功勲在らねど首は存野
強がって、立ち上がった幼い日。その厚みを実感などできない、一枚また一枚と
木刀を振り続けた
「もうやめてしまえ」と、自分の中の自分が言う。
誰もお前に期待をしていないのだ、と。
知っていた。そんなものは知っていた。
こんな鍛錬に意味などない。どれほど月日を重ねても。どれだけ剣を振るっても。
届かないものは届かないのだ。
絶望の
……どれだけやっても構いやしないのだろう? 別に。
見限られた未来。奪われた現実。
「、〈
命の使い道は今この瞬間。無様に
――果たして
地に堕ちた
/
……数瞬。
連中は死力を尽くした。まではいい。それで
今更何をしようが世界が変わることは無い。可能性は絶無。尚も
現世への
一歩。真っ赤な
「あさ、か、さま……!」
救いを求めるように伸ばされた
差し出した一本の脇差の柄だった。
受け取って進む、次の一歩――その瞬間に、写し絵の色が塗り替えられたようだった。
彼岸を
(何が――何が起こった!?)
『……あの一門が、過去に何をしでかしたか忘れてなぁい?』
〈於宇姫〉めの末期の言葉を
「ッッッ
この地は! 深山は! 霊脈を奪取し完全に落とした! もはやこの世ではない! たった百ばかりの
そう。そればかりは絶対だ。総数を競った時、現世はこの傾ききった
――だから百鬼はその名の由来を実行した。
十二名と三十六本。開かれた霊脈からは文字通り無限に等しい霊魔が
怪異を全数
百鬼夜行を消した者ども。
神話に
その領分線を
『
『こ、の、
三歩目にして必殺の間合い。朝霞神鷹は、不意に昔のことを思い出した。
いつかも、何度もこうして諦めそうになった。
手を離せば楽になる。そんなことはわかりきっていて。だというのに、木刀を握る手が、どうしたって離れない。
――誰かの。自分のものよりも、もっとずっと大きくな手が。
(いいえ、いいえ。ここからですとも。)
そう、諦めそうな僕を諦めない誰かが、優しく包むように。
見えない手。聞こえない声。実在するかどうか、僕には確かめる
思い返せば、
肩に入った一本。幼い日の椿は初めての黒星を、当たり前のように受け入れていた。
なるようになるべくしてなった、とでも言うように。
「――〈
ありがとう、と。
斬るより先に
鮮やかに過ぎる。こんな
その、刀としての賞賛よりも。
『……
神域に踏み込んだ
『呪おうぞ、
ついに上った朝陽に霞み、朽ちていく
「
取り戻した
「――刀のくせににべらべらと良く開く。貴方には
屋内だというのに、一陣の風が吹いた。具象化された彼岸花が
その、とても現実とは思えない光景の中。
「……椿様……!」
「……椿は戻って来れないよ、律殿」
気を失ったのだろう。死んだように眠る杏李を抱きかかえ、神鷹はもう本当に現世と幽世の関係よりも覆せない事実を口にした。
「だから」
神鷹の続く言葉を置き去りに、否定するように走り出す。痛みを忘れ、昇る朝日よりも早く、早く、早く――もっと早く!!!
涙が滲む。
間に合わない。そんなわけない。絶対に嫌だ。そんなものは見たくない。見たくないです、椿様。
(――頑張れ、律。)
もう聞こえない誰かの声が、ヒトではない四本の腕が。背中を押してくれる気がして。
――そうして。少女は奇跡のような光景を見た。
その
/
そうして、百鬼は百鬼の百鬼たるを実行した。周囲一帯、霊魔の一匹も存在しない。死の空間に
天秤がどうしても生に積み重ねられないのなら。死の総数を減らしてしまえばいい。
そんな
もう、視界には何も映らない。びっくりするくらいに何も聞こえない。最後の方は、上げた声が言葉になっていたかどうかさえわからない。
――〈雪〉に、
これで駄目なら、本当に打つ手がない。神鷹たちが仕損じるとも思えないので、杞憂さえも浮かばない……当人たちからすれば、彼のその信頼は、いっそ強迫と取れる程だったのだが。
(さて。)
左手には〈
百鬼椿は間違えない。間違えることができない。
その為の余力を残す程に、その人生は徹底されていた。
条件に
視えやしないが刀身はこの八年、変わらず在った相棒だ。今更その取り回しを
完成させる断頭台。
――刀霊〈薄氷〉との契約は、これで
だから〈
止める者などこの世のどこにも、あの世のどこにも存在しない。
また、
それでいい。それがいい。
――侵したモノを凡て殺して、築いた
力を込める――そうして、彼の
椿の花のようなあっけなさだった。
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