第9話
昂雅が部屋の入り口に立つと五対の視線がそこに集まった。
「気を失った俺を運ぶのは大変だっただろう? 介抱してくれてありがとう。おかげで元気になった。俺の名前は紫電昂雅。日本から訳あってここへやって来た」
自己紹介と礼を言い頭を下げると予想通りのリアクションが返ってきた。
「言葉、話せたの!?」
「いまさっき話せるようになった。君はリルハだったな。そしてシシルとカティアだ」
声を上げた赤毛の少女から順に名を呼び確認していくと次に中央に座る老婦人と青味がかった髪の娘に目を向けた。
「貴女がアテイナ様で、君がラゥナ、カティアのお姉ちゃんだ」
昂雅の言葉に名前を言い当てられた二人以外も驚きの声を上げた。ラゥナとカティアは並んで立っている。なので、二人の驚いた表情も見比べることができた。ポカンと半開きにした口に愕然と見開いた瞳の揺らぎ、その上の眉の角度までぴったり一致している。
ずいぶんと仲の良い姉妹なのだなぁと昂雅は微笑ましい気分になった。
ラゥナというこの髪の長い少女も昂雅と同年代くらいの年に見えた。
リルハが部活系の元気少女なら、こちらはクラス全員から好かれる美人委員長といった感じだろうか。
目つきが少々厳しいが知性を感じさせる綺麗な顔立ちをしており、服装もリルハと似た物で、首周りの開いた白い服の上から胸と手足にレザーアーマーを装着しているのだが、活動的に見えるリルハと違い、こちらは陽にあまり焼けておらず体つきもほっそりしているので無骨なアーマーが何とも不似合いだった。
「ふむ、リルハたちからは言葉が通じないと聞いていましたが?」
ここで見知らぬ顔のもう一人――老婦人のアテイナが昂雅に問いかけてきた。
グレーのテントガウンをまとい、白髪交じりの髪を後頭部で丸くまとめ上げたこの気品感じさせる老婦人がこのメンバーの上官なのだろう。
上品な顔立ちだが目つきは鋭く、ただ姿勢良く椅子に座っているだけだと言うのに、ただそれだけで威厳と風格を漂わせている。
昂雅は彼女に一礼してから口を開いた。
「学習能力には定評があるとよく言われています」
「学習……つまりこの短時間で習得してみせたと?」
「あなたはずっと気を失っていたじゃありませんか」
いい加減なことをと言うようにラゥナが睨みつけてきた。厳しい口調だが澄んだ声をしている。
「魔法ということでしょうか? 言葉……いえ、記憶の魔法」
「すごいや! アテイナ様もラウナ様も、これで僕の言ったことも信じてくれるでしょう?」
リルハの指摘にシシルが全身毛むくじゃらの小さな体で喜びを表現する。その様は小熊がはしゃいでいるようで何とも微笑ましかったが、それでもラゥナの嫌疑の視線は変わらなかった。
「シシルが嘘をついているとは思わないけれど、言葉の魔法も鎧の魔法も聞いたことがないわ。リルハだってそうでしょう?」
「そりゃあ、魔法じゃないからな。タネもあれば仕掛けもある」
昂雅は指先でこめかみの辺りを軽く叩いてみせた。
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