第2話「人はどうしてこんなにも罪を重ねてしまうのか」

俺は錬金術師だ。

その名の通り、金を錬成できる。

当然だが、創れるのは金だけじゃない。

この世界に存在するもの、俺に錬成できないものはない。


「ししょー!王都いきたいです王都!」


だが、“望まずして錬成してしまったもの”も中には存在する。

俺の目の前に現在進行形で存在している“これ”も、まさしくそのひt「ししょーししょーししょーししょー」


「うんごめんねミストちゃん、俺の独白に割り込むのやめてくれる?」


「嫌です!だってこうしないとししょー構ってくれないじゃないですか!」


そう、このかまってちゃんの性格だって俺が望んだものだ。

見目麗しい姿に愛らしい声、甘えん坊な性格。俺はそんな女の子が好きなんだ。


でもこんな幼女になるだなんて聞いてない!

心を読めるだなんてもっと聞いてない!


「諦めてください。ししょーの理想がこの私なら、

 ししょーがどう思おうと、私がししょーの理想なんです」


認めたくない。


「すなわちししょーは潜在的に、年上のお姉さんキャラではなく!

 私のような、年下の妹キャラを望んでたってことです!」


びしっ、とミストが人差し指を突き付けてくる。

その表情はさながら論破しきった弁護士のごとく。


いやいやいやいやいや待て待て待て。

確かにロリっ子は好きだ。否定はしない。だが冷静に考えてくれ。

20代半ばに差し掛かった俺が、一回り年下の女の子を好きになったとしよう。

それを見て世間はどう思う?


──間違いなく言われるであろう人格否定が4つある。

「ロリコン」「変態」「キモい」「さっさと死ね」


それどころか、「そのために錬金術師になったんだろ?」とかいわれのない醜聞を受けかねない。


いや、確かにね?

そういうこと言われないために、こんな深い森の中に住み始めたんだよ?


でも、そういう問題じゃなくてね?

ほら、こう……倫理的な問題があるんだよ!分かるだろ!分かれよ!


「お悩みのようですね、ししょー。でも安心してください!

 偶然にもししょーは金髪、そして私も金髪!

 だからほら、こうやって並んでみればー」


ミストがこちらに歩いてきて、俺の腕を取って組み、手鏡で二人の姿を映す。

俺も顔はなかなか整っている方だが、どうあがいてもミストには負けるなとか。

流石に俺の理想なだけあって、柔らかいしめちゃくちゃいい匂いするなとか。


そんなことを思ってた矢先。


「兄妹にしか見えません!ねっ!」


えへへっ、と小さな笑い声を漏らして、ミストが俺に満面の笑みを向けてきた。


率直に言おう。無理である。


しつこいほど言っているが、今現在この俺と肉体的に密着している少女は、俺の理想の姿をしている。

君も一度考えてみてほしい。もし自分の理想の女の子が、自分と腕を組んでいる状態で笑顔を向けてきたら。

その理想というものが、一片の曇りなく自分が望むものすべてを満たしているのだとしたら。


もう一度言おう。無理である。


というか、俺今まで女性経験ないし。

まともに女の子と触れたの今が初めてだし。

そんな俺がこんなの耐えられるわけなくね?


――


――――


――――――


「……て…………お……し…………」


薄らいでいた意識が鮮明になっていく。

遥か彼方遠くの方で、俺を呼んでいる声が聞こえる気がする。


「────ししょー!起きてください!しーしょーおー!おきてー!」


「はっ!」


がばっ、と効果音が鳴るぐらいの速さで身体を起こす。

さっきまで居間にいたはずだが、今は私室のベッドに寝かされていたようだ。

傍では俺の理想の女の子、ミストが心配そうな……いや、怒ったような表情でこちらを見ていた。


「もー、私がいくら魅力的だからって、いきなり気絶しないでくださいよ!

 介抱するのだって大変なんですからね!まったく……。

 …………あんまり心配させないでください……」


気づいたら、その表情はまた心配そうなものに戻っていた。


そうだ。俺の理想ということは、この子は俺のことが誰よりも好きなのだ。

どんな事情であれ俺の身に危機があれば、この子は誰よりも俺を心配してくれる。


自分勝手な思いで創り出したくせに、そんなことすら忘れていたのか、俺は。

錬金術師失格だ。


「……ああ。ごめんな、ミスト。

 俺が悪かったよ。お詫びになんでも…………。」


言ってる途中で気づいた。これは失言だ。間違いない。

慌ててそれを取り消す言葉を俺が紡ぐ前に、ミストがその言葉を遮った。

俺のアルケミスト・アイは、彼女の顔がおもちゃを見つけた子供の顔に変わったのを見逃さなかった。


「あっ、言いましたね、なんでもって!

 じゃあ王都に連れてってもらいます!王都!王都!いえーっ!」


俺が何かを喋る前に、一方的な主張は有無を言わさず捲し立てられる。

無邪気な子供のように(事実無邪気な子供だけど)はしゃぐ少女は、ハイテンションで俺の私室を出ていった。

当然、彼女が部屋を飛び出す前に、俺が介入する余地などあるわけもなかった。


「…………終わった……」

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天才錬金術師の俺は、静かな暮らしを創りたい @ORSP

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