Episode_2
不思議な夢を見た。
朦朧とした意識で真っ暗な空間で体は不安定に浮いていた。
光も音も何も無い、暗黒。
意識がだんだんハッキリとし、目が暗闇に慣れると変化が起きた。
小さな点のような光が現れた。
少しずつ大きくなってまるで私に向かってきているようで、恐怖から逃げようとする。
しかし、もう逃げきれないと思った瞬間。
光と衝突し、暖かい光に包まれた。
唐突な光に目を瞬かせていると、景色が乳白色から少しずつ、いつの日か映像で見た事のある宇宙の光景に切り替わる。
空気もないのに、私は宇宙を高速で飛んでいた。
火星を過ぎ、木星を過ぎ、土星を過ぎ…と繰り返し、とうとう私が知っている準惑星になってしまった冥王星を通り過ぎると後は名も知らぬ惑星を通り、太陽系を出てしまったようで。
初めて見た銀河系は映像で見るより遥かに美しく神秘的で、私の存在がちっぽけに思えた。
周りには太陽系のような小さな銀河系が散りばめられている。
なんて美しいんだろう。
そう思っていると、巨大な銀河が目の前に現れた。
数え切れないほどの眩しい星々が網膜を焼くように力強く輝いて。
あまりにも荘厳でいつまでも続く星々に向かって手を伸ばしてみる。届くはずもないが。
そんな私を無視して星々を過ぎ去る速さは更に加速していった。
強大な何かは私を導いて見知らぬ場所へ連れていこうとする。
周りに輝いていた星々が消えていき不安が湧いてくると、目の前に真っ暗な穴のようなものが現れた。
ブラックホール。
頭の中をその言葉が過ぎった瞬間、体がより勢いを増して吸い寄せられていった。
巨大な引力に抗える訳もなく、吸い込まれていった私はそこで意識を手放した。
▲▽
目を覚ますと私の体は見知らぬ花畑に横たわっていた。
起き上がり周りを見渡すと、そこはまるで私がいた隠れ家から見える景色とそっくりで驚きを隠せなかった。
目の前には、隠れ家が新築の家のように白塗りの壁に赤い屋根をつけてそこに鎮座している。
私は走って隠れ家に行き、恐る恐るドアに手をかけ、捻るとドアは呆気なく開いた。
ゆっくり開け、中に誰も居ないことを確認すると室内に入る。
室内も地球の隠れ家とは見違えるほど綺麗になっていた。
アンティーク調なソファやアームチェアなど洋館に入ったような見知っている所とは別の場所だと思い知らされる。
中に入ってひとつひとつじっくりと美しい家具を見ていると不意に声をかけられた。
「おや、お客さんかな?珍しいね」
「ノックもなしに入ってくるとは失礼だな」
驚きのあまり心臓が止まりそうになりながら、恐る恐る振り向くと不思議な2人組の少年がいた。
1人は青い髪に黄金の瞳を持つ、陶器のような肌の端正な顔立ち少年。
穏やかな笑みを口元に浮かべている。
もう1人は、燃えるような赤い髪に黄金の瞳を持ち、健康的な肌の端正な顔立ちの少年。
少し苛立っているのか眉がつり上がっている。
「あの、勝手に入ってごめんなさい…」
私は申し訳ない気持ちと相手の美しさのあまり顔を下に向けながら小声で謝る。
「あーほら、あなたがそんな怖い顔をしているから彼女が怖がってしまいましたよ?」
「あ?不法侵入してきたのはこいつだろ俺は何も悪くない」
2人が言い争いになりそうなので慌てて
「い、いえ!私が悪いんです…ごめんなさい出ていきますから…」
と言った後に、帰り道が分からないことを思い出し肩を落とすしかなかった。
そんな私の様子を見て何か心得たのか、口々に
「もしかして帰り道が分からないのかい?なら、まだ此処にいた方が得策だね」
「全く、久々に厄介な事持って来やがって…
仕方ねぇな、少しだけ此処に置いてやるよ」
そう言うので、甘えることにした。
▽▲
「僕の名前は、
「俺の名前は
お互いの自己紹介が終わったところで、どうやって此処に来たのか質問されたので経緯を説明する。
2人は暫くの間深く考える素振りを見せたが、すぐ元の顔に戻る。
「此処は時間の感覚はない。多分どれだけ此処にいようと君のいた場所に戻った時、時間は経ってない。そういう場所なんだ此処は。」
「まぁ、お前を此処に連れてきた奴の正体は知ってるがそんな事はどうでもいい。問題は何故此処に来れたかが不思議だ。お前で4人目だよ。」
同時に話し始めるので混乱したが、2人が話している内容も充分に理解出来るものでは無いので頷くことしか出来なかった。
「まぁ、帰れるタイミングは俺達が教えてやるから安心しな。此処には敵も何も居ねぇよ。」
「ゆっくり紅茶でも楽しんでくれて気長に待ってれば良いんだよ、なんなら此処にずっといる?」
「おい!こいつが戻れなくなるだろ!冗談でもやめろ!」
「おっと、ついね。急に連れてこられたんだし緊張しているようだからリラックスさせようかと」
「あ、ごめんなさい!お気遣いありがとうございます…」
2人の心配してくれる様子に嬉しくなり、差し出された紅茶を飲んでいたら少しずつ落ち着いてきた。
「本当にありがとうございます、此処に置いてもらう代わりに何か私に出来ることがあったら何でも言ってください!」
「君は客人だから何もしなくても良いのに…じゃあ何か困ったことがあったら頼ろうかな」
「そうだぞ、特に何もしなくていい。自由にしていてくれ。」
そう言われてしまったが、さすがに申し訳ないので
「じゃあ困ったことがあったら遠慮なく頼ってくださいね!体力だけはあるんで!」
と念を押しておいた。
「わかったよ、鈴」
「急に元気になったな、お前」
2人は少し呆れてしまったが、背に腹は変えられない。
「それじゃ、飲み終わったらこの家と周りを紹介してあげよう」
「体力あるならしっかりついてこいよ、案外広いからな」
そう言われたので、好奇心が湧いてきて紅茶を早く飲み終わってしまおうとそちらの方に意識を向けた。
彼らがほんの少しだけ複雑な表情を浮かべていることに気づけないまま。
▽▲
見れば見るほどに周りは私のよく知る、生まれた時から住んでいる街にそっくりだった。
しかし、住んでいる人たちはみな知らない人で、異なっている場所もあったので似ている別の場所なんだと思い知る。
私の住んでいる家も街を散策している間に見たが、やはり別の家族が住んでいた。
休憩に2人の行きつけの喫茶店に入ってみる。
おすすめのケーキとマスターのコーヒーを頂いたがとても美味しかった。
夕食の支度のため街で一通り食材を買うと、私たちはあの隠れ家へ帰ってきた。
帰ってきて一息つくと、散策は楽しかったが久々に歩いたのでやはり疲れや筋肉痛が足にきていた。
「疲れた顔しやがって。ほら、言った通りだろ?」
昴がそれ見た事かと言いたそうな顔で得意げに言ってくるのはイラッとしたが、
「お疲れ様。はい、これ。あげるよ」
と言って、綺麗な星のブローチを慧が寄越したので驚いて、
「こんな綺麗なブローチ私には勿体ないよ」
謙遜しながらこんなことを言った。すると、
「そんな事言わずに受け取ってよ、鈴のために選んだんだ」
なんて慧が言うもんだから照れながらも有難く受け取ることにした。
▽▲
夕食を食べ終え、慧が淹れた紅茶をゆっくり飲んでいると2人から今から天体観測をしないかという誘いを受けた。
断るはずもなく、3人で野外にでる。
見上げると地球で見るより多くの星々が輝いていた。
一つ一つの輝きが強く、まるで全部が一等星のようだった。
しばらく眺めているとある1点の星を気になって見つめる。
同じような輝きをしているのに、何故か気になってしまう。
すると、不意に睡魔がやって来てまるで此処に来る前のような感覚に陥る。
落ちる前に声が聞こえた。慧と昴。2人の声が。
「もう鈴は元の場所へ帰らなきゃ行けないみたいだ。黙っていてごめんね、また来れたらおいでよ、歓迎する」
「本当に少しの間だったけど楽しかった。慧はあんなこと言ってるけど此処に来れるなんて普通は無いんだからな、あっちでも頑張れよ」
私を気を遣いながらも少しだけ寂しさが混ざった2人の声に、言葉を返そうと口を動かそうとしたが声が出ず、伝えることは出来なかった。
浮遊感が体を包む。
近くにいた2人がどんどん遠のいていく。
また此処に来たい。2人に会いたい。
そう思いながら睡魔に身を委ね、意識を失った。
夜空に呑まれた一等星 菓詩 ゆきな @yuki_usagi_oO
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