彼岸を飾る、
「ふん。……どれだけ
つまらなさそうに
血だまりに沈む深山
膝を屈し、それでも〈
そして――最後の一輪も、終わろうとしていた。
「
「かっ……は……」
周囲に
――土台無理な話。それは、そう。この状況は
この地が彼らの手により〈
この地を取り戻すには深山名護と〈生駒〉を
それほどまでに
だからこその何故を問う。
「なあ、〈
『……ッ、……ッッ』
お前もヒトを呪うモノだろう、と。
――よく似た問いをこの口が発した覚えがある、と。
/
結論から言えば、妾はこの男を好きにはなれなかった。
〈魔〉を狩る鬼。ただその為に生きているなどという、凡そニンゲンのそれではない精神性。徹し過ぎた一貫性を。
『……妾は、
『あァ?』
今日イチで下らねェ質問されたわ、と言わんばかりの顔で。
『今日イチで下らねェ質問されたわ』
と言って
『お前さんのことは知ってるさ、〈於宇姫〉殿。有名どころの怪談。乙女の夢、未来を奪う呪いの紫鏡。一等級の疫神じゃあねえか。
怪異殺しの専門種、
――そう。妾の性質は呪いだ。
百鬼が狩る怪異そのものではないか。なのにどうして、と。
『自殺願望あるなら本体を律に持たせて投げさせろ。綺麗に割れて
くっっっっだらねェぜ、と紫煙を吐いた時の顔を、覚えている。本当に、どうしてそんなことを
思えば。妾が能動的に他者を呪い殺したいと思ったのも、これが最初で最後ではなかろうか。
『妙な心配なンかしねェでもお前さんが律に
/
――
『ふ……フ』
『フザケんじゃア、ナイわ、ヨーー!』
「――ほう?」
ぱきん、と
「かはっ……げほっ……こほっ、おう……ひ、め……?」
彼岸の
百鬼椿の
『
覆らない現世と幽世の天秤。生者の数は余りに少なく、死者の数は無限に届く。この抵抗に意味は無い。この激怒は彼女だけのもの。
――
律を抱きしめる。
/
『――どうして刀霊として律と契約した?』
怪異を殺す神を刀に宿した男は問う。解かりきった答えをわざわざ口に出すのも面倒くさい、と。
理由は、ひとつしかない。いやふたつ? みっつでもいい。
どの道、
/
ぱきり、ぱきりと罅が入っていく。
「だめ、やめて、〈於宇姫〉……!」
律の穢れを妾が担う。
割れた
「私を助けないで……独りにしないで……っ!」
残念ながら、その願いは聞き届けられない。
『……たくさん、ヲ。救うん、デショ?』
じゃあ、一番最初に自分自身を救ってあげないとダメ。
「わた、私の未来! あと二年後を、奪って……
『あァ。それネ……律と暮らしテ、思ったケレド』
これは紛れもない事実だ。
『今のアンタじゃ味気ないわ。妾に
少女の姿が
さあ、立ち上がって。そう。いい子。
「……今生の別れらしいが、もう良いか?」
『アリガト。もうイイ』
「そうか。では消えろ、花守と疫神」
振り下ろされる
「……っ! 〈於宇姫〉ぇ――ッッ!」
律が取り戻した霊力と、妾の神気でそれを打ち払う。砕け散る〈
妾は怪談。言われる通りの疫神だ。だから最期に呪いを遺すし、
『言い忘れてたけどね、〈生駒〉?』
律の左手が逆手に
――妾は百鬼椿という男は好きになれなかった。律の
『……あの一門が、過去に何をしでかしたか忘れてなぁい?』
その為だけに生きているという、在り方が。あまりにもニンゲンらしくなくて、好きじゃあない。
「な――に――?」
そう、それ。
好みはこういう、調子に乗った奴が愕然とする貌だ。
(頑張れ、律。)
踏み込みに舞い上がる、彼岸を飾った花の赤。
その中に確かに、深山名護の血液が混ざっていた。
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