「硫黄島異聞‐なぜ彼は愛馬から落ちたのか‐」の幻影
「音楽の父」と呼ばれるJ.Sバッハの曲は、大いなる音の神殿の柱の間に中に立っている様な荘厳さと、そのステンドグラスから射し込む圧倒的な極彩色の光の華やかさを私たちに与えてくれる。
この「硫黄島異聞」は、カクヨムのバッハの奏でる圧倒的なクラシックである。
これを読み進めているうちに、部屋は書斎に変わり、タブレットは重厚な皮表紙の書籍に変化する。
ずっしりと重い本の羊皮紙の上に滲むインクが香り立つ、文字が語りかけてくる。
著者は私の座る椅子の背もたれに肘をついて、「見よ」と指差す。
「あれが西竹一。バロン西だ」
書斎の床から天井までびっしりと本が並んだ本棚は、その上に、著者の言うがままに西竹一のセピア色の勇姿を映し出す。
著者は見て来た様に、彼のいる風景を切り取り、再現する。
私はそれを聴きながら、ブランデーに口を付ける。
西竹一の笑顔、誰にも見せなかった涙、彼だけが見た風景。
著者が書いているのは小説ではなく、膨大な資料に基づく伝記である。
例え創作があったとしても、私は既に著者の世界の風景を見ている。
夕陽が地平線に隠れると、著者は木製の窓枠に座って笑う。
「では続きは、また今度」
そいうとちょっと手を上げて、出来たばかりの闇に消えて行く。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886647817
どんな悲惨な時代でも、生き方次第では空は青いと教えてくれる作品である。
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