第4話 私と彼女

「そうか、君は合わなかったんだね」


 彼はハヤタの話を聞くと、少年の不安を取り払うよう注意しながら答えてくれる。


 暖かい陽射しの中で、2人は並んでベンチに座り、コーヒーを飲んでいる。


 ショーターが淹れてくれたそれは苦味が少なくてむしろ甘いような気がした。


「教えてください。なぜ『離婚』……分離したんですか?」


「んーそうだね、言ってみれば私も合わなかったんだよ」


「不適合ということですか?」


「一旦適合したけど、彼女ユーリルと合わなかったんだ」


「よく……わかりません」


精神こころがだよ」


 ショーターは言った。

 価値観が違ったとも言った。


「ユーリルはね、適合すると人々の中に居場所を作るんだ」


 ハヤタはサキコの言葉を思い出した。


「イメージはね、いろいろあるんだ。私の場合はね、都会的なマンションのような部屋を作ってね。見た目は若い綺麗な女性だったよ」


「精神に家を作るんですか?」


「どちらかといえば頭の中に、という感じだね」


 彼女は…とショーターは語り出した。


彼女ユーリルはいつもうるさいんだ。体に良いから野菜をとれとか、カフェインは良くないからとりすぎるなとかね。私は恋人がいたんだけど、あの女は良くないから別れろとかさ。私だけかと思ってみんなに聞いてみたんだ。私のユーリルだけがうるさいのかと、ね」


 そうではないようだった。

 でもみんな折り合いをつけていた。

 そしてショーターは悩んだのだ。


「どうして私だけがユーリルを疎ましく思うのか。私だけがユーリルを受け入れられないのはなぜだろう、とかね。でも考える端からユーリルが答えていく。『あなたは適合しなければ良かったのに』と『あなたは孤独が好きなんだ』とね」


 ショーターはすっかり冷めてしまったコーヒをすすった。


「5年ほど一緒にいたんだけど、ある日気がついたんだ。彼女ユーリルは私の思考の奥底にあるものを拾い上げてあるだけなんだと」


 ハヤタは驚いて言った。


「拾い上げる?」


「そうでなければ反射させていると言ってもいい。例えば野菜は体に良いという事を知っている。でも今は食べたくない。そこへ彼女ユーリルが『野菜は体に良い』という事を拾い上げて私に言っているだけなんだ」


「ええっ!?」




 つづく

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