ギルドマスター

 

 地下室から階段を上がり外に出た。今日はいい天気のようだ。


「おー、久々の太陽だ。やっぱり外はいいねぇ」


 ローズガーデンは両手を上に伸ばして、大きく深呼吸した。ヴェールからちょっとだけ見える金髪が太陽の光でキラキラしている。見た目は綺麗なんだがな。見た目は。


 そうだ、コイツの名前は偽名だよな? 本名を聞いておくか。


「ローズガーデンというのは偽名だよな? 本名はなんて言うんだ?」


「おー、良く分かったな? いやぁ、俺ってば女神教の信者の中では有名なんだよ。いや、マジで。本名を名乗ると色々面倒だから、偽名で過ごしてんだ」


 問題児だからかな?


「でも、まあ、お前らなら言っても問題ないか。本名はリエルって言うんだ。改めてよろしくな!」


 右手を差し出してきた。これは握手だろうか? 友好的な態度ならこちらも返さないとな。


「まあ、よろしく頼む」


 リエルと握手すると、今度はヴァイアも右手を出した。


「自己紹介していなかったね。ソドゴラ村で雑貨屋をしているヴァイアだよ。よろしくね!」


 ヴァイアの右手を、リエルはしっかりと握った。


「おう、これからは同じ村に住むご近所さんだ、よろしくな! ところで、さっきのイケメンはノストで良いのか? あれも同じ村? 彼女いんの? 貰っていい? ――痛い、痛いです、ヴァイアさん。すみません、調子に乗りました。手を潰さないで! 私の右手は一本しかないから!」


 たまにヴァイアはものすごい腕力になるよな。昔、ヴァイアに抱きつかれて、鼻水をつけられたことがある。振りほどけなかった。


「仲も深まったところで、冒険者ギルドに行くぞ。とっとと終わらせて食事にしたいからな」


「痛たたた……。俺もそれには賛成だ。久しぶりに肉が食いてぇ」


「ノ、ノストさんを誘って食事した方がいいんじゃないかな! うん、そうしよう!」


 なんだか緊張感がないな。




 冒険者ギルドの前に来た。来る途中に色々な人に避けられた。ちょっと傷つく。


「やっぱり、魔族は恐れられてるんだな」


「当たりめぇだろ? 五十年前は酷かったって教えられてるしなぁ」


「ソドゴラ村ではそんなことなかったから、ある程度は大丈夫だと思っていたんだがな」


「そりゃ、その村の奴らが変なんだよ」


 だよな。


「フェルちゃんが来たとき、夜盗に襲われていたからだよ。それを助けてくれたんだから、皆、感謝してたの」


 それがあったか。タイミングが良かったんだろうな。ちょっと良すぎる気もするけど。


 まあ、そのことはいい。まずはギルドマスターのグレガーを殴ろう。


 冒険者ギルドに入ると、右手に受付カウンター、左手には四人掛けのテーブルがいくつか置いてあった。何人かの冒険者らしき奴らが酒を飲んでいるようだ。ソドゴラ村のギルドとは違ってかなり広いな。


 正面には地下に行く階段と二階に行く階段が見える。グレガーは二階だな。探索魔法に反応がある。さっそく行こう。


「あ、あの! そ、そこから先は関係者以外立ち入り禁止です!」


 二階に行こうとしたら、受付の女性に止められた。


「グレガーの関係者だ。通らせてもらうぞ」


 受付の女性は困った顔をしていたが、私の角に視線を送ると恐怖で顔が引きつった。


「ま、魔族!?」


 その言葉を聞いて、周囲の冒険者もざわついた。


 そうだ、一応、こちらにスジがあることをアピールしておこう。無意味に暴れたのではなく、報復で暴れたことを示しておかないと。


「私がここの牢屋から脱走したことになっていると思うが、それはグレガーの嘘だ。報復しに来たからここに来いと伝えてくれ」


 さっきの受付嬢は二階に駆け上がって行った。


 しばらくすると、二階から階段を下りてくる気配を感じた。来たか。


「お前、どうしてここに……」


 剣の柄に手を置きながら近づいてきた。かなり警戒しているようだ。


「あっちの牢屋からは抜け出してきた。私にあれだけのことをしたんだ。報復される覚悟もあるんだろ? あと、お土産としてお前の剣を貰う」


「お前程度の魔族が俺に勝てるつもりか? 俺は元オリハルコンランクだぞ?」


「私は現役ブロンズランクだ。でも、お前には勝てる」


 それを聞いたグレガーが、一瞬で私の足元を壊した。ミスリルの剣を上段から一気に振り下ろしてきたな。かなりのスピードと威力だ。残念ながら私に当てられるほどではないが。


 その後も、縦、横と剣で薙ぎ払ってきたが、その程度じゃ当てられないな。


「もういいか? 先手は譲った。次はこちらの番だ」


「ハッ! まだ、こっちの番だよ!」


 グレガーが腰に着けていたナイフを飛ばしてきた。随分狙いが雑だな。ほとんど躱す必要が無かった。


 だが、床や壁に刺さったナイフを起点とした魔法が展開された。なんだか気持ち悪い。


「そいつは魔族の力を制限する魔道具だ。これで終わりだな、あっけないもんだ」


 まだ勘違いしているのかな? ただ気持ち悪いだけだぞ? 力の制限なんて微々たるものだ。


「もう一度、牢に入ってな!」


 気絶させようとしたのか、私の頭めがけて剣の柄部分を振り下ろした。私の頭に当たる直前で、剣の柄を握っている拳ごと左手で受け止めた。


「悪いがこの程度の制限じゃ、魔族にとっては何も変わらんのと一緒だ。ちょっと気持ち悪い程度だな」


「つ、強がりを言ってんじゃねぇ!」


「相手との実力差を測れないのにオリハルコンランクだったのか? ギルドのランク制度って微妙だな」


 相手の拳に力を込めてやった。これなら剣の柄から手は離れないだろう。そして、そのまま左手を床の方に下げていく。それに合わせてグレガーも膝を曲げていった。膝を曲げないように反発しているのか、床が軋んでいる。


「ば、馬鹿な……」


 グレガーは段々と跪いてきた。なんとかしようと、空いている左手を剣の柄に添えて両手で押し返そうとしているようだ。だが、私の力を押し返せないようだ。床が少し抜けてきたな。


「ク、クソ! お前ら何してる! 助けろ!」


 グレガーは周囲の冒険者に助けを求めたようだ。だが、冒険者たちはパントマイムをしている。どうした?


「巻き込まれると危ないから、冒険者さんの周りに結界を張っといたよ。しばらく出られないと思う」


 冒険者達の近くに石が転がっていた。どうやらヴァイアが石で結界を張っているようだ。


「な、なんだと? ぐっ、ぐぐぐ」


「魔族に喧嘩を売るならもっと強くなるんだな。次があるかどうかは分からんが」


「ま、待て。俺はこの町の有力者と懇意にしているんだ! こんなことをしたらタダでは済まないぞ!」


「領主の次男のことか? アイツならすでに犯罪者として手続き中だ。タダで済まないのはアイツの方だ」


「そんな嘘に騙されるか!」


 しつこいな。私がここにいる時点で察してもらいたい。


「嘘かどうかは関係ないだろう? どっちにしろ、お前を殴るしな」


「や、やめ――」


 ほとんど動けないグレガーに対して、右手で超痛いパンチ、打ち下ろしバージョンを放った。


 グレガーが頭から床にめり込んだ。どうやら気絶しているようだ。なるほど、頑丈さはオリハルコンランクなんだな。


 よし、勝った。宣言通りに剣を貰おう。グレガーの手から剣をもぎ取って亜空間にいれる。これで終わりだ。


「ここでの対応は終わりだな。次は教会に行こう。……リエルはどうした?」


 いつの間にかリエルが居なかった。どこに行ったのだろう?


「フェルちゃんが戦っている間に二階に行ったけど?」


 階段を見ると、ちょうどリエルが階段を下りてきた。手には何かの書類を持っているようだ。


「おー、終わったか? こっちも終わったぜー」


 何をしていたのだろうか? その書類が理由だろうか?


「どこに行ってたんだ?」


「不正の証拠を探してたんだよ。ギルドマスターの部屋で色々漁ってきたぜ。例えばこれだな、未調教魔物の郵送書類。ノストの奴に渡せば感謝されるぜ? 俺……じゃなくて、ヴァイアがな!」


 そう言いながら書類をヴァイアに渡した。リエルは学習したようだ。


「そ、そうかな? えへへ」


 嬉しそうだ。これだけ分かりやすいのも、どうかと思うんだが。


 よし、ここでやることは終わったな。次は教会に行くか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る