センス
「フェルさん、少しよろしいでしょうか?」
面接を始めようとしたら、ノストに割り込まれた。一体なんだろう?
「よく分からないのですが、今回、魔物達を従魔化するのは決定事項ですよね? わざわざ面接をするのですか? 強制的に従魔にするのでは?」
「決定事項とは言っても、従魔にするかどうかはしっかりと判断した上で行いたい。そのための面接だ。あと、強制的に、と言ったが、従魔の契約魔法を知らないのか?」
「あ、はい、勉強不足で申し訳ないのですが」
そうなのか。もしかすると全員そうなのかな?
「フェル様、魔族が魔物を従えることを従魔と言うのは人族にも伝わっております。ですが、その魔法を知っている人族はおりません」
「なら最初に説明しないと駄目か?」
「可能であれば、よろしくお願いします」
クロウの目が期待に満ち溢れているし、説明しないと後がうるさいかな。
「契約魔法の一つに従魔というものがある。これを使うと、施行者と対象の魔物との間で主従関係が結ばれる。だが、最初の時点では仮契約だ」
「仮契約というのは、どういう状態なのかね?」
「仮契約中は、どちらか一方の都合で契約が破棄できる状態だ。施行者からでも、魔物の方からでも破棄できる。また契約の不履行でも破棄されるな」
強制的に相手を従えさせる魔法は精神魔法の分野だ。契約魔法はお互いの意思があって初めて成立するものだからな。
「仮契約中にお互いが本契約を結びたい、となったら、そこで初めて契約が結ばれる。本契約になったら、今度は両方の意思がないと契約を破棄できなくなる。また、本契約中に不履行があった場合は、契約に基づいたペナルティが課される。色々と例外はあるがな」
「面白い物だな! その魔法をぜひ研究させてくれたまえ!」
「嫌だ。面倒くさい。とりあえず、一応、従魔の魔法プロセスはわかったな?」
「あの、度々すみません。魔法プロセスはわかりましたが、面接をするという事は、本契約までする、ということでしょうか?」
また、ノストが質問してきた。もう、そういうのは後にしてほしい。だが、ノストにはヴァイアを庇ってくれた恩があるしな。ちゃんと説明するか。
「そうだな。今回は色々と事情があるからな。例えばだが、仮契約の状態で牢から出すと、本人の意思で契約を破棄できるから、牢から出た後に町の住民を襲うことが可能だ。そうなれば、私の責任になる。それは避けたい」
そんなことになったら魔王様に怒られる。
「だから、面接をして本契約出来なければ、残念ながらその魔物は処分だ」
牢屋に居る魔物達がびくっとなった。結構広い場所なのに聞こえるんだな。
「安心しろ、そんなに面接のハードルを上げるつもりはないし、無茶な契約で縛るつもりもない。契約中に人族を襲ったら死ぬ程度の契約だ」
「怖! そんな契約、嫌すぎるだろ?」
「どうしても人族を襲いたければ、今、この場で暴れるか、野に放った後で暴れればいい。一時的とはいえ、私の従魔になるなら、その間は魔王様の方針に命を賭けて従ってもらう」
魔物達が何度も頷いていた。必死だ。
「あと、今回は私の方から一方的に契約を破棄できる状態での契約だ。町の外に連れ出すだけの理由で、ずっと私の従魔でいられても困るからな」
「色々と考えてくれているのですね。助かります。あ、作業を止めてしまって申し訳ありません」
「いや、魔物達への説明も一緒に出来たと思うから、丁度良かった。では、もういいな? 早速始めよう」
まずは、アラクネからかな。
アラクネに従魔の魔法を掛ける。これで仮契約状態になった。続いて質問だ。
「これまでの経歴や経緯、自己アピール、それと今後のキャリアアップについて教えてくれ。あと、私が懇意にしている村に行きたいかどうかも言って欲しい。それとリエルがお前達を紹介した時に言った、二つ名みたいなものについて、本心を聞かせてくれ」
「ちょっと待て」
いきなりリエルが割り込んできた。面接中なのに。
「なんだ?」
「色々言いたいことはあるが、まず、経緯や経歴って必要なのか?」
「特に必要は無い。単純な受け答えが出来れば十分だ。だが、他種族を殺すのが好きです、みたいなサイコパスだったら一時的でも従魔にしたくない。それに、村に行きたい、という魔物に関してはしっかり吟味したいからな。本契約のための質問というよりは、村に来ることを許可できるかを判断するための質問だと思ってくれ」
「じゃあ、二つ名についての本心を聞きたい、と言うのはどんな意味があるんだ?」
「センスのない奴も従魔にしたくない」
「サイコパスとセンスのないことが同等なのかよ。というか、俺の付けてやった二つ名について、どういう回答を期待しているんだ?」
「時間がなくなってきた。早く始めよう」
「こっち見て答えろ」
察しが悪いな。
よし、気を取り直して面接開始だ。
アラクネは、群れをなさずに一人で森を放浪していたらしい。
森で昼寝しているところを捕まったとのこと。クモの糸で作ったハンモックが気持ち良すぎて周囲への警戒がおろそかになってしまったそうだ。
自己アピールとしては、糸が強力であることを熱弁された。罠を作るのが得意らしい。
キャリアアップとしては、糸で布を作り、その布から服を作りたいので人の服を見て勉強中とのこと。
人族の服を研究したいので、村に行きたいという事だ。
二つ名がタダの説明なのでもっと格好いいものにしてほしい、という意見だった。
総合的な判断で問題なしとした。
リエルが最後の問いに関してうるさかったけど黙らせた。
そんなこんなで全員との面接が終わった。
アラクネ以外を纏めるとこんな感じだった。
ハーピーは村で狩人をしていた。
寝ている所を捕まった。
空を飛べる。
音速レベルで飛びたいので風の魔法を覚えた。
婚約者がいるので帰りたい。
鳥の羽はあるけど人族っぽいという二つ名は嫌。
シルキーは自分の住みつく家を探していた。
家事をしないと禁断症状がでるので、知らない人の家に忍び込んだら捕まった。
家事全般が超一流。
誰にも気づかれずに家事が出来るように特訓中。
人のいる家で家事をしたいから村に行きたい。
家事は大好きだけど、もっと格好いい二つ名にしてほしい。
バンシーは吟遊詩人を目指して放浪していた。
森で歌っていたところを捕まった。
シャウト系の歌が得意。
人が死ななくても叫べるように特訓した。
人の居るところで歌いたいので村に行きたい。
バラードもいけるのでシャウト系と紹介されるのは嫌。
ラミアは村で狩人をしていた。
いい感じの木に巻き付いたら蛇のしっぽが絡まり、外れなくなって捕まった。
木登りが得意。
無自覚に周囲の男を魅了しないように頑張っている。
狙っている男がいるので帰りたい。
束縛する女っぽいので違う二つ名がいい。
キラービーは女王として何不自由なく生きていたが、このままではいけないと思い放浪の旅に出た。
その途中に虫取り網に捕まった。
自分でハチミツを作れるように頑張った。
独自のハチミツ作りを研究している。
研究のためにも村に行きたい。
刺すことはあっても殺すことは無いので、二つ名が合っていない。
リザードマンは住んでいる場所の近くにある川で魚を捕る仕事をしていた。
寒くなって動けなくなったところを捕まった。
泳ぎや魚を捕るのが得意。
魚の養殖を始めていた。
二児の母なので帰りたい。
弱点を二つ名にするのは嫌。
ライカンスロープは村で狩りの仕事をしていた。
満月の時にテンションが上がって酒を飲み過ぎたため、二日酔いで思うように動けず捕まった。
狩りが得意。
満月でも理性を保てるように特訓中。
旦那がいるので帰りたい。
チューニ病は不本意。満月を見ると興奮するのは本能。
マーメイドは内海で戦士として戦っていた。
漁網に引っかかって捕まった。
槍捌きが得意。
十人隊長になるために日々訓練している。
クラーケンとの戦いに参加したいので帰りたい。
不老不死の情報はクラーケンの策略なので絶対に使いたくない。
村に行きたい奴は、アラクネ、シルキー、バンシー、キラービーか。行きたい理由も普通だから問題ないかな。
「全員、問題なしだ。本契約に移ろう」
ということで、全員を従魔にした。
「よし、これで終わりだな。もう、用は無い。帰ろう」
「あの、フェルさん。リエルさんが焦点の合わない目で膝を抱えながらブツブツ言っているのですが」
センスがあると思っていたことに驚きだ。
「リエル。センスというのは時代によって違う。お前は早すぎるんだ。だが、ローズガーデンという偽名は良かったぞ」
復活した。ちょろいな。
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