第1話「お前、それ本気〈マジ〉で言ってんの?」

俺は錬金術師だ。

その名の通り、金を錬成できる。

当然だが、創れるのは金だけじゃない。

この世界に存在するもの、俺に錬成できないものはない。


そう、錬成できないものはない。

これが意味するところはすなわち、俺は“理想を創れる”のだ。

だから俺は――――“理想の女の子”を想像し、創造した。


今考えれば、なかなかに愚かなことをしたなと思う。

同時に、知的生命体を創ることは二度としないと誓った。


しかし、あの時の俺は本当にバカで、どうしようもない奴だった。


理想というものに夢を思い描いて、

それが実現できると、本気で思い込んでいた。


さて、そんな俺の理想とは、一体なんだったのか。

かつての俺の過ちは、数か月前に遡る――――


――


――――


――――――


人間社会が煩わしくなった俺は、人里離れた森に住み始めた。

最初の方は、人間関係のしがらみがなくなった解放感に満ちていた。


だが、そんなのは最初だけの話だ。

次第に孤独である事実が、俺に途方もない寂しさを与え始めた。

人との関わりを絶って1か月、俺は今まで考えなかった禁忌に手を染めた。


そう、人体錬成だ。


俺は何でも創れる。だが、今まで人間を創ることはしてこなかった。

何故かって?そりゃ、人体錬成なんて倫理的に問題あるからに決まってるだろ。

まあ、そんな倫理を無視するほど、俺は追い詰められていたってことになる。

あ、メンタル弱すぎって突っ込みは要らない。分かってんだよそんなこと。


さて、人体錬成をするにあたって、どんな人間を創るかを考えなければならない。

だが、考えるまでもなく、選択肢は一つだった。


「出でよ、俺の“理想の女の子”っ!」


周囲のあらゆる物質から、思い描いた理想を錬成する。

面倒な魔法陣とか、細かい手段は一切要らない。

天才である俺は、念じるだけですべてを錬成できる。


――――そう、俺は天才だったんだ。


ああ、当然だが。俺はしっかりしているので、服も同時錬成している。

一応、雑誌(これを手に入れるためのアイテムも創ってある)に載っていた、

最近王都で話題になっているらしい、トレンドファッションを参考にした。

それを見る限りでは、薄い色を基調としたフリルの多い服が人気らしい。


さて、本題に入ろう。端的に言うと、錬成は上手くいった。

そう、つまりそこに現れたのは、俺の“理想の女の子”なのだ。


「……?」


眩い光と共に、一人の少女が俺の目の前に顕現する。

腰ほどまで伸びた、月のように輝きを放つブロンドの髪。

長い睫毛と、その下に潜むエメラルドのような色の瞳。

桃色がかった柔肌は、跡や傷の一つもない。


それはいい。俺の理想だ。うん。それは理想なんだ。問題はそこじゃない。


「……!ししょーっ!」


その“かなり幼い少女”は、笑顔で俺に飛びかかり抱き着いてきた。

ぐらりと体勢を崩しかけるが、それなりに鍛えているので倒れはしない。

少女は妹と呼ぶにもかなり幼く、20歳を過ぎた俺より10歳は年下に見える。


は?俺の理想はボンキュッボンのナイスバディなお姉さんだったはずなのだが?


「やばいですよししょー!この世のぜつぼーを煮詰めたかのような顔してますよ!

 あ、おなか空いてるんですね!私が今からごはん作るので待っててください!」


目の前の少女が、とても可愛らしい声で捲し立てる。

俺が反応する間もなく、少女は奥の調理場へと消えていく。


これは……悪い夢だろうか?

というか待て少女よ。俺は自分で飯を錬成できるからわざわざ作らんでいい。

何かやってくれるなら掃除とか洗濯とか、そういう手間のかかる家事を頼む。


「あ、はーい!」


え、こいつ、俺の心読めるの?


「ちょっとだけならー」


…………少し休ませてくれ。


「わかりましたー!」


――――――


――――


――


まあ、大体そんな感じである。

俺は天才錬金術師だし、人体錬成だってお手の物だ。しかし。

“理想”という曖昧な定義で錬成するとこうなってしまうんだ。


恐らく、次やるときは、明確に定義すれば問題は無いだろう。

しかしこの一件は、俺の豆腐メンタルをぐちゃぐちゃにしてくれた。

そもそも人体錬成なんぞ二度も三度もできるか。家族はそんなに要らねえ!


「もー、ししょー!自分語りはほどほどにしてください!」


なお、例の少女(適当にミストと名を付けた)は、

“普通の椅子”に座り、王都の雑誌を読んでいる。


「……心を読むのは構わん。好きにしろ。

 でも、頼むからこっちの事情に介入しないでくれ」


「え、嫌です」


……一体、どうしてこんなことになってしまったんだ。

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