第92話
パワードスーツ――死神の切り札。
似たモノをあげるとするならゴリラの上半身がもっとも近いだろうか? ただし上半身だけで身長三メートルあり、三角形をしたデカい頭を持つゴリラだ。
頭部となった舳先部分を残して小舟に見えていた時の面影は無し。
大きさは昂雅の背丈のちょうど倍。胸部が突き出たズングリとした胴体の下に薄い板のようなパーツが二枚ついていた。あれが足なのだろうか?
両肩から伸びる腕は二メートル近い大きさで厚みのあるしゃもじのような形をしていて指が無い。腕のように見えるが腕ではないのかもしれない
「何だあれは……」
「ゴーレムだ……。死神が鉄人形を呼び出したぞ……」
頭でっかちでしゃもじのような大きな腕――コミカルながらも異様な鈍色の姿。死神の取っておきは昂雅だけでなく広場にいた兵たちも驚かせた。その彼らに向けて己の威容を誇示するかのように『ゴーレム』が両腕を広げていく。
この死神の新たな使い魔に矢を放つ者は一人もいなかった。放ったところで矢が弾かれると全員が直感していた。実際、パワードスーツの装甲は死神のビームでもダメージを受けていない。矢を何百と受けた所で蚊が刺したほどにも感じないだろう。
そして彼らと同じく昂雅もどう攻めれば良いのか分からず手をこまねいていた。
剣や槍で殴りつけたところでポキリといくだけだろうし、電撃も効きそうにない。
結局のところ格闘戦を挑むしかないのだが、相手の体格は自分の倍でどんな性能を有しているのかも分からない。力比べを挑むにしても時期早々だろう。
逆にこんな仰々しいものに乗り込んだ死神は何を仕掛けてくるつもりなのだろうか?
とりあえず、このズングリとした三メートル越えのボディなら大容量のバッテリーも搭載しているだろう。ビームを中断することなく撃つことができそうだが――
見上げる昂雅の前で小舟の舳先だったパワードスーツの頭部が青く光りだしそれが先端に収束していく。
ヤバイッ――!?
昂雅が咄嗟に飛び退いた直後、昂雅のいた場所に青いビームが着弾。仕掛け花火のようにボボン! と連続して火柱が上がる。その火柱が消える前にパワードスーツが昂雅を殴り倒そうと右腕を振り上げ接近してきた。
地面から数センチ浮いた状態で滑るように移動し、二メートル近くあるしゃもじのような腕で昂雅の胸先を殴りつける。鈍重そうに見えて全ての動きが俊敏だ。
だが『俊敏』なだけでは昂雅の脅威にはなりえない。
不意を突かれながらも昂雅は上体を反らしステップを踏んで迫る右腕を軽くかわす――いや、避けたと思った瞬間、胸部に強い衝撃を感じ昂雅の身体は広場から街の上層へ向けて大きく吹っ飛ばされた。
広場から街の上層へと続く坂とそれに沿って立ち並ぶ木造家屋の上を、まるで力強く打ち出されたゴルフボールのように飛んでいく。
「何ィッ!?」
広場中がどよめいたが、一番驚いたのは吹っ飛ばされた昂雅本人だ。
十メートルを越え、二十メートルを越え、すぐ目の前にいたパワードスーツの姿が見る間に小さくなっていく。
確かに殴られた衝撃を感じたが、これは衝撃以上の吹っ飛び方だ。あの右腕の機能なのか? 俺を空中に打ち出してどうするつもり――
広場に立つパワードスーツがこちらに左腕を向けるのが見えた。腕の先端はすでに青く発光している。
宙を吹っ飛ぶいまの自分は単なるマトだ。昂雅の感が警報を響かせた。
撃ってくる! 避けろ!!
昂雅は吹っ飛ぶ自分の軌道上に防御フィールドを作り固定。それにわざとぶつかり弾かれることで強引に吹っ飛ぶ方向を真下へと捻じ曲げた。
荒っぽい方法だがこれが一番素早く軌道修正できる。
防御フィールドにぶつかったため昂雅は回転しながら勢いよく真下を通る狭い坂道へ着地。その数メートル上空を青く太いビーム光線が走り抜けていった。
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