誰がために。
――
日に千の命を殺す呪いを。
日に千五百の命を祝うと。
/
広間に
そんな感想を
「ようこそ、花守の諸君。神鷹殿。そしておかえり、
声は上から。広間を囲う階段をゆっくりと下りながら、
とはいえ
「……
お陰で古谷からの霊魔、そして深山に
『――――』
発される憎悪。それも一瞬のこと。髪を揺らして、同じ高さまで降りてきた名護はそっと微笑む。
神鷹は脇差〈
――深山名護。深山杏李の一刀を苦も無く
数は利にならない。
そして圧倒的なその性能差を理解し、息を
「名護殿。これは〈夕京五家〉が一、朝霞の当主として問うべき言葉だ」
誰よりも性能で劣る
「なにかな、神鷹殿」
名護が応じる。
「
どうしてという『動機』ではなくどうやってという『手段』を朝霞神鷹は問う。
霊魔へとなった死者はどれも
――その、見知った誰かの誰とも、遭遇していない。その意味を。
「君が考えている通りだよ、神鷹殿」
果たして、名護はソレを認めた。
「深山本家花守の血と肉、魂を守護刀霊である〈
身内を手にかけておきながら、その言葉を繰る心は表情そのままに穏やかだ。神鷹は
「そうか」
一歩。
「では――!」
神鷹の二歩目を止めたのは、杏李の
「杏李」
「杏李」
義兄と実兄。ふたりの兄の視線が、少女に流れる。
水面に映った月が揺れるよう。黄金を瞳に
「ではどうして、私はっ……私だけがっ! 私だけを……っ」
殺さずに、生かしたのか。
「あぁ、杏李。君は私の妹じゃないか。どうしてと言うのも妙な話だよ」
諭す名護の声は、妹の心配をする兄そのものの色で。
「父も母も七香も、殺したくて殺したわけじゃあ、ないんだよ。霊脈を開くのに必要だったから。そうする必要があったから斬ったんだ、杏李。だって杏李は花守じゃないだろう?」
「――――」
つまりは、やはり必要とされなかったのだ。供物にさえならないのだと。
夕京五家筆頭、深山に生まれた双子。その片方には、
香らない不実の花。
杏李の意識が沈む。律の義憤に火が灯る。
「深山名護殿」
「あぁ、始めようか朝霞神鷹殿」
二歩目が再開された。
深山名護が〈生駒〉を抜いた瞬間に、その首が落ちる。
神鷹を除く、名護本人を含めたその場にいた
一刀の速さはやはり人間の極致。とても目で追えたものではない。その理解が遅い。
速度の問題ではなかった。絨毯に転がる名護の頭は、まだ思考を――『神剣、朝霞神鷹の第一刀をどう防いだものか』、そんなふうに続けている最中。
構え。技の起こり。肉体の連動。それらをこれから行うという『意識』よりも早く。
朝霞流失伝『
〈凪風〉が鞘に納まる音で、夢から覚めるように。
「貴方は杏李の兄失格だ」
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