シスター

 

 入れられた牢屋の隣に、探している奴が居た。


 念のため、確認しておこう。間違っていたら大変だからな。


「ソドゴラ村の教会でシスターをする予定だった奴か?」


「お? なんだよ、俺の事を知ってんのか? ストーカーか?」


「ストーカーじゃない。お前がソドゴラ村に来ないから探しに来たんだ」


「そりゃ悪いことしちまったな。この町に着いて教会で寝てたら、いつの間にか牢屋に入れられてて、出られなかったんだわ。笑えるよなぁ」


 笑えない。だが、そのおかげで報酬が大金貨一枚だから別にいいけど。


 それにしてもいきなり牢屋に入れられたのか? 私は門を壊したし、魔族だから牢屋にいれられるのは分かる。領主に会う前に弱体化されるのも仕方あるまい。だが、隣のシスターは何で閉じ込められているのだろう?


「閉じ込められている理由をなにか知らないのか?」


「俺の治癒魔法が目的だろうな。俺ってば治癒魔法に関しては超天才だから」


 治癒魔法か。あれは術式が難しいから私はうまくできない。それはともかく治癒魔法が目的で牢屋に入れられるってなんだ?


「目的は分かったが、牢屋に入れられるほどの事じゃないだろ?」


「どっから説明したもんかな? ここは闘技場なんだよ。魔物同士を戦わせたり、領主の野郎が魔物相手に魔法実験したりする場所だな。俺は怪我をした魔物達を治してんだ。だが、問題は調教されていない魔物を町の中で飼っているということだな。これは大抵の国で違法だ。俺がこのことを知っちまったから、牢屋からは出さねぇってわけだな」


 秘密を知ったから外には出さない、ということか。領主は駄目な奴だったようだ。ノストの話ではいい奴のように思えたが。


 でも、調教していない魔物は町で飼ってはいけないのか? ソドゴラ村では放し飼いだけどな。


 そうだ、領主が駄目なのは分かったが、私をここへ連れてきたアイツ等はどうなんだろう? 多分、駄目な奴等だと思うけど。


「ギルドマスターと司祭の奴らは領主とどんな関係なんだ?」


「領主と一緒に魔物相手にあくどい事してんだよ。ギルドマスターは魔物相手に剣の試し切りするような奴だし、司祭の奴は魔物を使って実験みたいなことしているしな。胸クソわりぃ奴等だよ」


 アイツ等もぶちのめす理由ができた。殴ろう。徹底的に。


「大体のことは分かった。領主がここに来るとか言ってたから、ここに来たらぶちのめして外に出よう」


「マジか。出れんのか?」


「この程度の結界で魔族の力を抑えられるものか。今すぐ出て行ってもいいが、それじゃつまらないだろ? 私はアイツ等の驚く顔が見たい」


「いいねぇ。そういうの好きだぜ。んじゃ、明日が楽しみだな!」


 よし、明日の予定は決まったな。領主が来たらぶちのめす。あと、ギルドマスターと司祭の奴も。そういえば、女神教の爺さんとディアに、色々と殴る許可をもらっているしな。問題になったら責任を擦り付けよう。


「なあ、それはともかく、ちょっと聞きたいんだけどいいか?」


 なんだ? 気持ち悪いから早く寝たいのだが。


「ソドゴラ村ってどんなところだ? いい男はいるか?」


 耳がおかしくなったのだろうか? 村の事を聞かれた後に「いい男はいるか?」と聞かれた気がする。


「すまん、もう一度言ってくれ」


「だから、ソドゴラ村ってどんなところだ? いい男はいる?」


 聞き間違いじゃなかった。一応、村の事だけ教えよう。


「ソドゴラ村は、森に囲まれた小さな村だ。村に宿が一軒あってな、そこの飯は美味い。あとは、仕事のない冒険者ギルドや、石ばっかり売れてる雑貨屋とか、信者がいない教会があるな」


「そういうのはいいよ。いい男がいるかどうかが重要なんじゃねぇか」


 聞かれたことに答えただけなのに必要ないと言われた。殴られても仕方ない案件だぞ?


 しかし、いい男か。あの村にいる男は、村長、アンリ父、ロン、結婚男、畑の奴等ぐらいか? うーん?


「いないな」


「マジかよ。やる気無くすわー。せっかく辺境まで行くのになぁ」


 なんだろう、コイツも駄目な奴な気がしてきた。確か超問題児だったか? でも、金を盗んで村に施しするぐらいだから、悪い奴じゃないんだろうけど。


「そういえば、なんでソドゴラ村に来ることになったんだ?」


「志願したんだよ。聖都にいい男はいるんだけど、なんと言うか、草食系っつうの? そういう奴等ばかりでよぉ。『女神教を敵にまわしても、君をさらうよ』とか言ってくれる奴がいねぇんだよ」


 女神教を敵にまわす人族はどこにも居ないと思うぞ。しかし、嫌な予感がする。下らない理由が出てきそうだ。


「辺境の村とかに行けば、こう、ワイルドっていうか、肉食! っつう感じのいい男が多いかなと思ったんだがなぁ」


 聞いて損した。


「俺ってば、この美貌よ? 男がほっとかないはずなのに誰も言い寄って来ねぇ。女神教に入信したのは失敗だったぜ」


 美貌に関しては見えないから分からん。


 しかし、女神教に入信したのが失敗とは何だろう? 確か女神教の爺さんにも可愛い孫娘がいるとか言っていたから、つがいになるのは禁止されてないよな?


「ソドゴラ村にいる女神教の爺さんには孫がいるぞ? 一緒には住んでいないようだがな。女神教に入信していても関係ないんじゃないか?」


「いや、そうなんだけどよぉ。女神教でも、ある役職に就くと恋愛禁止とか結婚してはいけないとかあんだよ。クソ、アイツ等、この役職に就けばモテモテですよ、とか嘘つきやがって。モテモテでも付き合えないとか結婚出来ないんじゃ意味ねぇんだよ!」


 鉄格子を叩く音が聞こえた。しかし、モテモテにはなったのか。なんの役職だ?


「ハァ、神なんていねぇな……」


 それは的を射ているかもしれないが、女神教の信者がそれを言ってはいけないだろう。


「あ! そうだ!」


 なんだ? 何か閃いたのか?


「魔族だったら女神教は関係ねぇよな! 魔族の男を紹介してくれ!」


 ミトルと似たような事を言い出した。もう、寝ていいかな?


「やっぱ、強い奴がいいよな! そうだ、魔王を紹介してくれよ! 俺の美貌でメロメロにしてやるぜ!」


「撲殺、爆殺、呪殺、どれがいい? 選ばせてやる。複数選択可だ。お勧めは撲殺。私が直々にやってやる。痛みはない。一瞬だ」


「怖! じょ、冗談だよ。冗談! さすがに女神教の信者が魔王とくっつくわけにはいかねぇよ」


「そうか。危なかったな、あと五秒遅かったら壁ごとぶち抜いて、さっき言った事を全部をするつもりだった」


 魔王様に殺しは駄目だと言われているがやってた。反省も後悔もしない。


「はー、なんだかフェルにとって魔王は大事なんだな。わかった、わかった、もう言わねぇよ」


「当然だ。私だけでなく魔族にとって魔王様は絶対の存在であり、不敬は許されない。覚えておけ」


「おう、理解した。じゃあ、他の男魔族はどうだ? こう、ワイルドな感じの!」


 懲りないな。そうだ。ミトルを会わせれば、それで解決な気がする。


「お前に魔族を会わせててもロクな事にはならない気がする。代わりと言ってはなんだが、エルフの男を紹介してやろう」


「マジかよ! エルフって言ったら美形の代名詞じゃねぇか! あ、でも、草食系だろ。物理的に」


 物理的ってなんだ? 本当に草食という意味か? でも、ミトルは肉を食ってたよな?


「いや、そのエルフは肉食系だ。えっと、物理的に」


 物理的の使い方、あってるかな?


「おっしゃー! 神は見捨ててなかった! 女神様サイコー! サボってたけど、今日から毎日祈る!」


 普段から祈れよ。


 なるほど、問題児だな。まあ、いいか。面倒な事は誰かに振ればいいのだ。コイツもミトルに振ろう。似たような感じだし、うまくいくだろう。それにどうなろうと興味ないし。


「じゃあ、私は明日に備えて寝る。おやすみ」


「おう、おやすみ!」


 隣から祈りの言葉が聞こえてきた。気持ち悪さが増えた。睡眠妨害だぞ。

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