妖精に会う条件

 妖精はそこら中にいる。そこら中にいて、あなたの家の砂糖壺の場所を動かしたり、塩と砂糖の中身を入れ替えたりする。

 あなたの大事な人のお葬式で、花を一輪余分に足したりする。

 あなたの結婚式で、ティアラのパールを一粒持ち去って、仲間と一緒に蹴飛ばして遊んだりしている。


 そんな、どこにでもいる妖精だけど、そんな簡単に見られるものではなかった。もちろん、妖精を捕まえる為の魔法はある。妖精が限り無く魔法に馴染んでいる存在だから、それに対抗する魔法、という理屈になるらしい。

 魔法の理屈はさておいて、妖精に会うためには条件がある。会いたいと言う言葉に妖精が応えてくれる条件だ。とても簡単な三つの条件。

 一つ、無邪気であること。

 二つ、善悪の区別が付いていないこと。

 三つ、妖精を捕まえるために会おうとしないこと。

 ね? 簡単でしょう?

 でも、多くの大人たちは善悪の区別が付いてしまっているから、妖精に会えない。子供は善悪の区別が付いていないから妖精に会えることが多い。

 最初は単純に会いたいだけだった妖精と、対面した瞬間に捕まえたいという欲望が湧いてしまうのも子供なので、子供に羽をもがれる妖精は後を絶たない。

 でもね、それでも良いんですって、最初の純粋な「会いたい」気持ちが妖精には心地良いから、それで妖精達は出てきてくれるんですって。おかしいね。

 もがれた羽に見合う対価なのかもしれないね。


「故に、妖精の密売人に相応しいのは、子供の心を忘れずに、善悪の区別が付かず、捕まえると言う意識を持たないものだ」

 と、審問に掛けられた密売人は得意げに語った。

「俺はどうやら善悪の区別がついていないらしい」

「そのようですね。逃げられないように、と妖精の脚を切り落とすことに疑問を覚えない時点で相当だと思います」

 くすんだ金髪の中年女性が言った。彼女は肩を竦め、

「これで本日の審問は終了します。一つ言っておくわ」

「なんですか?」

「私たちは人間の異端を追求します。けれど、妖精は人の法が適用されません」

「つまり?」

「妖精はそこら中にいます。この建物の中にも。その彼らはあなたの罪を知っています。仕返しされないようにお気を付け遊ばせ」

 部屋の隅から、小さな笑い声が聞こえた様な気がした。


 その日の夜中、独房の中で、全身に針を刺されて悶絶している密売人が発見された。

「妖精が、妖精が」

 何を問われてもそうとしか答えなかった男は、治療を受けてから保護の厚い留置所へと送られた。

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