エピローグ

 事件から一週間が経った。私は今でも同じようにバーチャルスクールに通っている。事件のあと、一度だけ警察に話を聞かれたがそれきり何もなかった。父が融通を利かせてくれたのかもしれない。それともあの怪しげな探偵の仕業か。


 三國さんは何日か療養のために学校を休んでいたが、すぐに登校してくるようになった。今までどおり柳崎さんと一緒にいることが多い。柳崎さんは友人が多いようで、他のクラスに顔を出しに行っていることもあった。そんな時、三國さんは一人になるが、学外に友人が多いからか学校で一人でいてもさほど気にならないのだろう。

 

 烏谷さんと猫塚さんはあれ以来私には近付かなくなった。時折、何かに脅えた様子を見せることもあったが私の知ったことではない。


 私は、教室で一人だった。昼休みが終わり、ログアウトして昼食を食べた生徒たちが戻ってくる。私は自分の席に座っていた。教室の窓からはバーチャル空間の日光が差し込む。人工物のような気持ち悪さがあって、私はこの光が嫌いだった。


 教室では皆、思い思いに友人たちと話をしたりしている。三國さんは自分の席で柳崎さんと話しているようだった。魚をさばく動画がどうとか、そんな会話をしているのが聞こえてくる。


 私は、一人だった。


 なんとなく、探偵に頼んだ二人への伝言のことを思い出した。私の引き立て役としてこれからも仲良くしてくれとか、そんなことを言っていたっけかな。


 私は、自分の席から立ち上がった。真っ直ぐに三國さんと柳崎さんの席に向かう。二人の席の前に立つと、教室が静まり返った。


 少し怖い。いや、少しどころではない。今からでも自分の席に戻った方がいいかもしれない。そう迷っていると、三國さんから声をかけてきた。


「何か用事?」


 意を決して口を開く。喉がカラカラで、上手く言葉が出るか自信がなかったが絞り出すようにして言った。


「三國さん、私にゲームを教えてくれませんか」


「うん、いいよ」


「いいの⁉︎」


隣の席の柳崎さんが驚きの声をあげる。


「いいよ」


 三國さんは笑ってそう答えた。今度は、真っ当な手段で。私は彼女を見下して馬鹿にしてやるつもりだ。


 午後の授業は随分と長く感じた。放課後になると、私は三國さんに声をかけて一緒に下校した。話しかけた時になぜか慌てた様子だったのが少し面白かった。


 今度は後をつけるのではなく、横に立って歩いた。向かう先はあの憎っくきアマテラスオンラインのワールドだ。いやが上にも緊張が高まる。三國さんがそれを察したのか優しい言葉をかけてくる。


「事前に声かけてって言ったの覚えててくれたんだね。ありがとう。何かあっても私がフォローするから」


「初心者扱いはやめてもらえますか?」


「いや、初心者でしょうが」


 三國さんが苦笑する。なんだか腹立たしい。


 校庭の端に着くと、三國さんは狐面をかぶり自分でも武器を装備してから私に銃を手渡した。両手でその銃を握り締める。


「じゃあ、せーの、でいこう。向こうに着いて六十秒経ったらすぐにゲームが始まるからね」


「……もし死んだらどうなるんですか?」


「お金とアイテムを全部失って初期位置に戻る。まあ、安心して。私が守るからそう簡単には死なないよ。世界ランク19位を舐めないで」


「はあ? なんですか、それ。私だってそう簡単に死ぬつもりはありませんけど。社長令嬢を舐めないでもらえます?」


「だからさあ、風見さんはなんで張り合おうとするの。初心者なのを認めなって」


「その上から目線であなたに守られるのが気に入らないって言ってるんです!」


「別に上から目線のつもりないんだけど……。もういいや、行くよ」


「ちょっと、待ってください!」


「せーの!」


「ねえ、ちょっと!」


 私は彼女と一緒に一歩を踏み出す。


 校庭を出ると、そこは戦場だった。

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柳崎祀莉が2049年の夏休みに探偵事務所のアルバイトで経験した電脳的で怪奇的な出来事 すかいはい @zhengtai13

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