魔法を極め、生き延びろ!

うゆ

第1話 滅茶苦茶

 突如としてその平地に1人の青年が現れた。


 その青年は小綺麗な服装で、いかにも「好青年」といった感じだ。


 だがその青年は辺りをキョロキョロと見回し、落ち着きがない。

 その様子から故意で現れたわけではないというのがわかる。


 またもやその平地に1人?


 人のような外見をしているがその人?から放たれる雰囲気は異様だ。漆黒と言えるほど黒い鎧を着ており、頭にも同様の兜を被っている。関節などといった鎧で覆えない部分までも黒だ。


 これにより青年はさらに落ち着きがなくなった。


 それを見た異様な雰囲気を放つ人?は一言。


「そこのガキ。名を言え」

「『オン』だ。オンという」


 人?は高圧的な言葉を放ったが青年、『オン』はそれにより冷静になれ、落ち着いて言葉を返した。

 この青年......見かけや態度によらず肝が座っている。


「ほう、高圧的な態度をとったのにも関わらず冷静に対処するか......面白い」

「よし。我はお前が気に入った。なので特別に名を教えてやろう。我が名は『破壊神 ディスト』」


 その名を聞きオンは直ぐ様身構える。


 それもそうだろう。『破壊神』などと聞けば自分は殺されると思うのが先だ。

 それを聞いても身構えないのはよっぽどの阿呆のみ。


 だがディストは危害を加えないという意思表示として両手を挙げてヒラヒラさせている。


「本当か?」


 オンが確認をとるとディストは


「我はな」


 なにか意味ありげな返答が来たことでオンの警戒はさらに上がることとなった。


「まあ待て。今から直ぐ様お前が死ぬわけではない。だから話を聞け」


 と言われ、オンは渋々といった形で構えを解いた。


 そこからはこれまでの経緯が話されることとなった。




 時間ときは遡り今から500年程前。

 人による文明は栄え、神々も「このまま行けば安泰であろう」と考えていた矢先、人の好奇心、探求心が神の想定しているよりも上だったため、神の定めた『ことわり』おも越える存在を造りあげてしまったのだ。


 神が理を定めるのはそれ以上の者が出てしまうと神が潰されかねないから。そんな存在に打ち勝つべく、神々は己の持てる力全てを注ぎ込み、戦い、勝つ!


 ......筈だった。だが製作者は人間、ここでまたしても神の想像を越える出来事が......それは神の『特技ちから』『技術わざ』を全て吸収したのだ。神々の持てるものを吸収する。

 即ち神々よりも格上の存在となったのだ。

 これにより神々は成す術もなく潰された......


 それから100年程経った頃、破壊神が現れた。


『破壊神』とは神々が己の世界へ手を加えたときに何かしらの不具合があり、超常的な力を持った者が造られたとき、その者を消すべく造られた神なのだ。


 ......はて?なぜ『全てを吸収する存在』が造られた際、破壊神が動かなかったのか.....


 それは『が産み出したもの』だったからだ。創造神からは『の不始末の対処』としか伝えられていなかったためにここまで動いてこなかったのだ。

 流石にここまでの惨事が起きているのに動かないのは人としてどうかと思うが神は人智を超越している。

 その際にでも人間的な発想は捨ててしまったのか、世界のことなどどうでもいいのか分からないが、創造神は破壊神を眠りから覚まし、一言。


「この世界をお前にやろう。この惨状だ。どうとする気も起きない。」

「それから、あそこにいる人造物は人の造り出したものだ。あれはなかなかに面白いぞ。少し手合わせするというのも目覚めたばかりのお主にはちょうどいいだろう」


 破壊神は言われた通り手合わせをした。

 それは創造神の言う通りとても面白いものだったと破壊神は話す。

 それについてはまた後程話すとしよう。


 一通り説明を終えた破壊神は本来の目的を話す。


「......とまあこんなものだ。さてこれから本題に入る。」


 と言われ、オンは唾を飲む。


「単刀直入に言おう。これからお前にやってもらうのは殺し合いだ。」

「え?」


 思わずオンは聞き返す。それもそうだろう。いきなり歴史について話された後に「殺し合え」などと言われれば誰でも同じ反応を示す。


「殺し合うってあんたと?」

「なにを言う。中途半端な知識しか持たぬ人間ごときに神が殺られる訳ない」

「なら誰と殺し合うんだ?」

「それはこの島に30人程、人を送った。そいつらと殺り合ってもらう。」


 しばしの沈黙。だがディストは急かそうとはしない。


「ああ、解った。やろう。」


 オンは意外にも冷静でいた。

 それはこの異様な雰囲気を放つ破壊神を前に、生き残るためにはこの殺し合いで他を蹴落とさなければと本能的に理解したからだ。


 とは言ったもののオンは人を殺す術など持ち合わせていない。


「だが俺は人を殺す術を持っていないぞ?」

「ああ、知っている。だからこの島にその術を学ぶためのものを用意した。それらを駆使し、殺し合え。」


 あまり気の進まなかったオンだが破壊神の次の言葉で一気にやる気がいてきた。


「生き残ったあかしにはなんでも好きなものをやろう」






 ディストと別れたオンは、素早く島の探索を始めた。


 まず生き残るためには武力が必要......

 だがそれよりも優先すべきことがある。


 それは『衣食住』を整えることだ。


 人間誰しも服がなければ風邪をひく、飯がなければ死に至る、住処がなければ安心して寝れもしない。

 人間である以上、生物である以上これらは必須なのだ。


 前の世界では父の魔物狩りに付いて行き、ひたすら素材を集めるということをしていたので、幸い、オンはそういったサバイバル生活のような環境に慣れていたからこのようなことを思いついた。

 だが他の参加者で若い者はこれに気づくまで少しの時間を用することとなった。




「寝床にいいとこねえかなぁ」


 さて、オンはまず『住』を整えることにした。

 オンの立っている平地、半径10メートル程の円形で、くりぬかれたようになっているところは、住処を造るには目立ちすぎる。


「ここじゃダメだ。俺すぐ死んじゃうよ」


 いつその命が刈り取られるかわからない中、ドン!と城を構えるようにでも建てたのなら、その翌日には城の主が代わっているだろう。


「木を隠すなら森の中」とあるように住処を他者からバレないところへ造る必要がある。ということでオンは辺りを見回す。


「んー......なんもねえな」

 しばし辺りを見回すと

「おっ!あそこなら安全かもしれねえ」


 森を見つけるまでそれほど時間はかからなかった。


 だがこの平地から森までは距離があるため、移動には時間がかかる。そのため少しの移動時間を用することとなった。


 ......しかしこの男はサバイバル生活をしてきた男。一秒足りとも無駄にはしない。


「あの平地......結構役に立ちそうなんだよなぁ」


 間近で父の戦略を見てきたオンは頭を回転させ、この平地を何かに使えないかと考えた。

 平地という地の利を生かした戦略、他の参加者の状態、生物の心理......森が目前となった頃、それらを組み合わせ1つの作戦を思いついた。


「思いついた!」

「これなら父ちゃんもギャフンと言わせられるぞ!」


 その作戦は、記念すべき?オンの1人目の殺害のときに分かるだろう。


 さて、森に着いたオンだが住処を造るには自然と同一化したような外見にしなければいけない。


 幸いこの森は木々が生い茂っており、探索の困難なジャングルのようになっていた。

 ならばその自然を生かし、木の中に住処を作ろうとオンは考えた。


 そうやって住処に出来そうな太い木を探して数十分。やっと住処に出来そうな良い木が見つかった。


「これならいいかもな。この森歩きにくいから誰も近寄らないだろうしちょっと太い木ぐらいじゃなんとも思わんだろう」


 と、オンが選んだその木からは太く、たくましい印象が残る。その印象はなにか精霊でも宿っているのではないか?と思わせる程である。


 住処を決めたのでオンは早速安全を確保しようと辺りを見回した。


 すると近くの草の中に、途切れながらも光るものがあった。


「なんだあれ?」


 木々に遮られ光の届きにくいこの森、その中で途切れながら光るものはさぞかし不気味に感じただろう。

 そんな気持ちを抑えながらも安全を確認したいため、オンは近づいて行った。


 ジリジリと近寄り、草の前まできた途端後ろから何かが動く物音が!


「なんだ!!」


 オンが素早く振り替えると......




 そこにはリスがいた。オンが勢いよく振り返ったためか、リスは慌てて逃げて行った。


「よかったぁ~」


 魔物でなかったと安心したところで草へと向き直る。途切れながらも光る不気味さは健在だ。

 しかし勢いよく振り返ったとき、何も動きを示さなかったため、オンは少し警戒を解きながら草を掻き分けた。




 その先には緑の宝石とも魔石ともとれるような石の付いた本があった。

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