女神の天使

 

 近くに神がいるとは思えない。情報収集を目的にした斥侯タイプかな? 女神像に成りすましていたという事は女神の天使である可能性が高い。というか、それしかないよな。


 以前、魔王様に聞いたことがある。天使達は色々なタイプがいると。戦闘タイプでなければそれほどの強さは無いはずだ。


 天使からすべての金メッキが剥がれ落ちた。メッキの下に隠れていた石っぽい肌が、徐々に血肉が通っている肌になってきた。そして感情のない目でこちらを見ている。なんだか嫌な感じだ。


「使命を忘れた魔族よ。お前たちが生かされている理由を思い出せ」


 男だか女だか分からない声だな。だが、いきなり何の話だ? それに使命とはなんだろう?


「なんの話だ? 大体、天使にそんなことを言われる筋合いはない」


「このままでは世界の調整が必要になる。それは神も望んではいない」


 この天使は何を言っているのだろう? 自分の知識だけで語らないでほしい。


「何を言っているか分からん。戦うのか戦わないのかはっきりしろ」


「調整を遅らせるために、この町の住人を半分に減らす。それを見て使命を思い出すがいい」


 話が通じないな。だが、なんと言った? 町の住人を半分にする? 殺すつもりか?


 この町の住人に対して、それほど情はない。だが、私が町にいるときにそんなことが起きたら、私のせいにならないか? それに魔王様にも人族を殺したりしないように言われている。という事は、この天使を止めないと駄目だな。よし破壊しよう。


「そんなことはさせん」


「お前の意思など関係ない。優先されるのは神の意思だ」


「違うな。優先されるのは魔王様の意思だ」


 たとえ斥侯タイプだとしても、天使と戦うためには制限を解除しないとな。天使と戦う時は制限を解除していいと魔王様に言われているから、とっとと解除しよう。


「【能力制限解除】【第一魔力高炉接続】【第二魔力高炉接続】」


 それと逃げられると困るので、この部屋に結界を張ろう。ちょっと大きめに張らなくては。


 準備完了。これでこの天使は逃げられない。今のうちに倒そう。


 すぐに天使の後ろに転移して、頭めがけて絶対殺すパンチを繰り出した。


 だが、魔法障壁で止められてしまった。その瞬間、天使の右手がありえない角度で曲がり、私の腕を捕まえてきた。しまった。


 手首を捕まれたまま、背負い投げのようにして地面に叩きつけられた。さらに四回、地面に叩きつけられた後、壁に向かって放り投げられた。


 制限を解除しているから、それほど痛くはないけど服が汚れた。何てことしやがる。


「殺すつもりは無かったが、その程度のダメージか。ただの魔族ではないのか?」


「魔王親衛隊隊長フェルだ。覚えておけ」


 強化魔法で能力をさらに上げて戦おう。熱光線の攻撃はなさそうだから、障壁は要らないな。


「【加速】【加速】【加速】」


 一撃で障壁を壊せないなら、何度も殴ればいい。簡単な理論だ。


 今度は目の前に転移して、速度にものを言わせた連撃を繰り出した。左手のみの連続攻撃。技名は見えないパンチ。死ぬがいい。


 障壁を破壊するたびに新たな障壁を張られたが、破壊する方がスピードを上回っている。


 障壁が無くなるので、天使もパンチを繰り出して応戦してきたが、私の方が速いし強い。徐々に天使の拳が壊れてきた。


「貴様、何者だ?」


「さっき言っただろう? 物覚えの悪い奴だな」


 天使の拳はもうボロボロだ。体の方にもパンチが当たってきた。でも、最終的には頭を破壊しないとな。


「スキャン開始」


「終わりだ」


 最後は渾身の右ストレートで頭を吹き飛ばした。直後に天使は膝をついてゆっくりと倒れた。


 吹き飛んだ天使の頭がこちらを見ていた。ビジュアルが怖い。夢に見るだろうが。


「キ……マガ、……オ……カ、ジョ……ホウ……ン……ウ」


 目から光が無くなり、行動を停止したようだ。これで大丈夫だろう。疲れた。


「め、女神様になんてことを!」


 ファスがいた。忘れてた。


「そいつは女神ではなく天使だ。さっき言っただろう。それに聞いていなかったのか? そいつは街の住人を半分に減らすと言ったんだ。よくは知らんが女神じゃないだろ」


 女神ではないと言ったけど、女神の天使だよな? 女神教のことを良く知らないが、人を殺すような宗教じゃないはずだ。どちらかというと魔族を敵視しているしな。もしかして、女神の天使じゃなかったのかな? 神としか言わなかったし。それとも実は女神はそういうことをする奴なのか? うーん?


 まあ、どうでもいいか。


 そんなことよりも戦利品を回収しよう。金メッキとミスリルの鎧だ。多分、売れる。


 片っ端から亜空間に放り込んだ。


「な、なにをしているのです!」


「戦利品としてもらう。勝者の権利だ」


 そう言うと、ファスが喚きだした。面倒だから気絶させよう。転移で背後に回り、首のあたりに一撃。確かこうすると気絶するはずだ。本で見た。


 あ、能力の制限を解除したままだった。やばい、ファスが気絶というか瀕死だ。リエルに治癒させよう。


「ヴァイア、リエル、入ってきていいぞ。ちょっと助けてくれ」


 結界を解除して、扉に向かって話しかけると、二人が扉を開けて入ってきた。


「フェルちゃん、大丈夫! 誰を爆破する!?」


「おお、金ぴかの調度品だ! 全部、俺のだ!」


「二人とも落ち着け」


 事情を話すと、リエルが倒れているファスに近づき治療魔法を使い始めた。


「おいおい、なにをしたらこうなるんだよ? 首というか肩の辺りの骨が砕けてるぞ?」


「手加減を忘れてしまった。わざとではない」


 ありていに言うなら、事故だ。


「フェルちゃん、なんだか魔力がすごいよ? 溢れてる感じ? ちょっと近づくと眩暈がするというか気持ち悪いよ?」


 気持ち悪いとか言われたら、傷つくだろうが。


「能力の制限を解除して、魔力高炉に接続しているからな。魔力の上限を超えて溢れだしてるんだ。今、元に戻すからちょっと待て。【能力制限】【第一魔力高炉接続解除】【第二魔力高炉接続解除】」


 能力の制限をして、魔力高炉の接続を解除した。これで元通りだ。


「すごい、私の知らない術式だ! あ、いつものフェルちゃんに戻ったね! これなら気持ち悪くないよ!」


 気持ち悪くなるのは膨大な魔力のせいであって、見た目のことではないはずだが、ちょっとへこむ。


「とりあえず、死なない程度まで治癒したぜ。んじゃ、この部屋を漁るか!」


 そう言うとリエルは部屋を漁りだした。なんというか手慣れてる。それに楽しそう。


「フェル、もしかして女神像を壊したのか? というか、なんだこれ? 石像というか人っぽいな?」


「そいつは天使だ。女神像に化けていたから倒した」


「テンシってなんだ?」


 なんだと言われると、何だろう? 魔王様がそう言っていたので、私もそう言っているだけなのだが。神の僕、かな?


「説明しづらいな。文字としては天の使いと書く。多分、神の僕だと思う」


「え? じゃあ、女神様の僕なのか?」


「わからん。でも、この天使は町の住人を半分殺す的な事を言っていたから、女神の僕ではないのかもしれない」


 聞いておけばよかったな。


「物騒なことをいう奴だな。でも、これはどうすんだ? このままにするのか?」


 そういえば、天使のことを良く知らない。後で調べてみよう。


「そいつは回収しておく。天使のことをちょっと調べたい。女神教の信者としては見逃せない行為か?」


「いや、別にいいぜ。祈りは女神様に捧げるのであって、女神像に捧げるわけじゃねぇからな」


 そういうものなのか。まあ、問題ないなら回収しよう。散らばっている胴体と頭を亜空間に放り込んだ。


 その間に、リエルがファスの不正を示す資料を見つけたようだ。


「あー、寄付金を使って私財を増やしていたみたいだな。それにドワーフ達からミスリルを大量に買っている。何に使ったか知らねぇけど」


「多分、ゴーレムの材料だ。それは私が倒したので戦利品として回収した」


「マジか。ミスリルゴーレムを倒せんのかよ。まあ、フェルならやれそうだな。よし、じゃあ、コイツを連れてノストのいる詰所に行こうぜ!」


 よし、行くか。とっとと終わらせて食事にしよう。

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