最終話 自分は自分

 ハヤタはショーターが語るユーリルについて、ひどく驚いた。


 ショーターは続ける。


「人の持つ直感を利用するんだ。AとBで迷う時、直感でAが良いように思ったとしよう。すると彼女ユーリルがすぐに『Aにしなさい』と言う」


 ショーターは言葉を一度切ったあと、カップに目を落とした。


「恋人に欠点がある事をわかっていて、でも好きで付き合っている。ユーリルは欠点を拾い上げて報告する。恋人が自分に有益なら、今度はそれを拾い上げてくる。良い事悪い事を、心の奥底で知らぬ間に判断し、決着がついている事を突きつけている、なんだよ」


「でも、誰もそんな事…」


「言わないよね。私も広めようとは思わない。だってユーリルが言うことは結局は自分の判断で話しているって事だろ」


 ショーターはさらにうつむいた。


「ずっとね、何処かへ行ってしまいたいと思っていたんだ。そしてユーリルを何処かへやってしまう事にした。これは私の器の小ささかもしれない」


「なぜです」


「ユーリルは精神体だ。人の心の中で姿を作り出す。でも分離されたら、そのユーリルは何処へ行くのだろう? 消えるのかな? 別の誰かにつくのかな?」


「わかりません……」


「分離する時、ユーリルの説得に時間はかからなかった。私は既に決心していたから。ユーリルはその決心を拾い上げて、共に決断した事になっている」


「……」


「彼女はおそらく消えてしまった。それは私の罪だ。彼女を消してしまったのだから」


 彼は顔を上げた。


 今度は青い空を見ている。


「でも今になってもユーリルと一緒にいたいとは思わないんだ。あれはね……」


 ショーターはハヤタの顔をじっと見つめて言った。


「必要ないんだよ」


 その言葉にハヤタの瞳から涙が溢れて止まらない。大粒の涙が後から後から溢れてくる。


 不適合者と宣告されてから、初めて感じた安堵感。


 ショーターはそっとハヤタの肩に手を置いた。


 陽の暖かさと彼の手の温もりに、ハヤタは涙が止まらなかった。





 完

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僕の中に住む人 青樹春夜(あおきはるや:旧halhal- @halhal-02

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