教会

 

 グレガーは牢屋に放り込んでおいた。探索魔法で印をつけたから逃げても捕まえられるが、面倒なので閉じ込めた。


 受付の女性はグレガーをあまり好きではなかったらしい。不正の資料を見せると積極的に対応してくれた。あと、資料を「私が詰所に持っていきます」と言ってくれたので任せた。ヴァイアが資料をなかなか手放してくれなくて苦労した。


 見かねた受付の女性が「ヴァイアさんの名前、ノストさんに言っておきますよ」とサムズアップしたら簡単に手放した。疲れる。


 気を取り直して教会に行こう。




 これが教会か。デカいな。ソドゴラ村の教会とは大違いだ。それに近くにいると気持ち悪い。


「邪魔するぜー」


 リエルを先頭に中に入ると、礼拝堂とか言う場所だった。デカい女神像がある。しっかり洗脳魔法も展開されていた。最悪だな、女神教。


 私やヴァイアは魔力が高いので効かないが、魔力が低い奴には女神教を信仰したくなるんだろうな。


「リエルは女神像についてどう思ってるんだ?」


 コイツはあまり女神教をあまり信仰していないように見えるけど、実際のところはどうなんだろうな? それとも洗脳魔法については知らないか?


「この像か? そうだな、俺の方が美人だと思ってる。女神様を超える俺の美貌。自分が怖いぜ」


 殴るのは我慢した。私の聞き方が曖昧だったからだろう。だが、あと二回ぐらいイラッとしたら殴る。


「そうじゃない。この像、洗脳魔法が付与されているだろう? それをどう思うかと聞いたんだ? それとも知らないか?」


「なんだよ、それならそうと早く言えよ」


 なんか私が悪いみたいに言われた。まず一回。


「でも、洗脳魔法が展開されてるのを良く知ってるな。俺もやめろって言ってるんだけどよぉ、アイツ等が強引にやらせてんだよ。ありゃ、狂信者だよ、狂信者」


 とりあえず、否定的なのは分かった。それなら問題ないかな?


「よし! この女神像だけでも魔法を解除しておくか!」


 リエルが女神像に触れて、ブツブツとなにか言い出した。すると、女神像に付与されていた洗脳魔法が解除された。


「何をしたんだ?」


「女神教の名において洗脳魔法の自動展開を解除した感じ?」


 なんで疑問形なんだよ。


「わあ、リエルちゃん、すごいね! 付与された魔法の術式を解除しちゃったよ!」


「女神教が使ってる魔法の術式なら、ある程度は解除できんだよ。もっと褒めていいぜ?」


 それは凄いな。ヴァイアの書き換えもすごいが、解除するというのもすごいな。あとで教えてもらおう。


 あれ? でも、洗脳魔法を解除すると異端審問の奴等が来るって、女神教の爺さんが言っていた気がするけどな?


「異端審問の奴らが来るんじゃないのか?」


「へぇ? フェルは色々知ってんだな? もしかして女神教の信者か?」


「そんなわけないだろ。村にいる女神教の爺さんに聞いたんだ」


 爺さんは洗脳魔法を解除したり、像を壊したりしないように、魔力で像を覆って防いでいたからな。


「来ると言っても数週間は掛かるんだよ。アイツ等が来た時には、もう俺たちはいないってわけさ。それに俺が解除したからな。洗脳魔法の再付与は出来ねぇから安心だぜ?」


 異端審問の奴らと鉢合せしないのは理解した。でも、再付与が出来ないと言うのはよくわからないな。


「じゃあ、早く行こうぜー」


 まあ、いいか。まずは司祭のファスを殴ろう。




 教会の三階にある、大きな扉の前に来た。どうやらここにファスが居るようだ。だが、探索魔法で確認した限りはファス以外の反応もある。待ちかまえているのかな?


 それはともかく、反応の一つがちょっとまずい。こんなところにいるとは思わなかった。魔族の私が近づいたから目を覚ましたか?


「ヴァイア、リエル。お前たちはここで待て」


「ど、どうしたの?」


「一人やばい奴がいる。お前たちを守りながらじゃ勝てない。それに本気を出すから巻き込まれる可能性もある。いいと言うまでは、入ってくるなよ?」


 ヴァイアが泣きそうな顔になって、服の裾をつかんできた。


「誰がいるの? だ、大丈夫だよね?」


「言っても分からん。安心しろ、私一人だけなら何の問題もない」


 多分な。


「危なくなったら出て来いよ。死んでなきゃいくらでも治してやっからな!」


「その時は頼む」


 目の前の扉を開けて部屋の中に入った。


 かなり広い部屋だ。なんというか調度品が全体的に金ぴかだ。悪趣味だな。


 それに女神像も金ぴかとは。金メッキかな? 嫌だったろうに。ちょっと同情する。


 部屋の奥を見るとファスがいた。その周囲にはおそろいの鎧を着た奴が八人ほどいる。顔全体を覆う兜をかぶっていて、顔は見えないな。


 ファスは両手を広げて満面の笑みになった。


「お待ちしておりましたよ、フェルさん!」


「なら、美味い食べ物でも用意しておけ」


「これは失礼を。では代わりの物を提供しましょう。私が作った物ですよ。しっかり味わってくださいね!」


「お前の料理LVは低そうだ。期待できないな」


 ファスが「やれ!」というと、八人が剣を抜いて一斉に襲ってきた。


 剣筋はたいしたことないが力はあるようだ。当たったらタダでは済まないだろうな。


 恨みはないが少し寝ていてもらおう。切りかかってきた奴の剣を躱して腹に超痛いパンチを放った。


 ソイツが吹き飛び壁に激突すると鎧がバラバラになった。


 中身が無い? 不思議に思っていると、バラバラになった鎧が組み合わさって元に戻った。


「ふふふ、いかがでしょうか? 私の研究で作り出したものは! 魔族など恐れる必要はない! さあ、やってしまいなさい!」


 魔眼でよく見ると鎧のゴーレムだったようだ。ただ、ご丁寧にミスリルで作られている。面倒だな。


「悪いが遊んでいる場合じゃないんでな。すぐに終わらせてもらうぞ」


「おかわりもあるんですよ? ゆっくりしていってください!」


 天井から鎧たちが落ちてきた。全部で二十体ぐらいになったか? だが、何体になっても意味は無いな。


「いいことを教えましょう。鎧達を倒すにはコアとなる部分を破壊するしかありません。ただし、コアの場所は一体一体、全部違いますよ? 貴方に分かりますかね?」


 分かる。魔眼の前では答えが書いてあるのと同じだ。


 絶対殺すパンチで一番近くに居た鎧を貫いた。鎧は崩れ落ちて元に戻らなかった。魔眼は頼りになるな。


「な……、ぐ、偶然です!」


 その後も的確にコアの部分を貫いていった。もう、ただの作業だな。


 全部破壊すると、ファスは尻もちをつき、半狂乱になった。見てる方が怖いぞ。


「馬鹿な! ありえない! ありえない!」


 もう、どうでもいいか。こんなのはタダの前座だ。


 金ぴかの女神像の前に移動して話しかけた。


「いつまで黙っているつもりだ? それとも本当に何もしない気か? まさか動けないとかじゃないよな?」


 女神像を見つめているとヒビが入った。そしてゆっくりと動き出す。後から塗られたであろう金のメッキが、その形を維持できずに剥がれ落ちていった。あれ、売ったらお金になるかな? あとで拾いたい。あ、ミスリルの鎧も持って帰ろう。


「ま、まさか、女神様……?」


 ファスは半狂乱状態だったのに、動く女神像を見て正気に戻ったようだ。


「そいつは女神じゃないぞ。天使だ」


 さて、メインイベント開始かな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る