第9話 旅日記の一ページ 8
「う…………」
ハルトはゆっくりと目を開ける。
「ここは……」
まだはっきりしない目で辺りを見回す。
とりあえず、見るからにさっき倒れた土の上などではないようだ。
「ようやく気がつきおったか。鍛えとると言っても大した事ないの。」
ハルトはハッと、声のした方向を見る。
するとそこにはもう一つのベットがあり、その上であぐらをかいたウルがニタニタと笑いながらこっちをみている。どうやらローブとブーツは脱いだらしく、きちんと壁にかかったり、揃えてベットのそばに置いてあったりした。
ハルトはそこでようやく気付いた。
(リュヘンにこんな宿もないし…………つまりここは……)
「おぬしの察しの通り、ここはバルンテールの宿じゃよ。」
「まさか!どうやってここに……?」
「なぁに…我は神じゃ。それくらいの事は簡単じゃよ。」
ウルは口に手の甲を軽く当て、ホホホと上品に笑ってみせる。
バルンテールはそこまで入国審査が難しい国ではない。どうせ自分の持っていた手形を見せたのだろうと考えついたハルトは、その経緯は聞かぬ事にして、ベットから降りようと身体に力を入れる。
「痛ッ!! 」
しかし、激しい痛みが身体を走る。
ハルトは苦痛に耐えきれず元の体制に戻り、必死で痛みが治まるのを待つ。
すると、ハルトを待ちながら毛繕いを始めていたらしいウルは一旦手を止め、ベットからスタッと降りる。
そして……物凄く悪巧みをしているかのような笑顔でハルトに馬乗りになった。
格好としては仰向けのハルトにウルが上から跨っている状態であり、ハルトは急な事で表情が付いて行かなかったが、顔だけは朱に染まっていた。
「ぬし、何でこうなったか分かるかの? 」
「ふわぁ? 」
ウルは笑顔をハルトに向けたままハルトの服をゆっくりめくる。
ハルトは今気づいたが、自分の姿がいつの間にかコートにベスト、シャツも脱がされ、ただ下着として着ていたTシャツのみの姿になっていた。
ウルがめくった服の下には石で切ったのか包帯が巻かれており、それでも止められなかった血が滲んでいた。
「なっ……ウル、もしかして……手当を......」
「ま、まぁ火で怪我したのも多いがほとんどは我がやった傷だからの……って……勘違いするでないわ!」
すると次の瞬間、ウルはためらいもなくその傷に爪を立てて食い込ませる。
「イッッ!? …ッッ!!!!! 」
ハルトはシーツをつかんで苦痛に表情を歪ませながら痛みに耐える。
「おぬし、我慢するでない。こっちを見よ」
「ウ、ウル??」
「……お主、ハルト、我に言う事があるじゃろう? 」
急に真剣な眼差しで放ったそのウルの言葉にハルトは固まった。
神と青年と旅日記 四六 八二 (よむ やつ) @pecker
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