第91話
戦闘を開始してから死神の戦い方は一貫していた。
こちらから距離を取りビームで攻撃。これだけだ。
シンプルながら正攻法と言える戦い方だろう。飛び道具を持っていたのなら昂雅だって同じことをしている。
しかしそんな物は所持していないため、昂雅が攻撃を当てるにはまず相手に接近する必要があった。
飛行能力を有する相手に近づくことはトランスフォーメーションをしていてなお困難だ。苦心して距離を詰めたとしても反故にされてしまうことは明白である。
なら、その逃げ場を潰せばいい――
昂雅は自身と死神を包み込むように防御フィールドを形成すると、それを一気に収縮させた。
自分を封じ込める青い半透明の球体の出現に、死神が慌てたように昂雅の方を仰ぎ見るがもう遅い。
互いの逃げ場を塞いで戦う金網デスマッチならぬ防御フィールドデスマッチだ。しかもこの檻は昂雅の意思で自在に大きさを変えることができる完全チートのホームグラウンド。
距離を取ろうとしていた死神を捕らえるため、作り出したフィールドの直径は十メートル強。中心にいた昂雅は死神の方へ落下していき、死神は猛スピードで
死神がどう足掻こうと防御フィールドの中に逃げ場は無い。後はカウンター気味に一発殴り、光弾を撃ち出す頭部のチューブを引き千切ればいい。
――と、昂雅の拳が届く直前、死神の右手から青い光の渦が現れた。
アテイナの魔法剣を打ち消した光の渦だ。
渦の直径一メートルほど、そのフチが防御フィールドの内壁に触れてギャリリと耳障りな音を引っ掻き鳴らす。
この音のせいだろうか? アテイナやガントンには光の渦が盾だと考えたが、昂雅には回転ノコギリのように見えた。そしてこの見立ては半分正しかった。
渦と接触した防御フィールドの表面に白い亀裂が走り瞬く間にフィールドの全体を侵食。昂雅の青い球体は吹き飛ぶ塵のようにかき消された。
原理は解らないが、死神の渦が防御フィールドをエネルギーの粒子に強制分解させたのだ。
「――だたっ!?」
光の回転ノコギリが防御フィールドを切り裂いたと思ったらフィールド自体が消滅していた。予測不可能な異常事態。驚愕のあまり「何だと!?」という言葉が意味不明な奇声となって口をついた。
それでも敵は射程内にいる。昂雅は死神の横っ面を狙って拳を振り下ろす。
檻を破壊した死神も急降下を開始。
死神の額にかろうじてパンチが届いたが、昂雅の攻撃はまたもクリーンヒットとはならなかった。
クソ! と昂雅の頭が悔しがる前に追撃しようと体が動いた。その眼下で急降下した死神が錐揉みしながら地面に激突する。
昂雅の攻撃を受け流したもののノーダメージとはいかなかったようだ。ヘルメット越しに受けたパンチの衝撃で軽い脳震盪を起こして前後不覚となったのだろう。
そしてこの苦境でも死神はビームを撃ってこなかった。派手に乱射すると次弾装填のためエネルギーをチャージする時間が必要なのだ。
装填完了まで猶予は数秒もないだろう。だが――
昂雅は自分の読みが当たっていたことを確信すると、ここが勝機と賭けにでた。
墜落した死神に勢いよく飛び掛かろうと、空中に作り出した防御フィールドを蹴って急降下。その真正面に煤けた物体が飛び込んできた。
あの小舟だ。
主のビーム攻撃を受けた表面にいくつかの焦げ模様があるも、ヘコみも無くダメージは無いようだ。
その頑丈なボディを昂雅はウゼェとばかりに蹴りつけた。
これまでの憂さを晴らすような揃えた両脚による強キック。これをもろにくらい四メートルある小舟が地面に激突――しなかった。
叩きつけようとした場所に死神が横たわっており、その死神に衝突するスレスレの所で小舟がピタリと静止。
この光景に戦いを見ていた兵たちからどよめきが起こる。そして彼らの驚きは更に続いた。
船底が開き死神が中に吸い込まれていく。
これが彼らには得体の知れない物体に死神が食われたように見えた。
「食われた!?」「死神が飲み込まれましたぞ!」小舟の前に着地した昂雅に向けて兵たちが口々に叫びを上げる。
「飲み込んだ……? 乗り込んだってことか」
確かに宙に浮く小舟の下にいたはずの奴の姿が見当たらない。いよいよオプション装備の本領発揮かと身構えた昂雅の前で小舟が垂直に起き上がり――
『変形』を開始した。
変形――そう、変形だ。
船底を昂雅に向けて屹立すると、小舟が真ん中から上下に分離し、その下半分が左右に分かれ始める。左右に分かれたパーツの中に死神の姿が一瞬垣間見え、上からスライドしてきた装甲版に覆い隠される。
昂雅の理解が追いつけたのはそこまでだった。
ウインチが回転するような音が鳴り、小舟だったモノはいくつかに分かれ、それぞれが歪み、捻れ、膨れ上がる。
昂雅の知る変形という定義から外れたデタラメな変形。変形に要した時間は一秒にも満たぬまさに一瞬。
ワケの分からぬ変形っぷりに唖然としながら昂雅は数歩後退する。
気が付くと舟のように見えた物体は、そこから大きくかけ離れた異形に変貌していた。
「こいつは……」
三メートルはあるソレを前に声が漏れる。人からかけ離れたソレが昂雅には人の形に見えた。
パワードスーツだ――
気圧されたように見上げる昂雅の前で死神の切り札が動き始めた。
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