とけるまでまつ。
滝川ゆうあ
とけるまでまつ。
飲んでいたオレンジジュースがなくなった。
少しオレンジ色になった氷を睨む。
3つ積み上がった氷は夕日に照らされてキラキラしている。
氷が溶けるまであの女を待ってやろう。
それまでダチと話でもしとくか。
他愛のない会話で暇な時間を潰す。
俺らはみんな孤独だ。ここは孤独な仲間が集められた部屋だ。
氷が溶けてきた。
ストローをくるっと回す。カランカラン。まだ待てる。
そうだ、さくらちゃんがオススメしてた本でも読んどくか。
俺には少々簡単で挿絵が多すぎると思うがさくらちゃんに紹介されたんじゃあ読むしかない。
時計をちらっとみる。だが氷の方が経った時間がわかりやすい。
グラスに見せかけたプラスチックのコップ。俺はこんなのに騙されない。
俺にはグラスの方がお似合いだ。
コップの底に水がたまる。
まだ来ねーのかよ。まあいい。まだ氷は溶けきっていない。
氷が溶けてできた水を飲む。ズズズーっとストローの音が部屋に響く。
みんなの口数がだんだん減って来た。俺はまだまだ負けねえ。
となりに座るダチに話しかける。
「なあ、おい。最近あのアニメに新しいキャラクターでたよな。かっこよくね?」
「俺そいつのグッズもう手に入れたぜ。今度うちに見にこいよ。」
おい、うらやましいな。今度見に行くか。
四角かった氷が丸くなってきた。
もう5人ぐらい出ていった。完全に誰も喋らなくなった部屋は氷が溶ける音さえも聞こえそうだ。
じゅわじゅわじゅわじゅわ…。
さっきアニメの話をしたダチも出て行った。
もうこの部屋には俺しかいない。俺は孤独だ。
もう一度自分に言い聞かせる。
この氷が溶けるまであの女を待ってやろう。
俺はあの女がもうすぐ来てくれると信じてる。
ポタ。
目から出たあったかい水滴が氷に落ちた。
あ、やべえ。氷が溶けて小さくなっちまう。俺は慌てて涙をゴシゴシ拭うと氷を睨む。
カチッカチッカチッカチッ…。
時計の音が部屋に響く。
じゅわじゅわじゅわじゅわ…。
氷が溶ける音が耳に響く……。
だんだん目の前に霧がかかってきた。
俺はまだ待てる、俺はっ……。
迂闊にも俺は寝てしまった。
氷はまだ溶けていない。
まだ来ねーのか。あの女は。
俺をどれだけ待たせたら気がすむんだ。
また時計の音が部屋に響く。
カチッカチッカチッカチッ……。
ダダダダダダダダダ………。
なんだこの音は。
もしかして、もしかして、もしかして。
「ゆうた、ごめんっ。仕事長引いた!帰ろっ!」
何が仕事長引いた、だ。俺はずっと待ってたんだぞ。
「ままぁ、うわぁぁーーん。」
ともこ先生がいい子に待ってましたよ、と声をかける。だが泣いちまった俺はいい子なんかじゃない。
そういえばあの氷…。
慌てて思い出してコップを見ると小さな氷が残っていた。その氷を口に入れてガリガリ噛みながら保育園の先生たちにバイバイの挨拶をした。
そういや今日隣の席だったダチが言ってたグッズって仮面ライダーのあのベルトかな。俺もお袋にねだってみよう。待ち合わせの時間、いや、お迎えの時間に遅れたお袋は俺の願いを断れないはずだ。
とけるまでまつ。 滝川ゆうあ @yuataki124
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます