推理

 

 村まで戻ってきた。辺りはもう暗い。だが、広場ではたき火をしているようで随分明るかった。キャンプファイヤーというやつだろうか。


「フェルさん。大丈夫でしたか?」


 村長が心配そうに話しかけてきた。他にもノストやディア、ヴァイア、リエルもいた。待っていてくれたのか。いい奴らだ。


「ああ、狼はヤトが倒した。殺してはいないが、問題を解決してやったし、力の差はわかっただろうから、今後、襲ってくる可能性は低いだろう」


 だが、何かを忘れている気がする。思い出せないという事は、大事なことでは無いと思うが。


「狼が襲ってきた理由は分かった?」


「どうやら、魔族を食べると呪いが解けると思い込んでいたのが理由だった」


 ディアが不思議そうな顔をした。他の奴らも首をかしげて不思議に思っているようだ。どうした?


「フェルちゃん、何の話かな?」


「いや、襲われた理由だろ?」


「えっと、村の狩人さんが襲われたじゃない? オークさんも。いままで大狼は夜しか行動していなかったから、昼間に襲ってきた理由を聞いたんだけど?」


 そうか、私を襲った理由は別件だ。重要なのはオーク達を襲ったかどうかだ。そう考えると、あの狼は関係ないのか? でも、待てよ? 昼間はあの寄生虫に操られていたはずだ。なら、昼間に襲える可能性はあるよな。よし、完璧な推理だ。


「狼は夜しか動けないと言っていたが、昼間は操られていたんだ。その状態でたまたま襲ったんだと思う」


「フェル様、それは無いニャ。あの狼からは血の匂いがしなかったニャ。操られて襲ったとしても、あの短時間に血の匂いは消せないニャ」


 論破された。でも、あの狼にはアリバイが無いぞ? 血の匂いも何かのトリックかもしれない。


 いや、まずは落ち着こう。クールだ。冷静になれ。慌てると犯人の思うつぼだ。


 そうだ、推理する時は昔読んだ推理小説が参考になるかもしれないな。こういう時の展開はいつも一緒だ。


「犯人はこの中にいる?」


「フェルちゃん、落ち着いて」


 ディアに言われて落ち着いた。なんというか、ディアに言われたのが悔しい、という気持ちになってかなりショックだ。


 落ち着いて考えよう。多分、あの大狼以外の狼がいるのだろう。ということは、あの大狼を倒しても報復は完了しないということだ。ぬかった。


 だが、広範囲に探索魔法を使っても、大狼ほどの生体反応はない。襲った狼というのは、実際はそれほど大きくなかったのだろうか?


 今日はもう遅いから、明日にでもあの大狼が襲った奴かどうか、オーク達に確認してもらおう。血の匂いがしなかったらしいが、何らかの手段で消していた可能性もある。確認は必要だ。


 手っ取り早く魔眼を使ってしまうという手もある。だが、魔眼は使い過ぎると昏睡状態になるらしいからな。これは最後の手段だ。


「大狼を倒したが、今回の件とは関係ない可能性が高いな。襲った奴が周辺をうろついているかも知れないから、今日は引き続き従魔達に警戒してもらおう」


 とりあえず、今日はそれで解散になった。


「では、我々も交代で見回ります。従魔の皆さんだけにやってもらうのは心苦しいので」


 ノストが優等生な回答をした。そのまま見回りを行うそうだ。そういうイケメン行動を取ると、ヴァイアがポンコツになるからやめてほしい。


 さて、宿に戻るか。食事をしないとな。


 宿に入り、いつものテーブルに座る。なぜかディアもヴァイアもリエルも座った。もしかして食事をせずに待っていたのだろうか? さっきも思ったが、いい奴らだな。


「お前達、食事をしていないのか?」


「大狼討伐の依頼票を作ってたんだ。でも、なんで倒してこないの! 無駄になったじゃない!」


「広場でノストさんと話してたら、いつの間にか夜だったよ」


「フェルがいねぇと金がねぇ」


 いい奴等じゃなかった。まあいい。いつもの事だ。食事にしよう。


 なぜかすでにウェイトレス服を着ているヤトが注文を取りに来た。


「ヤトは食事をしないのか?」


「今は忙しい時間ニャ。峠を越えたらまかないを食べるニャ」


 ウェイトレスの鑑だ。狼と戦う時よりも気合が入っているのはどうかと思うが。


 ヤトに食事を頼み終わった。そろそろ無料じゃなくてお金を払った方がいいな。宿の経営を圧迫させてるし、明日からは宿泊代や食事にお金を払おう。


「ところで、私が村を出た後に何かあったか?」


「特にはなかったね。噛まれた狩人さんや、オークさん達はちょっとだるそうだったけど、傷は塞がっていたから命に別状はないみたいだよ」


「当たりめぇだ。俺が治したんだぞ? 腕が二、三本無くなっても死んでなきゃ治してやるっての」


 腕は三本もないけどな。


「おかげで、予定通り結婚式が出来るって喜んでたよ」


「結婚式かぁ。綺麗なんだろうなぁ。私もいつか……えへへ」


 ヴァイアがうっとりしだした。しかし、綺麗というのはどういう事だろうか?


「綺麗ってなんのことだ?」


「魔族には結婚の文化がないんだっけ? 式を挙げる人はね、綺麗な衣装を着るんだよ。ウェディングドレスってやつだね。実を言うと私が作ったんだ。当日に見て感動するといいよ!」


 綺麗な衣装か。魔界では実用性重視だから、綺麗といえるような服はない。乙女としては興味あるな。だが、それよりも聞くことがある。


「結婚式をいつやるか決まったのか?」


「三日後だって、村長さんが言ってたよ。明日から広場で準備するみたいだね」


 三日後か。その前に狼の件を片付けたいな。結婚式の最中まで狼の警戒とか従魔にさせたくない。いざとなったら魔眼を使ってしまおう。


「なあ、もしかして、祭りって結婚式のことなのか?」


 そういえば、リエルに祭りがあるとしか言わなかったか。


「そうだよ? そもそも、リエルちゃんが結婚式の進行役じゃない」


「なんで俺がやるんだよ? 俺が結婚してねぇのに他人を祝えってのか?」


 心が狭すぎる。本当になんで聖女に指名されたのか分からん。


「私の記憶だと、リエルちゃんは女神教のシスターだったよね? 女神教の仕事でしょ?」


 私の記憶でもそうだ。


「そうだけどさぁ。じゃあ、少なくとも、お前らは俺より先に結婚すんなよ? 結婚しそうになったら絶対に邪魔するからな?」


「これも私の記憶なんだけど、リエルちゃんは女神教の聖女だったよね? そもそも結婚できないでしょ? 私達にずっと独身でいろってことなのかな!?」


 リエルは結婚するために女神教を潰そうとしているけどな。だが、聖女を辞めても相手がいないと思う。


「リエルちゃん、爆殺と焼殺と圧殺。どれが好き?」


「あえて言うならどれも嫌いです。ヴァイアさん、テーブルに石を三つ置いて、そういう聞き方は良くないと思います。結婚を邪魔したりしませんから、許してください」


 ヴァイアの邪魔をしたら私でもやられそうだ。命が惜しいから応援してやろう。




 食事が終わり部屋に戻ってきた。しかし、あのハンバーグ。豆腐だったとは。魔眼さえ使えれば騙されなかったのに。


 さて、従魔達が見張りをしているが、念のために探索魔法を展開しておこう。対象を狼にして、近づいたら分かる様にすれば安心だ。


 さすがに結界を村全体には張れないからな。でも、ヴァイアならやれるか? しまったな。さっき聞けばよかった。まあいい。明日、聞いてみよう。


 よし、やり残したことはない。日記を書いて、体を洗ったら寝よう。しかし、何かを忘れている気がする。なんだろう?

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