お土産

 

 なんだか随分早く起きてしまった。眠い感じはしないので、かなり熟睡だったのだろうか。


 昨日は天使と戦ったし、本気を出すことが多かったからな。体が疲れていたのだろう。


 左右のベッドを見ると、ヴァイアとリエルがそれぞれ寝ていた。


 ヴァイアは普通だが、リエルは寝相が悪いな。ローブがはだけている。なんというか、酷い物を見てしまった。忘れたい。


 まあ、いい。とりあえず、今後の予定を考えよう。


 ソドゴラ村にはいつ帰ろうかな? 今日は領主と会う必要があるから、明日にするか。カブトムシに、明日の朝に来るように伝えておこう。そうだ、リエルとドワーフのおっさんの二人が増えることも伝えないとな。


 食べ物のお土産は今日中に買っておこうか。明日の朝じゃ忙しいだろうしな。あと、個人的に本が欲しかった。たしか本屋があると聞いたから、今日はそこに行ってみよう。午前中がいいかな。領主との面会がどれくらいかかるか分からないし。


 色々と魔王様に報告したいのだが、ここじゃ無理だ。村に戻ったらすぐに連絡しよう。まあ、これは明日、村に帰ってからだな。


 着替えて準備をしていたら、二人が起きだした。


「おはよう、フェルちゃん、リエルちゃん」


「おー、おはよー。二人とも起きんのはえぇな。俺はまだねみぃ」


「おはよう。起きたばかりでなんだが、お前たちは今日、予定はあるのか?」


 二人とも起きたばかりの頭で色々考えているようだ。リエルは半分寝てる感じだが。


「私はないよ。昨日、使い捨ての魔道具を雑貨屋さんに売っちゃったからね」


「あー、俺もねぇな。そもそも、この町に用があったわけでもねぇしな」


「そうか、私はお土産用の食べ物を買いに行く。あと本屋にも行くが、午前中に終わると思う。一応、護衛という事でリエルは連れていくが、ヴァイアはどうする?」


「うん、もちろん一緒に行くよ」


「そうか。じゃあ、二人とも準備してくれ。朝食を食べたらすぐにいこう。昼は領主と会わないといけないからな」


 二人とも頷いてから、色々と準備を始めたようだ。私は二人が準備している間に、ジョゼフィーヌに念話を送ろう。


 ちゃんとカブトムシを手配してくれるようだ。帰りは四人であることも伝えたし、これで問題はないだろう。


 準備が整ったので、宿の一階で食事をしたのだが、ハチミツというものが出た。なんというか、甘さに重点を置いた食べ物だな。嫌いじゃない。むしろ好きだ。確かエルフがほしいと言っていた気がする。お土産として買っていこう。


 念のため、宿の主人にノストが昼に来ることを伝えて、それまでには戻るから待っていてくれ、という伝言を残した。これで入れ違いになることは無いだろう。


 よし、まずは商店街で食べ物を買おう。本は出来るだけゆっくり選びたいからな。




 朝だと言うのに、随分にぎわっているな。


 見た限り、海産物が多いような気がする。この町の近くに海なんてないよな? どうしてあるんだろう?


 魚を不思議そうに見ていたらリエルが説明してくれた。


「こっから南東に漁港があるんだよ。良くは知らねぇが、今日釣れたものを売りにきてんじゃねぇか?」


「漁港? 海が近いのか?」


「おうよ。内海ってやつだな。比較的安全らしいぞ。ちなみに外海はやばい」


 以前、村長に地図を見せてもらったことがある。確か大陸の南側が半円で抉れているような感じだったな。その海という事か。


 よし、ならお土産は海産物で攻めよう。それに、ニアなら美味しい料理にしてくれるはずだ。よく考えたら結婚式の料理として出してもらえば皆へのお土産になるな。しかも、合法的に私も食べることができる。なんという名案。




 商店街を歩き回って、カニとエビを見つけた。


「これは硬いけど美味かった。買おう」


「言っとくが、カニやエビは殻を食べないからな? 出汁を取る程度だぞ?」


「そんな食べ方は知らん。噛めるのだから食える」


 もったいないだろうが。


 カニとエビの横にある魚はなんだろう? 膨れているな。なんか破裂しそう。


「そいつはフグだな。美味いらしいけど、毒があるから人気がねぇんだ。物好きが買う程度だぜ?」


 人気が無いだけあって、確かに安い。しかし、毒か。でも、美味いらしい。うーん?


「そうだ、リエル、治癒魔法の解毒って出来るか?」


「出来るけど?」


「このフグをあるだけ売ってくれ」


 フグを売っていたおっさんが、ホクホク顔で売ってくれた。おまけに普通の魚をおまけしてくれた。いいおっさんだ。


「食べて毒に当たったら解毒させる気かよ?」


「いや、魚の毒を抜く」


「そっちかよ! でも効くか? 魚に治癒魔法掛けたことはねぇぞ?」


「駄目だったら、毒耐性スキルを持ってる奴に食わせる」


 確かヤトが持ってる。ヤトは魚が好きだし、大丈夫だろう。私も頑張ればいけるか? もしかしたら毒耐性スキルを覚えるかもしれないし。




「フェルちゃん、ハチミツが売ってたよ」


 ヴァイアが商店街の店でハチミツを見つけたようだ。値段を見ると結構お高い。宿の主人は良く朝食に出せたな。


「ハチミツを取るのは結構難しいからな。冒険者ギルドで高額な依頼になっているはずだぜ?」


「ハチミツって、どうやって手に入れるんだ?」


「蜂の巣から奪うんだと思うが、詳しくは知らねぇ。割るのかね?」


 買うよりも蜂の巣から奪った方が良いような気もするな。でも、そんな時間はない。それに色々とお金が入ってきそうなので、高額でも買ってしまおう。


 蜂蜜を結構買ったら、この店のおっさんに喜ばれた。おまけに蜂蜜酒というのをもらった。酒は飲めないけど、エルフなら飲むかな? これはエルフ達へのお土産にしよう。森まで行くのが大変だけど、カブトムシに頼めばやってくれるかもしれない。




 そのほかにも目についたものをかなり買った。正直、値段はわからないが、領主からの報奨金とか、護衛の依頼料とかで払えるだろう。


「買い過ぎじゃね?」


「村で祭りみたいなことがあるからな。たくさん買っても食べきれるだろう。駄目なら私が食べる」


 結婚式用の食材は結構集めているとか言っていたが、増える分には問題ないだろうしな。


「祭りがあんのか? そりゃ楽しみだ。いい男がいるといいけどなー。あ、エルフの男を紹介する話、忘れんなよ! というか、その祭りでエルフを呼んでくれよ!」


 忘れてた。しかし、結婚式に呼ぶのか。村長の家にエルフと念話できる魔道具が置いてあったよな? 村長の許可がでれば、一応、誘ってみるか? お土産も渡せるし。


「ノストさんは村に来ないかな? 来てくれたら、村を案内するのに」


 ヴァイアが独り言のように言っているが、あの村って案内するところがあるのか? 畑は案内しない方がいいぞ。今は平和だが、まだ安全とは言い切れない。


「夜盗の引き取り等、仕事の理由がないと来ないんじゃないか?」


「そっか、そうだよね。夜盗が村を襲ってくれないかなー」


「ヴァイア、心の声が口に出てる」


 私もお金のために夜盗に来てほしいと思ったことはあるけど。


「普通に誘ってみたらどうだ? ノストなら、ディアの言っていた夢のシステムを、まだ使えるかもしれんぞ? カブトムシがいるから片道半日もあれば来れるし」


 ヴァイアが一瞬、ぽかんとしたが、顔を赤くして空中に「の」の字を書きだした。


「え、でも、ほら、私が誘う理由がないし? いい人なんだけどね? 私にはもったいないと言うか? でも、子供は二人ぐらいがいいかな? 家は木製だよね? 犬も飼っちゃう?」


「落ち着け。後半、願望がダダ漏れだ。大体、ノストに友達以上の奴とか、つがいとかがいるんじゃないのか? その辺、聞いたのか?」


 今度は一転して絶望した顔になった。一気に顔が青ざめたぞ。しかも震えてる。


「ど、ど、ど、どうしよう!? フェルちゃん!」


「いや、落ち着け。胸倉を掴むな。それに揺らすな。あと、魔力が漏れてる。私でも気持ち悪いレベルだ。抑えろ」


 しばらくすると、ヴァイアが虚ろな目になって、ブツブツ言い出した。怖い。


「女は捕食者……偽装、罠、捕縛……一撃必殺……嘘は突き通せば本当……」


「ノストの相手を暗殺でもする気か。物騒な考えはやめろ」


 それは恋愛ではなく、ただの暗殺だ。恋愛道の心構えは怖すぎる。


「リエルもヴァイアに変な考えをしないように何か言ってくれ」


 リエルが真面目な顔でヴァイアの肩に手を置いた。


「女はすべてが許される」


 もうやだ、コイツ等。

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