変態従者な婚約者

闇谷 紅

第1話「朝」

「んふぉぉんっ、へリアはふぁぁぁぁぁっ」


 ドアを開けると身に着けていない婚約者が枕を抱きしめて身をよじっていた。そう、下着だけだ。顔にはレースで飾られた一般的にパンツとかショーツなんて呼ばれているモノを覆面のように装着していたが、だからと言って下はすっぽんぽんと言う言事もなく、そちらにもちゃんとパンツは履いていた。つまり、自分の履いていたのを脱いで被ったと言う訳ではなく。


「それで安心すべきかと言うと、そうじゃないよな」


 俺が顔をひきつらせたまま見つめる婚約者は、聖女フェリアの従者であり、婚約も俺を信頼し、より親密な関係を築くためと言う名目で『聖女あちら』側から申し出てきたものを俺が受けた形になる。


「あの時、コイツの本性を知ってたらなぁ……」


 俺は絶対に承諾しなかったと思う。たとえ聖女とそれを支持する貴族の中で最も聖女の信頼を受けている者と言う関係をぶち壊しても。


「聖女のパンツ被って朝っぱらから変態街道まっしぐらの従者ってどうなんだよ!」


 婚約とか言う話だったが、どこをどう考えてもロクでもないのを押しつけられた気しかしない。今からでもいいから返品したい。


「美形で外面は良いし、有能だし、聖女の支持者の中には憧れを抱いてる男も多いらしいけどさぁ」


 病的で性的にも聖女フェリアが大好きで毎朝こんな事やらかす痴女だって知ったら、百年の恋だって絶対冷めると俺は思う。下着だけだからこそ隠しようもないスタイルの良さ。身をよじる度に弾む胸はうちのメイドの一人があんなのは大きすぎて引くと言っていたものの俺からすると十分許容範囲だった。


「おふぉぉぉぉ、へり、へり、へりあはまぁぁぁ」


 うん。ただ、現在進行形な朝の奇行と言うか痴態を加味すると、これを許容できるのはよほどの大物だよなぁと思ってしまう。


「そして、現状俺はその大物になるしかない状況下なのですが……」


 選択肢はきっと大きく分けて三つくらいだ。婚約者を更生させるか、これに目を瞑って受け入れるか、さすがに無理と婚約破棄するか。


「突っ返すのは無理、かな」


 この酷さを見せつけられれば聖女が俺にこれを押し付けた理由がわかるから。貞操の危機を覚えたんだと思う、鈍い俺があの聖女だったとしても流石にこれは危機感を抱いただろう。


「今思えば出会った時からあの聖女には振り回されっぱなしだったけど……」


 この従者については同情すると続けて回想に突入したって許してほしいと思う。俺はまだこの日常になれていなかったのだから。

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