいと言うか。正直関わりたくない。


「キャー!」


 また、聞こえた。これはどうするべきだろう?


 ちらりとディアを見ると、関わりたくない、と顔に書いてあった。多分、私の顔にも書いてある。だが、そういう訳にもいかないか。


「ディア、親友だったよな?」


「都合のいい時だけ親友にする気だね?」


「正解だ。一緒に外に出る権利をやろう」


 というわけで、ディアと一緒に外に出た。


 広場には人族と思わしき男性のような女性がうずくまっていた。聞いた悲鳴は女性の声だったのだが、見た限りは男のように見える。というか、どこかで見たような?


 仕方がないので、顔を見ようと近づいた。そうすると、うずくまっていた奴が顔をあげて話しかけてきた。


「助けて下さい。ここから東の方で魔物に襲われました。討伐をお願いします」


 棒読みだ。だが、それよりも、顔を見ると結婚男だった。しかし、声が違う。どういうことだろう?


「ディア、どういうことだ?」


「私に聞かれても分からないよ。偽物なのは分かるけど」


 だよな。


「ち、ちち、違いますよ! ほ、本物です! か、完璧な人族ですよ!」


 なんだか馬鹿にされている気がする。大体、男の姿で女の声を出すな。姿を真似ているだけで、それ以外が全く駄目だ。簡単に言うと雑。人族に化けるなら、もうちょっと人族の事を勉強しないと駄目じゃないのか。


「いや、どう考えても偽物だ。お前、男の姿なのに女の服を着てるぞ?」


 偽物の奴は自身が着ている服を見たが、何がおかしいのか分かっていないようだ。


 まあ、いいや。怪しい奴だから捕まえよう。


「ディア、ギルドの牢屋を借りるぞ」


「うん、いいよ」


「あ、ちょ、すみません。出直しますから。やめてください。たす、助けて!」


 コイツは何なんだろう?




 変な奴を牢屋に閉じ込めた。この後、村長にも来てもらって尋問する予定だ。


「あの、出してくれますか? 私は善良な人族ですよ? 魔物じゃないですよ? むしろ討伐する魔物は東ですよ?」


 自分から魔物と言っているような気がする。


 少し待つと、ディアが村長を連れてきた。


「お待たせしました。怪しい奴を捕まえたとか?」


「コイツだ」


 牢屋の中にいる変な奴を指す。


「ロミットではないか。女物の服を着てどうしたんだ? ああ、そういうことでしたか。フェルさん、趣味というのは色々ありまして、一概に否定するわけには――」


「待て待て。コイツは偽物だ。魔物が結婚男に化けているんだ。ディア、すまないが本物を連れて来てくれないか?」


 ディアが頷いてからすぐに牢屋を出て行った。


「魔物が化けているのですか?」


「そうだな。見た限りだと、ドッペルゲンガーかな」


 私の魔眼はごまかせない。種族がドッペルゲンガーと書いてある。ただ、ドッペルゲンガーでも亜種、というかレアな感じだ。


「ち、違いますよ? 人族です。人畜無害です。だから、ここから出してください」


 その言い方で騙せる奴がいるのだろうか? あまり人族と関わったことがないのかな?


「フェルちゃん、連れてきたよ」


 ディアが結婚する二人を連れてきた。男の方は怠そうにしているが、女が支えるよう付き添っているので問題はなさそうだな。


「え? これはいったい? 自分がいる?」


「あ、貴方が二人?」


 二人とも混乱しているようだ。


「なんで怪我が治っているんですか? 昨日、全治一ヶ月ぐらいの怪我をさせたのに……?」


 尋問してないのに自白した。コイツが犯人か。


「お前が昨日、襲ったんだな?」


「ち、違います。えーと、その男が偽物なんです。本当です。信じてください」


 これほど心に響かない言葉も珍しいな。どうしようかと思っていたら、結婚女が前に出た。


「残念だけど、私がこの人の事を間違えるはずはないわ! 例えこの人と同じ女装趣味を真似してもね! あ、それに貴方の方が良く似合っているわよ?」


「うれしいよ。もちろん君の男装も素敵だよ?」


 なんというか、知りたくない情報を知ってしまった。ディアも渋い顔をしている。


 大体、女性の声を出している時点で間違うはずがない。これはなんという茶番なんだろう。


「じゃあ、みんな、そういう事で解散。私はコイツに落とし前をつけさせる」


「ま、待ってください! 昨日襲ったことは認めますし、謝罪もします! 事情を話しますから助けて!」


 泣き出した。女装した男が泣いているのは、見た目のインパクトが強すぎる。


「あの、とりあえず、自分の姿で泣くのやめてもらっていいですか?」


「あ、はい。普段の姿に戻りますね」


 ドッペルゲンガーが一瞬だけ煙に包まれると、次に現れたのは、目や鼻のない人族だった。髪型や体型は女性っぽいな。そして顔に口だけはあるけど、それが逆に怖い。


「この姿が普段の私です」


「とりあえず、事情というのを話せ。情状酌量があるかもしれんぞ?」


 話を聞いてみると、こんな感じだった。


 どうやら、このドッペルゲンガーは、この森にいるドッペルゲンガー族を率いている族長らしい。


 姿を真似られても戦闘力が乏しいドッペルゲンガーは、森の中で襲われる立場だった。だが、先代族長が色々と策を弄して、戦闘力はないものの、森の四天王を名乗れるほどまでなったということだ。


 そして先代が数年前に亡くなり、ドッペルゲンガーの族長を継いだ。しばらくは先代族長の策が効いていたので問題なかったが、少しずつ森の勢力図が変わってきたらしい。


 そして一昨日、数年間に行方不明になった四天王の一体が森に戻ってきたそうだ。


 これはまずいと思って、その四天王の一体をどうにかしようと考えたが戦闘では勝てない。なので、人族に討伐させようと考えた。


 人の姿で助けを求めれば、討伐してくれるのではないかと思ったらしい。


 それで今回の騒動に至ったわけだ。


「この男を襲ったのはなんでだ?」


「たまたま村の外にいる人族を襲ったとしか言えないです。最初、オークに攫われたのかな、と思ったので丁度いいや、と」


「大狼の姿で襲ったのは?」


「私はちょっと特殊なドッペルゲンガーでして、相手を噛まないと姿を真似ることが出来ないんです。普通は相手の魔力を感知すれば十分なんですけど。なので、噛みやすい大狼に姿を変えました。周囲にいた狼もドッペルゲンガーです」


「特殊というか、劣化してないか? 噛む必要があるんだろ?」


「私の場合、噛めば相手の記憶などもある程度得られるんです。姿だけでなく記憶を得られるのはレアですよ! レア!」


 そんなことは知らん。だが、なんとなく理由は分かった。女装してきたのも、ある程度の記憶しか得られなかったからか。


「それでどうでしょうか? 四天王の一体を討伐してもらえると助かるのですが? このままだと種族が安全に住める場所がなくなってしまうのです」


 さて、どうしたものかな。

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