第3話
いつからそこに居たのだろう。
川の向こうに、細い蔓を編んで作った籠を手にした小柄な女の子が立っていた。呆然としたように昂雅を見つめたまま動こうともしない。
ジャケットに防刃ベストと見慣れない格好の男が一人で喚いていたのだから、彼女が固まってしまうのは当然だろう。
可愛いらしい顔立ちと背丈から察するに年は十歳くらいだろうか。
ショートにした髪が木漏れ日に当たり青味がかって見える。
袖や裾に模様の編み込まれた白い生地の厚そうなシャツと手袋と、肌の露出を抑えた服装をしており、腰のベルトに皮の袋と小さな鉈を、細い首には小さな木工細工や、木の実をつないだようなペンダントをジャラジャラと何本もぶら下げている。
地面に生えた雑草のせいで履いている靴はよく見えなかった。
跳ねた小石が当たったのかとヒヤリとしたが見た感じ外傷は無さそうだ。おそらく顔のそばをかすめ飛んだのだろう。どちらにしても悪いことをした。
民族衣装のような少女の出で立ちは昂雅にここがに日本ではない別世界だという現実を改めて突き付けた。しかし人がいるということは日本へ帰還するためのヒントを入手できるかもしれない。昂雅は眩暈を覚えつつも前向きに考えることにした。
「やあ、すまなかったね」
まずは目の前の少女と話をせねばと昂雅は笑いかけた。
少女がピクと顔を動かし訝しそうな視線を向けてくる。
まあ、そうなるよな――
さっきまで喚いていた男が声をかけてきたら、俺なら早々に回れ右して走り出す。
彼女が腰の鉈に手を伸ばさないということは警戒されてはいないということだろうか?
そんなことを考え、昂雅は肝心なことに気が付いた。
言葉は通じるのか?
「カティア?」
くぐもった声とともに、少女の後ろの茂みがガサガサと子熊のようなモノが姿を現した。
のそりと二本の足で歩き、顔中毛むくじゃらで頭の上に丸い耳も見える。大きさは少女よりもやや大きい。
子熊のように見えるが森に住む獣で無いことはすぐに分かった。
少女と同じような服を着て首飾りを何本もぶら下げていたからだ。よく見てみればリュックを背覆い、右腕には手斧を取り付けた長手袋をつけている。手斧を振り回してもすっぽ抜けないように手袋はベルトでギチギチに固定されていた。
謎の生き物は対岸の昂雅に気づくと黒く小さな目をパチクリさせ、少女に何かを語りかけた。少女もハッとしたように言葉をかえす。
こちらに視線を向けたまま言葉を交わす二人の姿を見て昂雅は謎の生き物への警戒を解除した。
コレは……『亜人種』デミヒューマンといったか。エルフやドワーフのような、この世界特有の種族のなのだろう。さしずめ熊族といったところか。
何にせよ、昂雅が地球とは違う異世界に転移させられたことはこれで確定だ。
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