第一章:ステルカルナの地

第一幕 強制転移 

第1話

 昂雅はゆっくりと体を起こし、鋭い目で周囲を見渡した。

 先ほどまで居た時空城の宇宙船のような無機質な壁ではなく、地面に落ち葉の降り積もった森の中だ。蔦の巻き付いた木が不規則に立ち並びそれらの足元は藪や草で覆い隠されている。


 どこに転送された?


 ウラナガンがあの戦いの場から何かを行い、自分を追い出したことは明白だ。

 ここは日本のどこかなのだろうか? それとも外国? 数時間内にあの場に戻ることができれば良いのだが……。

 オーダーから支給された携帯情報端末を懐から取り出そうとして昂雅はトランスフォーメーションが解除されていることに気が付いた。

 体内のナノマシン群が危険ではないと判断し解除したのだ。つまり――


「奴らの勢力圏外ということか……」


 軽い絶望を感じながら昂雅は周囲に目を配り、ボサボサに伸びた髪と防刃ジャケットについた土と落ち葉を払い落とした。

 ダークグリーンのジャケットに防刃ベスト、厚底のブーツと最終決戦に臨んだ時と変わらぬ服装にダメージを受けた痕は見当たらなかった。


 音を立てぬように意識しながら土を払いながら視線を動かして周囲を警戒していく。細めた目の眼光は十七歳の少年には似つかわしくない鋭さがあった。


 昂雅が時空帝ウラナガンと戦った期間は約半年。

 このわずかな期間で、眉が細く瞳が大きいからか周囲の母親の友人などからはよく可愛いと評されていた彼の顔つきは、伸びた髪やこけた頬と相まってどこか狂気のような物を感じさせる面構えとなり果てていた。

 この顔があの頃のような無邪気な物に戻ることはもうないだろう。昂雅自身もそう考えていた。


 周囲には昂雅の他に動くものは見当たらなかった。


 木立の隙間から聞こえる野鳥の声は耳慣れぬもので、他にする物音も枝葉のさえずりと小川のせせらぎだけ。

 動植物についての知識があればある程度場所が判別できたのかもしれない――そんなことを思いつつ昂雅は情報端末を起動させた。


 オーダーから支給されたこの分厚いケースに入った改造スマートフォンには孤立した時に役立つ機能が盛り込まれている。取り出して確認してみるとグレネードの爆発にも耐えるというケースには傷もなく、端末は正常に機能しているようだった。

 だが、位置情報を調べて出てきた結果は『現在地不明』。通信はどこにも繋がらず、電波状況も最悪のレベルゼロ。念のためにと緊急回線に合わせて突入部隊本部に呼びかけてみたが返答は無かった。


 次に昂雅は端末のカメラでそばに生えている木立を撮影して端末内のデータベースと照らし合わせてみた。

 端末内にはあらゆる動植物のデータが記録されており、珍しい動植物ならばそれで今自分のいる地域を割り出すことができる。

 結果は『該当種無し』。似た樹木として三十余りの名が候補に出てきたが見る気にもならなかった。


 嫌な予想が昂雅の頭の中で鎌首をもたげようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る