人魚語
海で遊んでいたら溺れかけてしまった。意識を失いそうになった自分を、誰かがつかまえてくれたところまでは覚えている。もう大丈夫、と言われて、安心からか、すっと意識はなくなった。
夕焼けが眩しくて目が覚めた。けれど、冷たい水の中で消耗した身体はすぐには動かせなくて、瞼を通して瞳に入るオレンジ色の光で意識を繋いでいた。
波に混じって、何か、平べったい物が砂浜を叩く音がした。ぺち、ぺち、と。何の音だろう。
ああ、そう言えば、溺れた自分を水の中でつかまえてくれた人がいた。あの人は? 今も傍にいてくれているの? お礼を言わなくちゃ。けれど、瞼を開けるのも億劫だった。
その時、海の方から何かが上がってくる音がした。足音は聞こえない。
「縻霊漱~ァ.Vァn・溯?」
知らない言葉が聞こえた。男性の声らしいことはわかる。なんだか歌うようだった。
「W埠モ蠢膾ク9朦ワ」
女性の声がより近くで応じた。ああ、この声は、さっき私に「もう大丈夫」と言ってくれた声。でも、さっきより少し声には不思議な響きがあった。
「ス嵒 ラ0曲ク+珣ハpFFヨ#黌」
「G鰰促Gヲ陏v」
ざぱん、と水に飛び込む音がした。自分の近くの空気は動かないから、多分後から来た男の方が海に戻ったのだろう。
海に?
この人は誰なんだろう。
力を振り絞って目を開ける。女の人がこちらを見下ろしているのが見えた。夕陽でオレンジ色になった髪の毛は、元々何色なのかわからない。薄い色なのだろう。
「ああ、良かった。気が付いたのね?」
自分にわかる言葉で、その人は言った。
「あなたが助けてくれたの?」
素知らぬふりで尋ねた。
「うん。人間は水で死ぬから」
思わず身体を起こす。彼女の下半身は魚だった。
人魚だ。
そうか、さっきの分からない言葉は、人魚語だったのか。
「ありがとう」
礼を述べる。
助けてくれたことと、私にわかるように話してくれた両方に。
ファンタジー習作 目箒 @mebouki0907
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