第三幕 夜戦

第23話

「時報……いや、緊急速報か」


 カンカンと乱暴に打ち鳴らされる鐘の音に反応して街のあちらこちらで犬たちが吠え始めた。

 連れも二人も周囲の住人たちも何事か? と騒然となり、広場にいた衛兵たちが大慌てで坂道を駆け下りていくのが見えた。


「どけぇ!」と怒鳴りながら通行人を蹴散らす勢いで馬に乗った兵士がガーデン本部前で急停止する。


「急報ーーっ!」


 兵士は一声怒鳴ると手綱を引かれていななく馬が落ち着くのを待たず鞍から飛び降り扉を殴り倒すように本部内へ駆け込んでいった。

 そのいかにも非常事態といった様子を見てシシルが言った。


「おそらく、外壁のそばまでオドがやって来たのかと」

「よくあることなのか?」

「年に二、三度といった所でしょうか。でも大事になったことは一度も無いと聞いています」


 シシルの見立てを証明するようにガーデン本部から六人の兵が飛び出して来た。毛むくじゃらの男が二人、女性が四人。全員クロスボウと槍で武装している。 その中にリルハの姿もあった。

 衛兵たちはそのまま二手に分かれて街の下層へ走っていく中、リルハだけ列を離れてこちらにやって来た。


「ガン・バロルの壁門にオドが一体突っ込んで来たそうです。森の奴の倍はある大きさだとか」

「ヤバイのか?」

「大したことではありませんよ。街にオドが迷い込むことは何度もあって守りも万全です。私はやぐらの上に配置ですが、矢を撃つ前に終わりますよ」


 にっこり笑ってリルハは先行した同僚たちの後を追い石段を駆け下りて行った。

 どうやら本当に街の守備隊にとって慣れた仕事で大事ではないようだ。

 広場周辺の住人たちも「それなら大丈夫だな」といった感じで家路につき始める。シシルとカティアにも心配するそぶりは見られなかった。これまで街を守ってきた兵士たちを信頼しているのだ。

 それなら自分が気に病むこともないかと昂雅も肩の力を抜いた。


 ドォン! と打ち上げ花火のような破砕音が鳴り響いたのはその時だった。

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