第2話 おまけ
「そういや、石動さん」
髪の毛を切られながら、平野平正行は横で週刊誌を読んでいる石動肇を見た。
正行にとって石動は兄貴分であった。
「親父ってどこで髪切っているんですかね?」
石動は活字から目を離した。
「何だ、知らんのか?」
「そういや、俺も知りませんね。爺さんが生きていたころは、将棋を指すついでに髪切っていましたけどね……爺さん死んでからどうしているんだろう?」
「長くなってもいつの間にか、いつものクルーカットになっているからなぁ」
不思議がる二人に石動は声をあげて笑った。
それは偶然。
ある場所に忘れ物をしたときに見た、恩師・平野平秋水の断髪。
その場所で石動はある秘密を知る。
「びゃーくしゅん‼」
件の平野平秋水はくしゃみをした。
場所はあるマンションの屋上。
「こら、秋水。動かないでよ」
後ろから手が伸び頭を持ち、元の位置に整える。
「しょうがねぇだろ? 風が出てきたんだ」
「とにかく、頭は動かさない。最悪、丸坊主になるわよ」
背後からの声、長谷川綾子の手にはバリカンがある。
「それは嫌だ」
秋水がコンクリートの床に直接胡坐をかき、そこにそこを丸くくりぬいたごみ袋をかぶせ、頭を刈っているのが綾子なのである。
「お前、人の頭を刈って楽しい?」
秋水が問う。
「ええ、楽しいわよ。普段見上げているあなたを上から見られるし、仕事のストレス発散にもなるわ」
「こぇえな」
「そうかしら?」
そう言いながら、かつての妻はバリカンと図工用のはさみを、専門家には程遠いが、器用に使い整えていく。
「なあ、綾子」
「今度は何?」
「バリカンが痛いんだけど、ちゃんと説明書読んでいるか?」
「あら、失礼ね……ごめん、今説明書を見たら、私間違っていたわ」
「おい……」
平和な日の、平和な日常。
ぼくのとうさんのしごと 隅田 天美 @sumida-amami
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