第2話

 とにかく森をでてみよう。

 昂雅は腰を落とし茂みの間を縫うようにして水音が聞こえてくるほうへと進み始めた。

 水の流れる音は昂雅にも馴染みのあるものだった。おそらく幅の狭い小川だろう。


 三分ほど進むと落ち葉の積もった地面は岩場に変わり川が見つかった。

 川幅は五メートルほどあり思っていたよりも広かった。


 岩の隙間から生えた長い雑草が水に揺られ、水面で反射した陽光が周りに生えた木立の葉を黄金色に輝かせている。

 もしピクニックに来ていたのなら、サンドイッチを食べるのにもってこいの場所だっただろう。


 流れる水は驚くほどに透明で、底に生い茂る水草や砂利の一粒一粒までもが水面からでもよく見える。

 水草の間では鮮やかな魚が五匹ほどで鬼ごっこをしていた。

 熱帯魚のような赤と青の斑模様をしており背と腹から長い触手のような物が伸びている奇妙な魚だ。

 こんな魚がいるということだけでここが日本ではないことは明らかだった。


 念のために携帯ツールでこの魚と水草も調べてみたが、検索結果はともに『該当種無し』。

 図鑑に載っているような動植物のデータはツール内に全て収まっている。そこでヒットしないということはこれらが新種ということになるが、樹木、魚、水草、これらが揃って新種だなどとあり得るだろうか?


 を侵攻してきた時空帝ウラナガン。

 現在、通信は断絶し、現在位置も不明。

 そして周囲には未知の動植物。


 ウラナガンに改造される前の昂雅は漫画を愛読しゲームをやり込むありふれた高校生だった。なのでさわり程度のSF知識も持ち合わせている。

 ここにきて昂雅はここが地球とは全く別の異世界である可能性――頭に渦巻いた嫌な予感が的中している可能性に思い至った。


「マジか……」


 力の無いつぶやきが口から漏れた。

 ウラナガンの高笑いと、直後に感じたあの強烈な船酔いはそういうことだったのだ。

 昂雅はウラナガンに剣を突き立てたが、ウラナガンは昂雅を戦いの場どころか地球から弾き出したのだ。

 痛み分けどころか昂雅が敗北したようなものだろう。


「クソっ! 嫌がらせかよ! ラスボスがみみっちいことしてんじゃねぇ!」


 昂雅は天を仰ぎ全身をわななかせると、そのイラつきを川べりの小石に叩きつけた。

 蹴り飛ばされた石は軽々と川を飛び越えて対岸の木に命中。

 カン! と小気味良い音を反射させたその直後「キャッ!」という悲鳴が続いた。

「あ、すまない」

 昂雅は声の方へ反射的に頭を下げ――人がいることに気付き視線をあげた。


 川向こうの膝まで伸びた草むらの中で女の子が一人、驚いたように昂雅を見つめていた。

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