ヒマワリ

 

 昼食は卵を使った料理だった。とても美味しかったが、なんの卵だったのだろう。


 昔、魔界で食べたコカトリスだったか、バジリスクだったかの卵は美味しかった気がする。ロンが家畜の世話をしているとか言っていたので、どっちかを飼っているのだろうか。あいつら目から石化光線とか、口から石化ガスとか出すから嫌なんだけど。


 魔界で思い出した。種とかクワとかをお願いしておこう。部屋に戻って、念話の準備だ。




 さて始めよう。まずは、開発部のチャンネルに念話を飛ばすか。


『はい、開発部です。まずはお名前をお願いします』


『フェルだ』


『フェル様! 今、どこにいるんですか!』


 あれ? 魔界を出るとき人界に行くと書置きを残してきたはずだが。


『今は人界のソドゴラ村というところだ。人界に行くと書置きしておいただろ?』


『いや、ありましたけど、理由が書いていないので混乱していたんですよ。もしかして人族を滅ぼしに行ったのかな、とか』


 あの時点では人界に行く理由を私も知らなかったから理由は書けない。しかし、人族を滅ぼしに行くとか、私をどんな目で見ているんだ。


『魔界は今後食糧が不足するので、人界で食糧を作るなり、買うなりして魔界に送ろうとしている。その一環で今は人族と信頼関係を結ぼうとしているところだ。人族を滅ぼしたりしない』


『なるほど、確かに生産部からそんな話が出ていましたね。でも、わざわざフェル様がやる必要はないと思います。獣人達を送りますか?』


『いや、今はいい。獣人達はどちらかといえば、人族を恨んでいるだろう? 仲良くしろと言っても嫌がる可能性があるからな。ただ、畑仕事には人手が必要だ。信頼関係を結べたら、何人か呼び寄せるから、それまでは待ってくれ。それよりも、届けてもらいたいものがある』


『はい、なんでしょうか?』


『クワを二本となにかの種を頼む』


『クワと種ですか』


『ああ、人界で小さいが畑を借りた。何かを植えて育ててみたい』


『わかりました。クワはこちらで用意しますが、種は生産部ですかね。向こうに伝えておきます』


『よろしく頼む。場所は分かるな?』


『探索魔法と空間魔法が使える奴を送ります。二、三日は掛かると思いますが』


『わかったそれでいい。よろしく頼む』


『はい、では』


 これで、クワと種はなんとかなるな。念のため、種はヴァイアにも聞いてみるか。美味しい物が育つ種があるかもしれないし。




「いらっしゃい、今日はよく来てくれるね」


「種とか置いていないか?」


「種……ヒマワリの種ならあるよ」


 ヒマワリ……食べたことはないが、美味しいのだろうか。興味あるな。人界の食べ物は美味しいものが多い。


「ヒマワリって美味いのか?」


「ヒマワリは花だよ。無理すれば食べられるけど、美味しくはないと思う」


「じゃあ、いらん」


「でも、ヒマワリの種は食べられるよ」


 ヒマワリは食べられないが、ヒマワリの種は食べられる。どういう風に種ができるかはわからないが、一つの種から一しか種ができない、ということはないだろう。ということは、ちゃんと育てれば、種がいっぱい出来る。おお、なんという錬金術。


「ただ、種を食べられるといっても、これだよ。お腹は膨れないかな」


 ヴァイアが店の棚にあるツボから何か取り出して、私の手のひらに置いた。


 これがヒマワリの種か。なるほど、これでは腹が膨れるほどではないな。でも、一応、植えてみるか。種がざくざく出来るかもしれない。


「一応、育ててみる。売ってくれ」


「えーと、それ、私のおやつだからあげるよ」


 なんとタダでもらえた。ヴァイアはいい奴だな。


「助かる。立派に育てて見せる」


「うん、頑張ってね」


 さっそくヒマワリの種を植えてみよう。詳しくは知らないが、土に埋めておけばいいはずだ。




 さて、時間だ。種は植えておいたし、ここからはウェイトレスの仕事を頑張ろう。ただ、仕事内容はともかく服装が嫌だ。なんとかならんものか。


 とりあえず、掃除だ。二日目にして、掃除スキルの熟練度が上がった気がする。いつか、魔王様にも見てもらおう。


 宿の周りの雑草はもうない。昨日、根こそぎ取りつくしたからな。雑草を亜空間に入れているけど、何かに使えるだろうか。


 それにしても入り口で足の泥を落とすいい手はないだろうか。入り口にブラシでも置いておけば、入る前に自分でやってくれるかな。


 色々考えていたら客が来た。


「らっしゃい」


 今日も人が多い。なぜ、村長やその家族、教会の爺さんまでくるんだ。家で食え。


 そして村長が食べているテーブルには、熱魔法が苦手な女性ともう一人、小さいのがいる。誰だ。


「この子は私の孫です。アンリ、挨拶しなさい」


「私はアンリ。手下にしてあげてもいいよ」


 アンリは自己紹介したあと、配下になれと勧誘してきた。私にはわかる。お前は私より弱い。自分より弱い相手の配下になる魔族はいないぞ。


「私は魔族のフェルだ。手下の件は断る。逆にお前を私の部下にしてやろうか? 立派な魔族にしてやるぞ?」


「やめてください」


 村長の娘に真顔で怒られた。


 待ってほしい、これは魔族ジョークだ。笑うところだぞ。


 それはさておき、アンリは五歳ぐらいの女の子だ。村長やその娘と同じ茶色の髪で、後ろでまとめている。ポニーテールとかグリフォンテールとかいう髪型だったろうか。髪型といえば、いつか縦ロールを見てみたい。


 村長の孫、ということは子供の子供だ。村長の娘の子供になるのか。旦那は見たことないがどうしたのだろう。ちょっと聞いてみるか。


「あの人は、東の町に夜盗に襲われたことを伝えに行ってます。東の町まで二日ぐらいですから、丁度、着いた頃ではないでしょうか」


 なるほど、兵士を呼びに行くとか言っていたような気がする。となると、兵士が来るまで後二日は掛かるのか。ディアは何も言っていなかったが、捕まえた夜盗は冒険者ギルドの地下にいるんだよな。大丈夫だろうか。


「フェルちゃん! 私のことが心配だって顔してるよ! うれしい!」


 ディアが今日もいた。もしかして料理が出来ないタイプか。でも、なんで私が考えていることがわかったんだろう。


「心配しているのは夜盗の報奨金だ。ここで夜盗に逃げられたら報奨金が手に入らない気がする」


「あはは、大丈夫だよ。ギルドの牢屋は結構頑丈な造りだから」


 牢屋は頑丈でもお前がポンコツだ。でも、信用するしかないな。


「まあ、信用してる。頑張ってくれ。あと、村長達もゆっくりしていってくれ」


 私の食事の時間だ。これだけはいつも楽しみだ。しかし、昨日もそうだったが、食事をしているときにこっちをチラチラ見ている奴が多い。やらんぞ。


 今日もうまいが、これはなんだろう? 鶏肉がベースになっている気はする。昼に卵も食べたし、今日は鶏尽くしか。あとでレシピを教えてくれないかな。


 名残惜しいが仕事の続きだ。しかし、酒を飲む客が多いな。私は飲んだことがないけど、お酒は二十歳になってから、という言葉がある。あと、二年は飲めないな。美味そうに飲んでいる奴が多いから、多分美味いのだろう。そういえば、魔界の宝物庫にソーマとかネクタルとか、お酒が置いてあった気がする。あれなら売れるだろうか。




 今日も無事に終わった。この仕事は精神的にダメージを食らう。精神耐性系のスキルを覚えてくれないだろうか。


「フェルちゃん、お疲れさま。これ達成依頼票ね」


「確かに受け取った。では、もう休む。おやすみ」


「あいよー、おやすみ。明日もよろしくね」


 ニアが笑いながら見送ってくれた。今日も売り上げが良かったのかな。さて、魔王様はもうお帰りだろうか。




「やあ、フェル、お疲れさま。大変だね」


 魔王様はすでにお戻りだったようだ。いつも思うのだが、いつの間に戻っているのだろうか。ウェイトレスが忙しくてお帰りの姿を見れていないのだが。


「ただいま戻りました。魔王様も世界樹に行くためにお忙しいようですので、私もこれぐらいでへばってはおれません」


「そうか、無理しないでね」


「ありがたきお言葉」


 疲れが吹き飛ぶ。明日も頑張ろう。


「それじゃ、明日も早いから先に休むよ。おやすみ」


「はい、お疲れ様でした。おやすみなさいませ」


 魔王様も部屋に戻られたので、リンゴ食べて日記を書いた。魔王様の事を全然書いていない。どうしたものか。


 さて、私も寝るか。そういえば、ヒマワリっていつ頃咲くのだろう。

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