魔道具

 

 なぜか、ヴァイアの店の裏手に来た。こんなところに何で来たのだろう?


 エリザベートが店の扉を叩くと、ヴァイアが出てきた。


「わあ、いっぱい石を持ってきてくれたんだね。エリちゃん、ありがとう! あれ? フェルちゃん? どうしたの?」


 いや、私がどうしたのか聞きたい。それに、エリちゃんというのはエリザベートの事か?


「エリザベートが石をどうするのか見ていたら、ここに来たんだが」


「そうなんだ。エリちゃんに手のひらサイズの石ころを持ってきてくれたら、一つ小銅貨一枚で買うよってお願いしたんだ」


「もしかして、この石で魔道具を作るのか?」


「うん、そうだよ。魔法付与の練習で生活魔法の使い捨て魔道具を作って売ってるんだ。結構買ってくれる人が多いんだよ」


 生活魔法か。発火や造水とかなら魔道具を使うほうが楽だよな。私も魔力調整が下手だから欲しいけど、使い捨てじゃだめだな。恒久的に使える物がいい。


 エリザベートは石を桶みたいなものに一つ一つ数えながら入れていた。全部で四十個はあるな。


 ヴァイアが大銅貨四枚を渡すと、エリザベートはぺこりと礼をした。その後に、エリザベートが受け取った大銅貨をコカトリスに一枚ずつ渡そうとするが、羽では受け取れないようだ。スライムちゃんは硬貨を渡せないし、コカトリスは受け取れないので、お互い困っている感じだ。


 それを見たヴァイアが、「そうだ、ちょっと待ってて」と言って店の中に戻った。


 ヴァイアが戻ってくると、紐の付いたバッグを二つ持ってきた。


「これ、空間魔法を付与したバッグなんだ。容量は少ないけど硬貨程度なら結構入ると思うから使って」


 ヴァイアがバッグの紐をコカトリスの首部分に引っかけて装備させた。コカトリス達はなんだか慌てているな。


「ヴァイア、コカトリス達が『こんな高価な物は買えない』と言ってる」


「え? お金なんていらないよ。それは試作品なんだ。だから返さなくて良いからね。しばらく使ってみて、使い心地とかを教えてもらえればうれしいかな」


 コカトリス達は呆然としている。まあ、魔界でもこんなものを貰うことはないだろうからな。でも、コカトリスの使い心地を聞いて何の参考にするんだろう?


「それにコカトリスさんは石を作ってくれるんでしょ? これからよろしくねって意味も込めて受け取ってほしいな」


 蛇の頭と鶏の頭がちょっと相談してから、両方とも地面に頭をつけた。服従のポーズだ。


「そうだ、一応、ちゃんと動作するか試してもらっていいかな?」


 エリザベートが地面に大銅貨を置くと、コカトリスがそれを足で踏みつけた。バッグに魔力を流すと大銅貨が消えた。うまく亜空間に収納出来たようだ。もう一度魔力を流すと、また地面に大銅貨が出た。


「大丈夫みたいだね。ただ、さっきも言った通り、容量が大きくないんだよね。無理に大きい物を入れると壊れちゃうから気を付けてね。容量が大きいものを作れたらバッグを交換するから、それまではそれで我慢してね」


 なんだろう。コカトリス達のヴァイアに対する忠誠度がめちゃくちゃ高くなっている。命賭けます、みたいな感じの顔つきになった。鶏と蛇の頭を下げっぱなしだ。


 その後、エリザベートと一緒にコカトリス達はゴミ回収に向かった。これも仕事ということでいいのかな。まあ、頑張れよ。


 そんな事よりもヴァイアのことだ。確認したいことがある。


「空間魔法を付与できるのか?」


「うん、まだ失敗が多いけど、なんとか付与できるようにはなったよ。さっき言った通り、まだ容量は少ないけどね」


 嘘だろ。空間魔法を付与するには魔法付与がLV2は必要だ。この数日でLV0からLV2まで上げたのか? ちょっとよく見てみよう。


 マジだ。魔法付与スキルがLV2になってる。普通、LV0からLV1にするのに一年はかかるぞ。それに、LV1からLV2なら数年かかる。LV3以上はスキルを持っていても上げられるかどうか分からないぐらいなのに。この成長速度だと、禁断のLV5まで行くのか? まだ、見たことないから見てみたい気はする。


「ヴァイアはすごいな」


「やだなー、フェルちゃん。急にどうしたの? おだてても何も出ないよ? とっておきの果物食べる?」


 何も出ないと言ったのに、果物が出た。頂こう。


 桃をもらったので店の隅で食べた。リンゴほどではないが、これも美味い。これはエルフの村で食べたことがある。エルフの村で魔道具と交換してもらった食べ物なんだろうな。


 食べている間に何人か買い物に来た。発火の魔道具が売れていた気がする。確か大銅貨一枚の値段だったな。石を一つ小銅貨一枚で買って、大銅貨一枚で売るのか。かなりの儲けだ。使い捨てだから何度でも買ってもらえるし、ヴァイアの生活は安泰だな。


「以前は、小銅貨六枚で仕入れていたんだ。売り上げはともかく、利益は大幅に増えたよ。フェルちゃんのおかげだね」


「何度も言っているが、私はスキルを見ただけで、スキルを持っていたことには関与していないぞ。自分の力なんだから、私のおかげではないぞ」


「何度も言っているけど、それでも感謝したいんだよ」


 この話になるといつも平行線だ。まあ、いいか。


「そうだ、作ってもらいたいものがあった。以前言った、コップ一杯ぐらいの水がでる魔道具だ。できれば使い捨てでない物がほしい」


 それがあれば野営でも周囲に被害をもたらすことはないからな。


「試作品だけど、これなんかどうかな?」


 木製のコップを渡された。


「コップが欲しいのではなく、コップ一杯の水がでる魔道具が欲しい。話を聞いていたか?」


「もちろんだよ。そのコップを魔道具にしたんだ。魔力を通すと、コップの底から水が溢れてくるようにしてあるよ」


 コップ一杯の水が欲しいと言ったからって、コップそのものを魔道具にするとは思わなかった。試しに魔力を通すとコップの底から水が溢れてきた。飲んでみると、冷たくておいしい。これはいいな。


「これで十分だ。売ってくれ」


「お金はいいよ。コカトリスさんに渡したバッグと一緒で、それも試作品なんだ。しばらく使用感を試してみて。問題があれば微調整するから」


「そうか、なら使わせてもらおう。ヴァイアはいい奴だな」


「もー、おだて過ぎだよ。バナナ食べる?」


「頂こう」


 褒めれば褒めるほど食べ物をくれるようだ。悪い男に引っかかるなよ。


 その後も、色々と魔道具を見せてもらった。私が雑談でこんなの欲しいな、と言っていたものを実現したようだ。複数の魔法を付与するってかなり成功率が低いと聞いたことがあるんだけど、なんで出来るんだろう?


 私の意見で作った、足の泥を落とすマットや、保温する弁当箱と水筒を見せられた。どうやらニアの店で使って貰えないか見てもらうらしい。


 丁度、これから持っていくそうだ。お昼が近いので私も行こう。


 弁当箱や水筒を亜空間に入れて持っていこうと思ったが、ヴァイアが空間魔法が付与された魔道具で亜空間にしまった。しかし、どの魔道具に空間魔法が付与されているのか分からなかった。なんというか、色んな所から魔力を感じる。


 ちょっと不思議に思って、ヴァイアの身につけている物をよく見ると、なんだかすごいことになっていた。全身、魔道具で装備を固めている。


「身につけている物、全部魔道具か?」


「うん、自分で魔道具の使い勝手を調べてるんだ。たまにどの魔法を付与したか忘れちゃうのが問題だね」


 問題なのはそんな事ではなく、あらゆる魔法が付与された魔道具で装備を固めていることだと思うぞ。一人で戦争できるレベルだ。ワンマンアーミーという奴か?


 うん、見なかったことにしよう。まずは昼食だ。

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