第3話 【案内】パパには正直見つかりたくない【嘘つき】
かつかつ。時々ふさふさ。屋敷のじゅうたんを通って、よく磨かれた石造りの床を通って。時々後ろを振り返れば、頭を抑えつつもついて来てくれる勇者様。この角を曲がれば私の部屋だ、と思った矢先のことだった。
「か、」
「……か?」
「かくれてください!」
辛うじて、潜めた声ではそういうのが精一杯だった。柱の後ろに押し込んで、私は先程から新しく加わった足音の主を、黙って待つことにした。予感が正しければ、勇者様が見つかったら間違いなく、とっても面倒くさいことになるからだ。
それ程時間をかけずに曲がり角から姿を現したのは、私とおなじ金髪を後ろに撫でつけて、濃い黄色の巻き角を重たそう―事実どうやって耳が聞こえているのかわかんない大きさ―に生やした、家族ぐるみで長い事会っている筈の友達のゴーレムちゃんからも「こわくね?」と言われ続けているくらい目の鋭い、
「ただいま~。」
「パパおかえりなさーい!」
……うちのパパだ。魔族の『魔王』。『勇者と魔王』のカガミ配信では、賞金に至る迄の魔族側最後の砦。といっても戦うときもあれば、クイズを出す時もある。『勇者』に合わせて最後の関門として立ちはだかるパパ。の割にはお勉強を頑張ったご褒美感覚で結構配りまくっているけれど。
「ネロちゃんは今日は早いんだねぇ。友達と遊ぶのはまた明日かな。」
「そうそう!今日はもうおしまい。カガミ配信も一段落したし、また明日。」
頼むから早く着替えてきてほしい。ついでにパパのカガミのお手紙もあるから確認してほしい。その時間で私は勇者様を隠さないといけないからだ。
いつも通りの笑顔を心がけて、私はパパにこう続ける。
「観たヒトからお手紙届いているみたいだから、早く見に行ってあげてよ。」
もし勇者様を見つけてしまうと、非常に、ひじょーーーに、ややこしいことになる。勇者様だと気づかれるのが駄目なのではなくて、
「ありがとう、そうするよ。そういえば何だか臭うけれど、グールくんでも居るのかい」
「ううん?さっきまで遊んでいたから、臭いがそのままついたのかも。」
勇者様が、グール……魂を呼び戻した直後の、ぼんやりとした死獣。それに間違われるのがややこしいからだ。勇者様にとっては、自分は怪我ヒトなのだから。
実際はグールで、怪我ヒトなのは大嘘なのだとしても、絶対にバレたくない。だからパパにも隠した。お夕飯の話になったことで、内心ほっと胸をなでおろす。夕飯までには服を洗っていかないと。
パパが廊下の角を曲がって、黒い蹄が見えなくなるまで私は見送る。
「行きましょ、勇者様」
「今のは?」
「うちの父です。見つかると、その……」
恋仲に勘違いされるかもしれないので。追い出されちゃいます。そう勇者様には釈明した。
願望混じり?いえいえ。これは恋愛感情じゃなく、推し感情。どうこうなりたいのではなく、囲って見守りたい。それだけなのですから。
鏡楽ねくろまんさーは勇者強火担 @Nenenenenever
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