第2話 才ある者

 本があった。


「なんだこの本......」


 オンは恐る恐る手に取り中を開いた。するとそこには「《木林》植物成長」「《魔攻》自然操作」と書かれていた。


木林もくりん》とは一般的な生活によく用いられる生活魔法で、他にも《火炎かえん》、《水湖すいこ》、《光閃こうせん》、《闇漆やみしち》などがある。


魔攻まこう》はその名の通り攻撃魔法のことであり、他にも《魔防まぼう》、《魔特まとく》などがある。

《魔特》とは、炎で攻撃するといったものと違い、精神に干渉したり、魔物を使役するといった少し特殊な魔法のことである。


「なんかいっぱい書いてんなぁ~」


 オンは生活魔法程度の知識はあるが《魔攻》のような専門的な知識は持っていない。

 なのでその本を読んだとしても理解できないので《魔攻》を習得することは不可能......




 のはずなのだがオンはこれをどうやったのか感覚的に理解し、「植物成長」を行使したのだ。


「ほいのほいっ」という気の抜けるような一言と共に。


 なんせここに集められたのは才ある者のみ。

 つまりオンにも才能はあるのだ。


 だが本人はその事をいまいち理解していない。

 感覚的に理解できても論理的には理解できてないようだ......


 そのため「なんかラッキー!」程度にしか考えていなかった......




 さて、階級で位置付けするなら『中級』相当の魔法を感覚的に理解したオンは試しに「なんかラッキー!」程度の考えで魔法を行使する。


 魔法を行使するには、頭で「どのようにしたいか」思い浮かべるだけ。魔法について理解すれば然程難しくはない。


 オンは「《木林》植物成長」を行使する。するとすくすくと木から樹へと成長を果たした。


「ほいのほいっ」

「俺の魔力使っておっきく育て~」


 木に向かって語り掛けるその姿はなんだか微笑ましい。


 続いて「《魔攻》自然操作」を行使。

 これは本来、植物を攻撃や拘束に使用するものだが、オンは新たな使用法を編み出した。


「ちょいのちょいっと」


 なんとも変わった一言を発しつつも、やっていることは非常に画期的なもの。

 先程「《木林》植物成長」で逞しく育て上げた草たちを「《魔攻》自然操作」で自在に操り、住処を通り越し森全体を使った自然の要塞を造り上げたのだ。


「男のロマンだ!」


 一見してなんの変哲もない森なのだが中は迷宮の深階層のように複雑になっており、それらを怪しまれないように草木や蔓などでカモフラージュされている。

 その中央に立つたくましい木は内部がくり貫かれており、ひと1人が生活するには申し分ないスペースが確保されている。


「ちゃんと過ごせるな。よし!」


 これは全参加者の中で最高の住処(要塞)だろう。そう易々とは見つからない筈だ。


 ちなみに内装は無いそうです。


 .........オンは魔法をかなり行使したので魔力はほぼ空だ。

 今の環境の中、限界まで行使しぶっ倒れて知らん間に殺られちったぜ!なんてことは避けたい。


 なので今日はなにもすることが無く、森の探索時にあらかじめ、葉や草を集めていたのを寝床代わりに、就寝となった。




 さて、サバイバル生活2日目となる。

 葉や草を集めただけの寝床で寝たオンの感想はというと、


「痛ぇ......」


 とのこと。草をかき集めただけの寝床の厚みは1~2cmほどで、ほぼない。

 前の世界のサバイバル生活では市販の簡易寝床を使用していた。この草を寄せ集めただけの寝床は痛くて当然だろう。


 なのでオンは真っ先に、まともな寝床を用意しようと考えた。体を起こし、立ち上がったその時ついに奴は唸りを上げた......


 その「奴」とは一体誰なのか......


 それは今解き明かされる......


 そう......奴とは......


「腹の虫」だ......


 破壊神に呼び出され住処を造り就寝するまでオンは一度も口に物を入れていなかった。そのため非常に腹が減っていた。


「父ちゃんが「空腹には絶対なっちゃいかんぞ」って言ってたな」

「やべぇぞ......早く食いもん探さなきゃ!」


 今の環境で恐れるべき状態になってしまったオンは食糧を探そうと外へ踏み出した。


 まだまだ課題は山積みだ。




「複雑にし過ぎた......見つかんねぇ......」


 しばらく歩くも食糧は見つからない......オンは今自分で作った罠に自分でハマった状態にある。

 とここでまたもや画期的な案を1つ思いついた。「《木林》植物成長で木を急成長させればいいんじゃないか?」と。


 思いついたことは即座に実行するのがオンという男。


 拠点に近いところへ戻ると、早速、近くの木を成長させることにした。今回は前回と違って大きな木の実が生るようイメージする。


「ほいのほいっ」


 すると見事な木の実をつけた立派な樹ができた。高さは拠点の樹の半分ほどだが大きな違いがある。

 それは葉がより一層生い茂っており、枝には沢山の大きな果実が実っているという点だ。


「落ちろ~!」


 ゆっさゆっさと樹を揺らすと果実が雨のように降ってくる。オンはそれを両手いっぱいに抱え3往復もした。

 これでしばらくは食糧に困らないだろう。




 果実を鱈腹食べ終えたオンは寝床製作へと戻る。時刻は昼前、先ほど腹は満たしたので心配はない。


 早速作業へ取りかかる。「《木林》植物成長」で必要な素材を集める。


 自分が乗っても平気なくらい丈夫な樹


 首から下を覆えるような葉


 長く伸びた草


 これで材料は揃った。後は組み立て。これには「《魔攻》自然操作」を行使する。


 丈夫な樹を使い寝台を組み立てる。オンが寝ても少し余裕のあるサイズ。

 長く伸びた草を細切れにしていく。ゴミ袋2つ分ぐらい。

 大きな葉を繋ぎ合わせ袋の替わりを作る。これも2つ。


 そして、細切れにした草を葉の袋に入れ閉じる。

 これで布団の代わりはできた。それらを寝台に乗せ蔦を使い崩れないよう、固定していく。

 最後に装飾を施すと完成だ。


「できた!!!」

「ん~ふかふか~」


 素材集めは「《木林》植物成長」が、細かい作業は「《魔攻》自然操作」が役に立った。


 これだけ魔力を使ったのにも関わらずぶっ倒れていないのは前日の住処造りのおかげ。

 なぜかというと魔法を使うごとにイメージが明確化され、魔力の無駄使いが減ったからである。


 使えば使うほど熟練度は上がるということだ。


 ここで他の参加者の様子を見ていこう。

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