魂の技術
一般的に、魔法は魂の技術だと言われている。
だから、誰にでも得手不得手はある。火を起こすのが得意な奴、物を凍らせるのが得意な奴、人に当てるのだけやたら上手い奴、傷を治すのが上手い奴。
その殺人鬼は傷を治すのがとても上手な奴だった。けれど、失われた命を取り戻すことはできなかった。生きている知らない人を明日へ送ることはできたけど、死んでしまった大切な人を昨日から連れ戻すことはできなかったんだって。
「言い訳になりません」
マーサは俺にそう言った。エドの奴はそれで目を伏せたけど、俺はマーサの薄い水色の目の変化を見た。めちゃくちゃ怒っていることはよくわかる。
マーサは旦那を亡くしている。他殺だった。そしてその異端はまだ見つかっていない。マーサも相当辛い思いをしただろう。
でも、彼女にはオリーヴがいた。部署も立場も違うけど、魂で理解しあっている親友がいた。それが、野郎とマーサの決定的な違い。マーサは随分とオリーヴの胸で泣いたそうだから。なんというか、他人に頼れるというのは強みだ。
マーサはオーガも逃げ出す人でなしと言われてるんだけど、一番得意なのは守りの魔法だ。だから、こっちに向かってきた異端に障壁を展開してぶつからせる、なんてことができるわけ。
誰も失いたくなかっただろうに。大きな願いを持つ奴は、その分願いを叶えにくいから大変だと思う。
「それと、マーサ。言いにくいのですが」
「知っていますよ。あの人、私とコンビを解消したいと言うのでしょう? 構いません」
「そのかわり、別部署から若い女性の審問官を異動させると」
「わかりました」
「あの、マーサ、僭越ながら良いでしょうか」
「なんでしょう」
「棘のついた盾を不用意に前に出すのはやめてください」
「ハッハ!」
俺は思わず笑った。そうだよ相棒。お前の言う通りだ。魔法は魂の技術。本当はそんなに強い力で殴れないマーサは、守ると同時に戦ってやろうと思って、盾に棘を植え付けるんだ。
マーサは言い返せなかった。
「あなたが不安なのはわかります」
「私は不安だなんて」
「では言い方を変えましょう。自陣と敵陣で切り替えてください」
俺は腹を抱えて大笑い! 俺の相棒は基本的にお人好しだが、ものの例えが的確だ。ペーパーナイフもうまく使えば肉を切れるってもんだ! そんなエドの得意技は、他人の能力を底上げすること。そういう魔法が得意なんだ。マーサの障壁をさらに頑丈にして、ぶつかった時の衝撃を底上げすることだってできる。
魔法は魂の技術。表に出ている性格が、その人の本当の姿とは限らない。
俺はどうだって? まあそれはそのうちに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます