英雄
とりあえず、領主と話をしたからこれでいいだろう。暴れた時の補填に関しては義理を果たした。帰ろう。
「では、帰る。土産はいらない。じゃあな」
椅子から立ち上がり、帰ろうとした。
「フェルさん、待ってください」
ノストに引き留められた。何だろう?
「地下にいる魔物の従魔化をお願いしたいのですが」
そういえばそうだった。一度私の従魔にしてから、村に来るか、野に戻るか決めさせるんだった。忘れてた。
「おお、面白そうだね! ぜひ私も見てみたい! 早速、行こうじゃないか!」
全員で地下に向かうことになった。見られて困るような事はないが、面倒だな。
「そういえば、ここにある地下室は次男の奴が作ったのか?」
移動中にクロウに聞いてみた。大して興味があるわけではないが、酷い目に遭ったのだから確認しておきたい。
「ここは私が若いころに魔法の訓練をしたところなのだよ。それを改築したようだな。ここを使っていたのは、何かあったときに私に罪を擦り付けるつもりだったのかもしれん」
なんとなくだが、次男に対して厳しい感じを受けるな。自分の息子なのにそれほど愛情は無いのかな?
そういえば、勘当して親子の縁を切っているとか聞いたことがある。だが、その割には、この館を使わせていたみたいだし、改心するのを心ならずも待っていた、というところかな?
まあ、どうでもいいか。アイツ等にどんな事情があるかは知らないし、クロウが次男の奴をどう思っているかも関係ない。アイツ等が私に敵対して、それを潰した。ただ、それだけだ。
「フェル君、君には感謝しているよ。息子だけでなく、ギルドマスターや司祭達の犯罪を明るみにしてくれたことで、色々な問題を一気に解決できた。以前からマークしていたが、なかなか尻尾を出さなかったのでね」
「気にするな。降りかかった火の粉を払っただけだ」
おお、死ぬ前に一度は言っておきたいセリフを言うことができた。日記に書いておこう。
「そうか。なら、改めて感謝しよう。ありがとう」
やめろ。背中が痒くなる。それに感謝ということなら、私にではないな。
「クロウが感謝するべきは私じゃないと思うぞ」
そう言うと、クロウが不思議そうな顔をした。
「む? あちらのお嬢さん達ということかね?」
「違う。最も感謝するべきは、ノストだという事だ」
「ほう? それは何故だね? 確かに護衛としての役割を果たしたのはノスト君だが、最も感謝するべき、というのは分からないのだが?」
分からないのか。この辺が魔族を知らない世代ということなんだろうな。
「なんと言えばいいかな。もし、ノストがヴァイアを庇うことが出来なかったら、地図を描く奴が大変だ、ということだ」
クロウは再び不思議そうな顔をした。顎をさすりながら考えている。
ここまで言っても分からないようだ。ちょっと遠回し過ぎたかな。
「旦那様。フェル様は、ヴァイア様に何かあったら、地図を書き直す必要がある、とおっしゃっているのです」
「地図を書き直す? なぜだ? ……あ!」
察してくれたようだ。こういうのは、はっきり言わない方が格好いいからな。だが、逆に気付いてくれないと格好悪い。執事、グッジョブ。
「地図から町が消える、ということだな?」
おしい。ハズレだ。
執事も顔を横に振った。どうやら執事は分かっているようだな。おそらく過去の魔族を知っているのだろう。
「旦那様。魔族を怒らせておいて、この町だけで済むわけがありません。おそらく、オリン魔法国ごと地図から消える可能性が高いでしょう」
「なんだと?」
「旦那様は人魔大戦後のお生まれですから、知らないのは無理もありません。魔族とは一騎当千なのです。それは比喩ではありません。人魔大戦と言いながら、過去に人族を襲っていた魔族は、確認出来るだけで数十人程度しかおりません。その人数で魔族は人族と何年も渡り合っていたのですよ」
執事が一度私の方を見てから、クロウへ向き直った。
「私の見立てでは、過去に見たことのある魔族の中でも、フェル様は飛びぬけてお強い。何の制限もなく暴れれば、この町など半日も掛からずに無くなります」
なにか遠回しに褒められている気がする。また、背中が痒くなってきた。
「それ程か! だが、魔族との闘いで生き残れたお前が言うのなら、それは冗談ではないのだな?」
執事は少し笑みを浮かべて肯定した。
「先程の魔界に行きたいという話で、調子に乗ってしまったのは失敗だったか?」
失敗と言いながら、その顔は笑っている。私の力を信じていないのか、それとも豪胆なのか。執事への信頼度から考えると後者かな?
「食後の話でも言ったと思うが、魔王様からの命令でもあるし、勇者との協定もあるから、無意味に暴れたりはしない。だが、私が懇意にしている村の住人に手を出してみろ。命令だろうが、協定があろうが関係ない。必ず潰す」
魔王様の命令は絶対だが、それは平時の場合だけだ。知り合いを傷つけられて黙っている魔族はいない。必ず報復する。
それをやったら魔界に強制送還かな。死刑はないだろうが、禁固刑にはなりそうだ。まあ、それは仕方ないな。自分の意思だ。どんな罰でも受けよう。
「なるほど、よく分かった。ノスト君への感謝はあれだけでは足らんな。別途、何か考えるとしよう」
「そうでございますな。国を救った英雄とも言えますからな」
あ、そういう事になるのか。まあ、いいか。褒美がもらえるならノストもうれしいだろう。
丁度、話が終わったときに地下室へ着いた。
従魔化の前に、まずは魔物達をよく見てみよう。リンゴをあげたけど、ほとんど話をしてないしな。
牢屋には九体の魔物がいて、リエルが一体ずつ紹介してくれた。
クモの胴体に女性の上半身、アラクネ。
鳥の羽を持った人族、ハーピー。
家事大好き、シルキー。
シャウト系、バンシー。
巻き付いたら離れない、ラミア。
刺殺系女子、キラービー。
寒い場所が苦手、リザードマン。
満月で興奮するチューニ病、ライカンスロープ。
不老不死の風評被害が激しい、マーメイド。
女性型の魔物ばかりだな。次男の趣味だったのだろうか。
「従魔化というのは、どうするのかね? 魔物を調教するのとは、また違うのだろう?」
「契約魔法というものはあるが、基本的には面接だ」
志望動機やアピールポイントを聞いて従魔にするか判断する。だが、スライムちゃん達は、命を捧げます、ぐらいのアピールだったのに、最近は言う事を聞いてくれない。従魔って難しい。
「面接? 確かに、魔族は魔物と話ができると聞いたことがあるな! 見ていても構わないかね?」
「別に構わない。ただ、私は人族の言葉だが、魔物達の声は理解できんぞ?」
多分、シャー、とか、ピチピチとかしか聞こえないと思う。
「そこは通訳してくれたまえ」
面倒くさいな。
「なあなあ、俺もコイツ等とはそれなりの時間を一緒に過ごした戦友だから面接させてくれよ」
リエルは魔物達と一緒に牢屋に入れられていたからな。何か思うところがあるのかもしれない。
「お前が面接しても、お前の従魔にはならんぞ。それでもいいなら、好きにしろ」
ヴァイアが見当たらないので、どうしたのだろうと思ったら、ノストの横にぴったり付いていた。暴走するなよ。
よし、面接するか。とりあえず、従魔になりたい志望動機……あ、そっか、死にたくないからだな。従魔にならないと処分されるから、一時的に私の従魔になるのが理由だった。
じゃあ、経歴と自己アピールとキャリアアップについて聞くか。
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