第10話
言語習得のタネと仕掛け――言うまでもなく昂雅の体内に宿る七千億のナノマシンのことだ。彼らは宿主に知識も与えてくれる。
『いつ、いかなる状況下でも宿主を生存させること。それがナノマシンに与えられた使命の根幹だ』
数ヶ月前、昂雅にそう告げたのはオーダーに所属していた技術者シュメイルだった。
昂雅が博士と呼び慕っていたこの老人は戦いの合間のわずかな時間でナノマシンを調査してこう結論付けた。
損傷した肉体の修復、環境への適応、ナノマシンがこのような働きをするのは優れた兵器である宿主を死なせることなく半永久的に戦い続けさせるためだと。
そのナノマシンの働き、『環境への適応』に属するのがこの言語習得能力である。
未知の言語が用いられた状況を監査し――例えば、友人が怪我をした直後にかける言葉はまず安否の確認だろう――交わされた会話の単語や文法の何百もの翻訳パターンを推測し、その後も会話が行われるたびに翻訳パターンを検証、再構築を繰り返して『正解』を絞り込んでいく。
当然、翻訳ミスもあるし最初から正解率百パーセントとはいかないが、その言語に触れ続けることでミスは修正され語彙も増やしてくれる。
その言語圏で生活し続ければ続けるほどより流暢に話せるようになっていくわけだ。
言葉さえある程度理解してしまえば文字の習得はもっと簡単だ。適当な本を何冊か読み聞かせてもらえば、それだけで文字の情報をナノマシンが脳に焼き付けてくれる。
今回もナノマシンたちは昂雅が気絶している間にここの四人を含むこの小屋周辺で交わされた会話を漏らすことなく言語データとして蓄積し解析。昂雅が目覚めると同時に最低限の会話ができる程度にそれらをまとめ上げて見せた。
その際に人名等の固有名詞を昂雅の記憶域に入力してくれるサービス付きだ。
この言語の解析作業は現在も進行中で、いまこうして会話している最中も随時修正が行われている。作業が完了するのはまだ当分先のことになるだろう。
この機能は昂雅がオーダーに所属していた時にも、多種多様な人種との交流に大いに役立ってくれた。その性能に対する信頼性は折り紙付きである。
とはいえ、この体内に宿る七千億の同胞たちには未知の部分もまだまだ多く、当人ですら全てを熟知しているわけではない。
そんなオーバーテクノロジーをどう説明したものかと昂雅は頭を悩ませた。
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