就職
さて、朝の準備は整った。食事をしながら今日することを考えよう。
食堂に行くとロンが居た。相変わらず無駄にデカいな。よく見ると強そうだ。力関係はニアの方が強いが。
「フェルか、おはようさん。今、料理を持ってくるからちょっと待ってくれ」
「おはよう、よろしく頼む」
出された料理はいつも通り美味かった。目玉焼きの黄身部分を潰して食べるか、潰さずに食べるか迷った。即断即決が私の売りなのに、ニアの料理にはいつも悩まされる。
自分だけ食べてしまったが、よく考えたら、しばらくの間はミノタウロス達の食事を作ってもらわなくてはならないな。
朝、昼、晩の食事がそれぞれ大銅貨二枚、三枚、五枚と聞いたことがある。つまり一日一人小銀貨一枚。それが六匹。毎日、小銀貨六枚使うのか。高いな。
リーンの町に行く予定だから、十日分ぐらい先払いしておくか。十日なら小銀貨六十枚になるから、大銀貨六枚だ。夜盗退治で報奨金が出て良かった。
「ロン、ミノタウロス達の食事を十日分先払いするから、用意してくれないか」
「えーと、確か六匹だよな? それを十日分だと全部で大銀貨六枚も必要だが大丈夫か?」
「夜盗の報奨金があるから問題ない」
「わかった。確かに十日分の食事代を受け取った。食事はヤトちゃんが運んでくれるのか?」
ちょうど、ヤトが厨房から出てきた。こちらに気付いて挨拶してきた。
「フェル様、おはようございますニャ」
「おはよう。今、ミノタウロス達の食事の件を話していた。十日分の食事代を先払いしたから、アイツ等に運んでやってくれないか?」
「分かりましたニャ。そういえば、昨日も夕食を運びましたが、ものすごく喜んでいたニャ」
「当然だ。ニアの料理をまずいとか抜かしたら、畑に埋めてやる」
ヤトとロンが一瞬驚いたが、その後、笑顔になった。シンクロ率が高いな。
「分かりましたニャ。それについては完全に同意ですニャ」
「なんだか、そう言ってもらえると嬉しくなるな!」
なんだかよくわからんが、嬉しいならいいか。
そうだ、アイツ等に狩人の仕事をさせようとしたんだ。まずは、昨日の結婚男に引き合わせないとな。
「アイツ等と話してくる」
「料理が出来たら持っていきますニャ」
よし、早速行動だ。
畑に来ると、すでに畑仕事をしている村人が居た。朝から熱心だな。
借りている畑の方を見ると、ちょっとした小屋が出来ていた。その周囲にはミノタウロスとオークが座っている。
朝の挨拶をすると、挨拶を返された。あと、昨日の食事について礼を言われた。あんなに美味しい物を食べたのは生まれて始めてだったと言って、ものすごく感謝された。気持ちは良く分かる。
コカトリス達はどうしたのか聞いてみると、まだ小屋で寝ているそうだ。見た目は鶏なんだけど、朝弱いのか? 低血圧?
起こさないのか聞いてみると、石化ブレスが危ないので小屋に入りたくないらしい。どうやら昨日はコカトリスを小屋に隔離して、ミノタウロスとオークは小屋の外で寝たようだ。
そうか、コカトリスが寝返りをうって、くちばしで突かれたら石になるからな。寝ぼけて石化ブレスされても危ない。これは小屋がもう一つ必要だな。
「おーい、フェルちゃん」
遠くから名前を呼ばれた。そちらを振り向くと、畑仕事をしていた村の奴が近づいてきた。
「おはよう。私に用か?」
「おはよう。そこにいるミノタウロスってフェルちゃんの部下なんだろ?」
「うむ、そうだが?」
「開拓用の木こり要員として雇わせてくれないかな? お金は出せないけど、畑で作った野菜を報酬として渡すから、考えてほしいんだけど」
なんと。お金ではないが、野菜という食糧が手に入るなら狩りでなくてもよさそうだ。でも、念のため、ミノタウロスにも聞いてみよう。やりたいことがあるかもしれないし。
聞いてみると、「やります」と力強く頷かれた。ただ、条件として木をすこし分けてもらいたいそうだ。新しい小屋を作りたいらしい。
「それぐらいなら構わないよ。じゃあ、今日からよろしく頼むよ」
なんだかトントン拍子に決まってしまった。でも、注意する点があるな。
「魔界の魔物達は人族の言葉を理解できるが、話すことはできないぞ。私は分かるが、人族には、モー、としか聞こえないと思う」
「そういえばそうだね。まあ、言いたいことがあるなら、簡単なジェスチャーとかしてもらうよ。どうしても分からなければ、フェルちゃんか、スライムちゃんに通訳してもらうかな。スライムちゃんとは、看板の文字で意思疎通できるからね」
いつの間に。スライムちゃん達は一体何をしているのだろうか。駄目ではないけど。
とりあえず、朝食を食べたら仕事開始ということになった。
ミノタウロスの仕事が決まったので、オークがちょっとそわそわしている。私も無職だから気持ちは分かる。周りの奴に仕事があるのに自分にはないと焦るよな。
とりあえず、狩りの仕事がある旨を伝えた。かなり食いつかれた。もう、それ以外無いという勢いだ。落ち着け。なにがオーク達をそうさせるのだろうか。狩猟本能?
そうこうしていると、ヤトがやってきた。昨日の結婚男もいた。もしかして案内してきてくれたのかな。
「フェル様にお話があるということで連れてきましたニャ。あと、食事を亜空間に入れて持ってきましたニャ」
「フェルさん、おはようございます。こちらにいるとのことでしたので、ヤトさんに案内してもらいました」
「おはよう。わざわざすまないな。狩りの件だよな? このオーク達をお願いしたいのだが」
「はい、では、よろしくお願いしますね」
結婚男が挨拶すると、オーク達も挨拶した。人族にはフゴフゴとしか聞こえないだろうが。とりあえず、さっきの注意事項を話しておいた。意思の疎通が一方通行だけど大丈夫だろう。
ヤトが食事を亜空間から取り出すと、小屋からコカトリス達が出てきた。匂いに釣られたか。さて、コイツ等はどうしよう? まあいい、まずは食事をさせてから考えよう。
食事を見ているだけって拷問だと思う。でも、大変だったのは皆の方だな。私が皆の食事を見つめていたから、ミノタウロス達が気まずい感じになってしまった。反省せねば。
食事を済ませると、ミノタウロスは開拓の仕事にとりかかったようだ。
オークも結婚男と狩りの仕事に出かけた。
ヤトはすでに宿の方に戻った。
この場に残ったのは、私とコカトリスだけだ。さて、どうしよう?
そう思っていたら、エリザベートが来た。珍しいな。畑はジョゼフィーヌの担当だと思うが。
何をしに来たのかと思ったら、エリザベートが体内から生ゴミみたいなものを吐き出した。私に対する不満かなにかだろうか? こんな遠回しな方法ではなく直接言って欲しい。
どうしようか迷っていると、吐き出した生ゴミを石にして、とコカトリス達に命令した。どうやら私への直談判ではないようだ。
コカトリスが首をかしげなら、軽く石化ブレスを吐くと、生ゴミが石になった。
一体、何をしているのかと聞いてみると、「リサイクルです」という答えが返ってきた。いや、石だぞ。どうリサイクルするんだ?
エリザベートはその石をまた体内に取り込み、移動しようとしたので、コカトリスと一緒に付いていった。
あの石をどうするのだろう? なんとなく心配だ。
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